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29. 奴隷の少女 - 2

 そう、彼女は魔法使いだ、魔導士であるラトスさんやララさん、トスカさん達にははるかに劣るが、その魂の輝きは本物だ。魔力遮断結界の使い方を知らないのだろうか、魂の発する魔力をそのまま感じることができる。

 ラナさんが魔法使いだとすると、色々と納得できる。まず、他にも奴隷がいたのに、なぜ彼女だけが檻に入れられていたのか。なぜ、危険な大草原、それも街道以外の道を通って南の小国からトワール王国まではるばると連れて行こうとしていたのか。すべて彼女が魔法使いだからだ。まず檻に入れていたのは万が一にも逃げられないため。魔法使いなら縄で縛ったくらいでは安心できない。きっと、この檻には魔法を封じる何かの仕掛けが付けられているはずだ。危険を冒してまでトワール王国に連れて行こうとしたのは金になるからだ。魔法使いは国々が喉から手が出るほど欲しがっている物だ。軍隊の人数だけでなく魔法使いの数でも国の戦力が違ってくるらしい(アトル先生の受け売りだが)。特にトワール王国では魔導士であったラトスさんが引退して、魔法面の戦力が大きく落ちた。そんなタイミングでラナさんをトワール王国に連れて行けば言い値で買い取ってもらえるかもしれない。街道を通らなかったのは、少なくとも公式には奴隷売買が禁止されているからだろう。もっとも、それでも売ろうとしたのだから抜け道はあるのかもしれない。特に上級貴族の領地では...。


「それでは檻から出しますね。」


といって私は瞬間移動の魔法を使う。途端にラナさんは檻の外に転移する。驚いて今まで自分がいた檻を見詰めているラナさんに更に言う。


「そのまましばらく息を止めてください。身体を洗います。」


と言ってラナさんが息を止めるのを確認してから、浄化の魔法を発動した。ラナさんの周りを巨大な水玉が包みこむ。水玉の中の水はぐるぐると回って、ラナさんの身体や服から汚れを取り除いて行く。20秒くらいで水玉は消え、後には顔も、髪の毛も服もすべてが綺麗になったラナさんが立っていた。檻の中では座っていたから分からなかったが、立っているラナさんを見ると姉さんより拳ひとつ分は背が高い。それに美人だ。いままで顔が汚れていて分からなかったが、彫りの深い顔立ちが見事な金髪に似合っている。


 あっけにとられて、自分の身体を見回しているラナさんに近づき、耳元であることを囁くと、激しく頷くラナさん。私はラナさんを連れ、早足で天幕を抜け出し居住地の外れに向かう。そこには仮設のトイレがある。檻の中にトイレは無いから困っていたはずだ。ラナさんはトイレの近くに来ると駆け足で飛び込んだ。危ういところだった様だ。助けてもらった兄さん達の前で無様な恰好は見せられないと必死に我慢していたのかもしれない。乙女の尊厳は危ないところで守られた訳だ。


 トイレから出てきたラナさんは、私に深々と頭を下げた。


「イル様、ありがとうございました。御恩は忘れません。」


「気にしないで。それより戻りましょうか。そろそろヤラン兄さんも帰って来るころだと思う。それと様付は禁止ね。こんな小娘を様付で読んでいたら変に思われるわ。」


「でも私は奴隷ですから...。 これが印です。」


と言って、両手の甲にある星形をした刺青を見せる。これが奴隷の印なのだろう。


「そんなのどこかよその国の話よ。私達の草原に奴隷は居ないわ。」


と言うと、ラナさんが不安そうな顔になる。


「それでは私はこちらに奴隷として置いていただけないのでしょうか... 私達の国では主人を亡くした奴隷は、最初に見つけた者の所有物になると法で決められています。お願いです、一生懸命働きますのでどうかこちらに置いてください。」


「それを決めるのは家長のヤラン兄さんよ。でも安心して、ヤラン兄さんは困っている人を放り出したりしないわよ。」


自分達の天幕の近くまで戻ると、ちょうどヤラン兄さんも長老の所から戻って来たところだった。


ヤラン兄さんはラナさんをひと目見て驚いた顔になる。いままで顔も服も汚れていて分からなかったけど、美人だものね。あれ? なんか顔が赤くなってないか? そんなことを考えていると、ラナさんが突然ヤラン兄さんの前で土下座した。


「ヤラン様、お願いです。どうか私を奴隷としてこちらにお置きください。ヤラン様のために一生懸命働きます。」


と言い、額を地面に擦り付ける勢いで頭を下げる。


真顔になったヤラン兄さんが言葉を返す。


「奴隷はだめだ。だが客人としてなら歓迎するよ。ちょうど我家は人手が無くて困っているところだ、働いてくれるなら好きなだけ居てくれたらいい。」


ヤラン兄さんの言葉を聞いて、ラナさんは安心したのかお礼を言いながら泣き出してしまった。これじゃヤラン兄さんがラナさんに土下座させたあげく泣かせた様に見えてしまう。私はあわててふたりを促して天幕に入った。やれやれ、ふたりとも少しは場所を考えて欲しい。6歳児にこんなことを考えさせるなんて、年長者として恥ずかしいよ。

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