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ただ青に信号を渡っていただけなのに···

 突然、赤信号を無視して突っ込んできた車に跳ねられた優子が、目を醒ましたのは、異世界と現世を繋ぐ中継地点“ガルバン”だった。


 パパの海外勤務が決まったのは、優子の高校受験が終わった時。


 てっきり優子は、“母親だから残ってくれるだろう”と思っていたのに···


「えぇ〜っ! パパがいない人生なんて考えられなぁ〜い! ママもパパについていくのぉ〜」


 と子供みたいに駄々を実の子供の前でこね、パパはママを拐ってアメリカへ旅立って1ヶ月がたった。


 こうして優子は、一人暮らしを余儀なくされた訳だが···



「あ、卵も買っておかないと!」


 学校帰り、いつものスーパーへ食材の買い出しに勤しむ優子は、手にしていたメモを見ながら店内をうろついていた。


 買い物カゴの中には、パンやジュース、牛乳やお菓子が入っている。


「たま···ご···」


(─がぁぁぁぁぁっ!!)


 卵カートに蓄積されていた特売の卵が、残り僅か!


 それに手を伸ばそうとした優子だったが、目の前で3つあった卵パック全てを強そうなおばさん···いえ、女性に奪われてしまった。


「たま···」


「ごめんね。いま、お腹に赤ちゃんいるから」


 おひとりさま1点限りの卵が···


 1パック98円の卵が···


 小さな子供を連れたおばさん···いや、ママ?に奪われた。


(嘘だ! 絶対脂肪のくせに!)とは思っても口には出さず、すごすごとその場を立ち去る。


「しょうがない。朝は、コメにしよう」


 格安の卵を手に入れられなかったのは残念だったが···


「うっそぉ〜! これマジ〜!」


 東京まで行かないと絶対に食べれないターグラムのホワイトケーキが、売られていた!


「どうですか? 本日最終日! これを逃したら、次はいつくるかかりませんよぉ!」


 可愛いメイド風の制服に身を包んだお姉さんが、道行く人に聞こえるように大きな声で誘っていた。


(1カット1000円が800円か···。えっと、今月はあと···)


 母親から送られてきてる仕送りでやりくりをする中で計算し···


「白いちごのムースケーキ。ひ、1切れお願いします」


 声は小さくなるが、ちゃんと届いていたらしく、


「ありがとうございます。白いちごのムースケーキですね!」


 たった1切れのショートケーキなのに、豪華な箱に入れてくれた上に、


「こちら、新作の虹色マカロンです。お1つ入れておきますね」


 マカロンのサービスに、卵を変えなかったショックは消えていた。


「ありがとうございます! ゆ、ゆっくり食べさせてもらいますっ!」


 カゴの中に、キラキラ光る箱を眺めながら、優子はウキウキした気分でレジへと進み、早く食べたい勢いで自宅へと向かった。



「ターグラム。来月、出来るんだ! とこだろう? あ、赤だ」


 スーパー近くは、交通量が凄くて時々信号無視した車と歩行者の事故が多く、監視カメラがついている。


「ね〜、これついてるのになんで事故なんて起きるんだぁ〜」


 信号が変わるのを待ちながら、先週同じ場所で起きた交通事故の看板を眺めた。


“2018年10月5日、歩行者と黒い普通車の事故がありました。目撃された方は···”


 交通事故にあったのは、まだ小学1年生の男の子。


「子供は嫌いだけど···」


 優子は、自分よりも年下の子供が嫌いだった。生意気だし、反抗するし、言葉や態度も汚いし、うるさいから···


 親戚での集まりも子供が、そばにいただけで物凄いストレスを感じ、会が終わるとフラつく程だ。


「可哀相に···。あ、青だ! 渡らないと」


 丁度、優子が渡る信号が赤から青に変わって、横断歩道を渡り始めた。


 目の前を真っ白な何かが横切り、何故か立ち止まってしまった瞬間···


 物凄い衝撃と共に優子の身体は、オレンジ色に染まった天空に舞った···


(嘘···。なんで? 青信号···)



 目を覚ますとそこは、真っ白な空間だった。


「ここは?」


 起き上がろうとすると、意外と身体が軽い。


「あれ? 私なんでこんなの着てるの?」


 着ていたのは、高校のブレザーだったのに、優子は真っ白でつるつるとした柔らかな服を着て、ベッドにいた。


「確か···」と思い出そうとすると、不思議な事に全てを覚えていて、


「そっか、わたし車に···」


『目が醒められましたか?』


 いつの間にか、ベッドの側に自分が着ているものよりは数段上な真っ白いタキシードを着た男性が立っていた。


「誰?」


 訝しげに問いかけた優子だったが、彼の背後からひらひらと大きな翼があるのが見え、


「ね、ここって天国なの?」


 続けざまに声を掛けた。


『そうですね。天国と言えば天国です。ただ、あなたが思ってる天国とは違います』


 男性は、幼い子供に語りかけるように優しくゆっくりと言った。


(なに言ってんの?)


