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フォース・オブ・マイハート

異世界に転生者が一人とは限らないし、異世界の歴史の中で今この瞬間にしか転生者が居ないとは限らないのだ。

---《宿屋[スヤリティ]・食堂》---


今の時間は私の自慢の腹時計からして10時過ぎだろう。紅茶とクッキーを夕食扱いにするのは忍びないので、夜遅くまでやっている宿屋の食堂へと足を運んだ。


「さて、何を食べようかなぁ……?」


極当たり前の事だが料理名は現代日本と全く違うので、メニューから運任せに頼まざるを得ない状況になってしまう。ラッキーな事に、転生時に識字能力は付与されていたから文字は読めるんだけどなぁ。


メニューにイラストでも乗っていたら予想は出来たんだけど、ここは一つ適当に頼んで味覚の冒険に出てみる事にした。


「すいまっせーん、この[プシューリンとナインパップルのタイオスソース炒め定食]を一つお願いしまーす!」


「あいよー」


食堂のおっちゃんに注文を入れ、セルフサービスになっているお茶(なんと麦茶はウィアデニアにもあった!)を分厚いガラスのコップに注いで、のんびりと未知の料理を待つ事にした。


冷たい麦茶を1口飲み、料理が出されるのを待つ。


日本に居る時もこうだったよなぁ……近所のあのラーメン屋とか……デカ盛りの洋食屋とか……もう一度行きたかったなぁ…………


畜生、虚しさよりもホームシックならぬワールドシック気味になって来たじゃあないか!!


雑念を振り切る為にも、手元の麦茶を一気に飲み干す。過去には戻れないし、未来はどうにでもなる。大切なのは今、この瞬間をどう生きるかだ!


と、麦茶1つで感傷に浸ったり希望を見出したりしている単純な私の隣の席に誰かが座った。


「お若いの、隣り良いかの?」


「あ、どうぞどうぞ」


隣に座ったのは老人……老人(?)だった。


いや、老人の声だし喋り方なのよ。でも見た目がねぇ。まさか[鈍く光る銅色のプレート]が[右半身を皮膚の様に覆って]いて、更に[目にはアンティーク感の漂うサングラスを掛けた]イケ爺だったのさ。


流石に驚いたのが伝わってしまったらしい。


「ほうほう、流石に初見じゃ驚くじゃろ。この身体は!」


「いやあ、その……こう言った方を初めて見たもので」


「なに、気にするこたぁないわい」


サッパリとした爺さんで良かった。それにしてもベイセンから聞いた話の中で[ティクバ帝国]は蒸気機関が発達しているって事は既に頭の引き出しには入れていたんだけども、まさか半サイボーグっぽい人が居るとは思いもしなかった。


「それにしてもお前さん、先程から何か悩んでいるようじゃの。このジジイに相談に乗らせてはくれんか?」


この爺さんなら百川君の事やこれからの事について何かいいアドバイスが貰える気がしたので、[転生]の話題を上手いことはぐらかしながら相談する事にした。料理が来るのも中々遅いし、時間の使い方にしては丁度いいだろう!


「私は、部屋でもう寝ているもう一人の知り合いと一緒に、遥か遠い外との交流が極端に少ない島から色々あってこの国に来たんです」


「ふむふむ……」


相談している最中の一連の会話の流れを全部ここに書くのは我ながら少しばかり恥ずかしい、と言うか自分で見返してて照れ臭いので割愛するよ。ほら……ねぇ?(同意を求める顔)


困った事にこの爺さんは話を聞きながらこまめに相槌をうったり反応を返してくれる、稀代の聞き上手だったもので、うっかり転生の話題をはぐらかしきれない話もしてしまった。


「あっ……今のはそのですね……」


「ほぉ~う……ククク……!カーッカッカッ!!そうかそうか!やっぱりか!」


「やっぱり……と言いますと?」


まさかまさかのマッカーサー、この爺さん……もしや……


「そう、お前さんが言う所の[遥か遠い島]はワシの故郷と同じなんじゃて」


「って事は!貴方も転生してここへ……!?」


「その通り。ワシは何十年も前にウィアデニアに転生してのう。多分今年で78じゃよ」


「うおお……まさか転生先に人生の大先輩が居るとは……」


「そうじゃそうじゃ、そんなお前さんに朗報なんじゃが、このヴィーネから西に荒野が拡がっているのは知っとるか?」


あっ!ここベイセンゼミ(地理)でやったとこだ!


