第19話「私、私を疑います。そして勇者襲来。」B
火花は自分自身の知らない力の暴走、もう一人の自分の存在に不安と迷いを感じつつ歩みを東へと進めようとしていた。東には砂漠、風の竜アウラがいる神殿があるという。しかし火花はヴェルカンディアス前で立ち止まっていた。
火花達は遠く離れた崖からヴェルカンディアス王都を睨んでいた。なぜか火花はミシロ、ティガ、ロードにくっつかれ動けなくなっている。なぜそんなことになったかというと、東の砂漠へ行くには大陸の中心寄りにある王都を横切らなければならず、火花がついでに襲ってしまおうとわがままを言うからであった。
「火花様、まだ早すぎます!今襲ってもあの天使が落ちてくるのに間に合わなくなったらどうするのですか!まずは竜を」
「やだ。」
「火花の姉さん勘弁してくれ。みんな仲良く死ぬか?」
「やだ…。」
「火花様、わがまま言うと次の竜も私がもらうわよ」
「やだっ」
「ご主人様っ!クールブラッド!」
「いーやー!…ん?」
わがままを言っていると、私は王都から気配を感じた。
彼女が見ている。見えないけれど、私にはなぜかわかった。
その頃、王都の高台からアリア・デルセンが遠い崖を見ながら笑っていた。
「隊長?どうしたのですか?」
「ん?あぁ、死人の目がこちらを見ている。東へ行くようだ」
「では我々も!」
「愚か者ぅ!我々はまずヤギョウ本部の殲滅だ。あれがいてはおちおち違う世界へなど行ってられない。それにな、私は楽しみなのだ」
「た、楽しみ?」
「実験でめちゃくちゃにされたこの不死身の身体。すでに消えていたと思っていた死への恐怖と対等に渡り合える存在との出会い。私はな、死にたいんだ。あいつの手で。そしてあいつを殺したいんだ。この手で。」
「心中お察しできません。」
「わかるわけもないだろう。なぁ?死人の目……」
その気持ちが通じたか、崖にいた火花も不思議な気持ちになった。早く全力でアリアと戦いたい。殺したい。殺されてみたいという謎の感情。
「ふふ、やっぱりデザートは最後だね。気が変わった。さぁ早く東の砂漠へ行こう!」
「行かせないよ。お前達はここで終わるんだ」
そこに現れたのは巨大な剣を持った男、ハンマーを構える男、ローブを着て手に持つ剣の周りに狙撃魔法を展開する女。雰囲気でわかる。かなりの実力者であり、ここで戦いを挑んできたということは……。その姿を見てロードは怯えた。
「なっ!?勇者ブルース!?それにウォーリアガルドに魔法剣士メルバ!?」
「お前、あの時逃した魔王の娘か。死人の目の傘下になっていたか」
「あー、もしかしてあなた達が勇者様御一行?どーも、東雲火花です。死人の目ヒバナとか言われてます。ロード、ミシロちゃんと下がってて。」
火花はスヴァローグの鎧と炎を全力で展開するとブルース達は息を飲んだ。ロードの父である魔王を思い出したが、それ以上の力を感じていたのだ。
「おいブルース、話じゃまだ魔王レベルじゃないって聞いてたんだが?こりゃやべぇかもしれねぇぞ?」
「ここで止めなければいけない。なんとしても!」
ブルースが一気に駆け寄り剣を振り下ろすとダークルージュと鍔迫り合いとなり衝撃波が起きる。しかしダークルージュに纏うスヴァローグの炎がブルースの身体を焼いていく。
「うっぐぁぁ!?」
「ブルース!?ブリザード!」
メルバが剣から氷の風を飛ばすと、途端強力になって弾き返ってきてしまった。ダークルージュが反射したのだ。吹き飛ばされたメルバは身体が所々凍ったまま木に衝突する。
「メルバ!?うぉりぁぁあ!」
ガルドがハンマーを構えて駆け出すが、横から凄まじいスピードでティガが飛び蹴りを喰らわせる。しかしほんの少し揺らいだだけのガルドはそのまま足を掴んで投げ飛ばす。
「うぉっ!?あっぶね!」
空中で体勢を立て直して着地したティガは笑った。強い相手との出会いは初めてだった。なぜかワクワクとした気持ちである。
そして木にぶつかって回復魔法を使っていたメルバの元にロードが歩み寄っていく。
「あら、魔王の娘ちゃん。仇討ちなんて考えてたのね?」
「あなた達勇者に滅亡させられた魔族達の無念、私が晴らす!」
ウィンディーネの力を纏い、水色の鎧を着たロードはアクアスラッシュを構えた。
火花達と勇者達との戦いが始まった頃、北にあるナダカという氷の途中にある町で紛争が起きていた。そこは人間と異種族の最後の紛争地域であった。そしてその日、異種族による奇襲作戦で人間側の敗北が決まろうとしていた。
町は荒れ、命が消えていく。そんな中、町の真ん中で母をリザードマンに殺されて泣く少女がいた。燃え盛る町にいる彼女はもはや絶望していた。そして少女は曇天の空を仰いで願った。
「神様…どうか、次は幸せな人生を……」
命の終わり。紛争によって王都への移動が遅れた人間達は絶望に打ちひしがれていた。次々と人々は殺されていく。
牛の巨人が少女へ近づき斧を構えた。
「だれか…助けて…」
そんな時、暗雲を打ち破って流星が降ってきた。流星は轟音を立てて町のど真ん中へ落ちると、衝撃波で異種族達も人間達も吹き飛ばされる。
先程まで怒号や悲鳴が響き渡っていたナダカに静寂が訪れる。落下した場所には煙が上がり、中から影が動く。
「ナンダ!?」
牛の巨人が近づくと、一瞬で首が吹き飛び血が雨のように降り注ぐ。
「うっぷ。ふー、死ぬかと思ったし。ここが滅びかけてるっていう異世界かぁ。」
現れたのは美しい薄桃色の鎧を着た少女だった。手には鎧と同じ色をした剣が握られていた。
「あ、貴女は…?」
「お、空から見てたよ。危なかったね。私は神様のお使いを頼まれた人間。この世界の人間を救って欲しいってさ。」
「勇者様ですかっ!?」
「神は我らを見捨てていなかった!」
生き残っていた住民や兵士が集まり感謝の言葉や歓声が上がる。
「ぜひお名前をお聞かせください!」
「ん?私?私はねー、東雲火花っていうんだ。ヨロシクッ!」
続く。