『正しく言えば、ここは現世と異世界を繋ぐ中継地点であります。聞いたことございませんか? 駄目ですね。今どきの世界は···』


(ちょっとちょっと〜! もっとわかるように言ってよ!)


 優子は、何がなんだかわからず目が点になるも、自分が死んだ事を認識出来た。


「ね、パパは? ママは?」


 縋るように男性の袖を掴み、問い詰めた。


『ご覧に···なりますか?』


 ひと呼吸おいての声に、優子はゆっくりと首を振った。


「いい。パパやママ達が悲しんでる姿なんてみたくない」


『それは、仕方ありませんね。避けられない運命でしたから···』


「それで、あなたは誰? 天使、にしては大きいし。神様?」


 薄い羽織り物を掛けられた優子は、マジマジと目の前の男性を見返した。


『ヴェルダンディです。ヴェルとお呼びください』


「優子です。風祭優···」


 優子が、自分の名前を最後まで言おうとした時、激しい音を立てて扉が開いた。


(扉なんてあったの?)


『ヴェルーーーーッ!』


 開いた扉から、大きな声を出した···


 小さな男の子が、真っ赤な顔をして現れた。


『これは、ライズ様。どうされました?』


 表情を変えず、ヴェルと名乗る男は、駆け出してきた男の子に声を掛けた。


『アンソロが···アンソロが···』


「······。」


『おやおや、またですか?』


 優子は、自分の目の前でこの二人の関係を考えたが、さっぱりわからなかった。


 ドタドタと外を走る音がし、息を切らした少年が···


『み、見つけたぞ。クソガキーーーッ』


 着ている物は、黒い燕尾服。年齢は、優子と同じ位の少年が、顔にヒゲやらマークを描かれたまま、入ってきた···



(え〜と、私どうしたらいいの?)


 大きな室内をぐるぐると逃げる小さな男の子と、それを追いかける少年。そして、温かな目で?見守るヴェルさん···


「あの〜、止めないんですか?」


『そうですね。ついつい、見惚れてました』


(笑ってたよね?)


 てっきり止めに入るのか?と思った優子だったが、


『では、お止めください。優子様』


 何故かそう言われたものの、止め方もなにも子供が大嫌いな彼女は、喧嘩の止め方を知らなかった。


『駄目ですね。現世の子は···』


 首を振りながらヴェルは、


『アンソロ。サクレリー·シュール』


 そう唱えた瞬間、追いかけていたアンソロという少年の足が動かなくなり、ライズ様と呼ばれた男の子がヴェルさんに駆け寄った。


『酷いよ、ヴェル。ぼく走るの苦手なのに···』


 男の子は、ヴェルさんにしがみつき泣きそうな声で声を掛け、ベッドにいる優子を見た。


『誰? このおばさん···』


「おば···」


(聞き間違い? いまこのガキ、うちのことおばさん言わなかった?)


『いけません。ライズ様。おばさんではなく、優子様でございますよ』


 そう言われても、言われた側の優子のショックは消える事はなかった。


『ユウコー? おばさんじゃん!』


(可愛い顔して、このガキ···)


『─っておーい! 俺のこと忘れんなぁっ!』


 部屋の真ん中で、足が動かずアタフタしてるアンソロさんがこちらわ見て叫んだ。


『おやおや、すいません。私とした事が、うっかりしてました。シュール·アロック』


 そう唱えた瞬間、アンソロさんが前のめりに転び、小さな男の子がまた騒ぎ出す。


(うるさいな、もう。これだから···)


『お嫌いですか? 子供は···』


 目線は、小さな男の子に向けられ、言葉だけが優子に掛けられた。


「あ、いえ。ごめんなさい」


『暫くこちらでお休みに。さ、ライズ様、アンソロ。我々は、歓迎の用意を致しましょう』


 ヴェルさんは、チラチラとこちらを見るライズと痛そうに膝を抑えるアンソロさんを連れ、部屋を出ていった。


「あ、扉消えた?」


 さっきまで見えていた筈の扉が消え、優子は疲れた頭を癒やす為にベッドへと潜り込んだ。


 パパ···ママ···ごめんなさい。

いかがでしたでしょうか?

異世界は、幾度か書いてはいるものの何か違うような?それでいいような?と思いつつ書いたものです。


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