「知ってます知ってます。確かナントカ荒野とかいう……」


「セイハ荒野じゃよ。その向こうにある山脈の麓には[ティクバ帝国]と言う国があるって言うのは……」


「帝国って言う国が普通にあるんだなぁって言うインパクトのお陰でしっかり覚えてます」


「そこはワシの様な身体に機械を埋め込んだり改造した住民が多くてのぅ。火山の影響で温泉や蒸気機関が発達しているから、ウィアデニアに来たなら観光して損は無い所じゃて」


「ふむふむ……[ティクバ帝国]、[蒸気機関]、[サイボーグ]、[温泉]……」


何かあった時の為に、夕方に寄った雑貨屋でメモ帳と鉛筆を買っておいて大正解だった。メモが捗る捗る……


「そしてここからが耳寄り情報なんじゃが……」


「ゴクリ……」


「帝国にはワシの他にも転生者があと2人おるんじゃよ」


「なんとぉーっ!」


「懐かしいのう!昔劇場まで見に行ったんじゃよアレ」


「良いですよねあのガン……じゃあなくて!」


「カカカ、意外じゃろ?ぶったまげたじゃろ??」


「驚きましたよそりゃあ……転生者って結構居るんですね……」


「ティクバに遊びに来た時の為にそいつらには話は通しておくぞい!」


「ありがとうございます!お陰で次の目標地点が決まりました!」


そうだ、この爺さんの名前を聞かなければ。まだ名前を聞いていなかったぞ!


「あの、今更なんですけど……お名前は……?」


「ワシか?ワシは[姉小路(あねこうじ) 藤十郎(とうじゅうろう)]じゃて」


貫禄たっぷりの名前だこと。


「そうそう、お前さん。もし良ければその百川君とやらに戦闘を頼らず、己の力だけで戦える様になりたいんじゃろ?」


「はい、もうおっしゃる通りで」


「折角じゃ。この歳になって弟子を取るのも悪く無い!」


「弟子ぃ?」


「そう!ワシがお前さんを鍛えてやるという事じゃて!!」


「えっ……良いんですか!?是非ともお願いします!!師匠っ!!!」


異世界転生してウン十年も生き残っている大ベテランに闘いを教えて貰えるチャンスを手放す程、私は愚か者じゃあないのさ。


「そうじゃ、折角だからワシのスキルを教えよう。ワシが持つのは[スキル¦銅]じゃ。金属の銅ってあるじゃろ?アレを自由に操れるんじゃよ。お前さんは?」


「私は[スキル¦プラスチック]です。とは言ってもまだ習得1日目なんでプラ板しか出せないんですけども……」


「なぁに、物体を召喚して操れるスキルならワシの経験や技をそのまま伝授出来るぞい!」


物凄い頼りになる上に、悩みの1つだったスキルの使い方についても伝授してくれるだなんて、私はなんてラッキーボーイなんだ!


それにしても、注文した飯がいつまでたっても届かないな……


「そうじゃお前さん、一つ良いことを教えてやろう」


「なんですか師匠?」


「さっきのオーダーじゃが、アレラストオーダーの時間超えとるから無効じゃよ」


「なんと……あれ?でもさっきアイヨーって返事してた様な……」


「この食堂は先払い制じゃから代金を払わないと注文を受けた扱いにはならんのじゃて」


「先に言ってほしい・オブザイヤー2019グランプリ受賞……」


「カッカッカッ!ウィアデニアに西暦の概念はないぞい!……ワシの行きつけの夜店に連れて行ってやろう。流石に腹も減ったじゃろ?」


「ありがとうございます師匠……」


ちょっと凹んだけれど、異世界生活の長い師匠の行きつけの店なら美味しい物が置いてあるに違いないと思ったのでついて行く事にした。食べたかったなぁ、あのプシューリンとナインパップルのタイオス炒め。


まぁ、この食堂に来てまさか転生者と会うなんて思ってなかったから結果オーライとしよう!

プシューリンとナインパップルのタイオス炒め

エビとパイナップルのオイスターソース炒め


実は意外と中華風の料理だったのよ。

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