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13. 襲撃 - 3

 それから数日し、私達の一族から北の部族との戦いに向かう10人の戦士が選ばれた。 ヤラン兄さんもその内のひとりだ。当然ながら家畜の世話があるので全員で戦いに向かう訳にはいかない。各部族から出来る限りの戦士を出して、カマタチ族長の指定した場所に集合することになっている。他の部族から出てくる戦士の数も同じ位だとすると700人くらいの計算になる。敵は1000人くらい居たから数の上では明らかに劣勢だ。だが、北の部族の捕虜はとても痩せていた。おそらく家畜の数も減っているのだろう。その分多くの戦士を出すことが出来るかもしれないが、腹ペコでは力も出ない。数だけでは勝敗を判断できないかもしれない。


 兄さんを送り出して何日かした夜、ラトスさんから念話で連絡があった。


<< イルよ、元気かの? >>


<< ラトスさん? 旅に出たのでは? >>


<< そうじゃよ、北の砂漠に行っておった。最近砂漠が広がっている原因が知りたくての。そこで原因を突き止めたまでは良かったのじゃが、儂ひとりではどうしようもなくてな。手を貸すつもりはないかな。>>


<< 申し訳ありませんが、今はお手伝いできそうにありません。北の同胞との間で戦が起りそうなのです。>>


<< それじゃよ。北の遊牧民が南下し出したのは砂漠が広がったためじゃからの、砂漠を元に戻せば戦の原因もなくなるかもしれんぞ。>>


何だと? 本当だとすると無視できない情報だ。もっとも仮に砂漠の拡大が防げたとしても、いきなり草原が回復するわけでもあるまい。数年前に砂漠の拡大が防げたならともかく、すでに南下が始まってしまった今の時点では、戦を防ぐことは出来ないだろう。

だが一応原因は聞いておこう。


<< それで、砂漠が広がっている原因はなんなんですか? >>


<< 地竜じゃよ、砂漠の地下で地竜が増えておってな、奴らが魔力で熱を発するものだから地面がどんどん乾燥しておるのじゃ。>>


地竜! 竜だと。それも増えていると言うからには沢山いるのか? 絶望的じゃないか。


<< 無理ですよ。人に竜がどうこう出来るわけがありません。>>


<< おやまあ、お前さんがそれを言うか? >>


<< 当然です。私はただの小娘ですよ。>>


<< 世界最強の小娘じゃがな...。まあ良いわ。じゃがな、このままだと100年後には南の草原も地竜の為に砂漠になっとるかもしれんぞ。>>


<< 何と言ってもだめです。今母さんを守れるのは私だけなんです。>>


そりゃ、一族の将来は気になるが、まずは未来より現在だ。


ラトスさんとの念話を切ると、私はヤラン兄さんに念話を飛ばした。ヤラン兄さんとは毎日念話で連絡を取り合っている。兄さんは念話を使えないが、兄さんが私の念話を意識すれば、私には兄さんの考えていることが読み取れるから会話は成立する。もっとも、はた目からは兄さんが独り言を言っている危ない人に見えるかもしれない(ごめんなさい)。


<< 兄さん、そちらの様子はどう? >>


「イルか? まだ戦いは始まっていないよ。敵が一旦北に引き上げたまま攻めてこないんだ。今日捕まえた敵の斥候から聞き出した話では、敵は好戦派と穏健派に分かれて意見が対立しているらしい。原因はイルの魔法だ。敵の間でもイルの魔法は神の御業と思われているらしいよ。初戦で神の罰を受けたと言うことで、穏健派は神に逆らうくらいならこのまま北に戻ると言い始めているらしい。」


なんと、北の同族にも私の魔法が神の御業と思われているとは意外だった。このまま引き返してくれればありがたいが、そうなると北の同族では食べ物がなくて餓死する人も出てくるのだろうか。もともと、北では暮らして行けないから私達の土地を奪おうとしてきたのだから。


<< 了解。兄さん気を付けてね。おやすみなさい。>>


「お休み」


兄に「おやすみ」を言って、私は母さんの寝床に潜り込んだ。


「まあ、この子はいつまで経っても甘えん坊なんだから。」


と母さんが言うが、無視して抱き着く。口ではああ言うが母さんも嬉しそうだ。このまま北の同胞との戦いがなくなれば良いのに。そうすればヤラン兄さんも帰って来て母さんも安心するだろう。

 そんな私の願いは、思いがけなく実現することになる。北の同胞達の内、穏健派の人達が本当に北の自分達の居住地に帰ってしまったのだ。こうなると残った好戦派の部族だけでは南との戦力差は歴然である。彼らも一旦は自分達の故郷に帰ることを選択した様だ。もちろん穏健派の人達を説得して再び攻めてくる可能性は否定できないので、見張り役の人達は残っているが、兄を含め大多数の人達は自分達の居住地に帰れることに成ったのだ。

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