第12話「私、最後の魔族の幼女王に出会います。そしてダークルージュが目覚めます。」B
前回のあらすじ。
ロードを助けるため、火花達は駆け抜ける。
塔の外へ突き出る形で刑場が備え付けられていた。その場所は群衆から良く見える低い位置で、巨大な刀を持った大きなオーガが立っている。そこへロードが現れると群衆から歓声が沸き上がった。
ロードは虚ろな目で群衆を見つめていた。以前は尊敬と希望の眼差しで見られていたはずが、今は憎しみと憂さ晴らしの籠った目で見られているのだ。もはやロードに希望も絶望もなかった。ただ単なる虚無と無力感。
群衆からは「殺せ」「裏切者」などの罵詈雑言が飛び交い、果実やら石やらがぶつけられる。そこへ狼のような獣人が紙を持って現れた。
「静かに!これより異種族を誑かした魔族最後の一人、ロード・レイ・ヴァルキュラル女王を処刑する!」
その発言の瞬間先ほどよりも更に大きな歓声が上がった。誰一人として反対するものはいなかったが、中には憐れむように祈る異種族も少数見えていた。
「最後の発言を許可する!」
その歓声や罵詈雑言の大音声の中、ロードは静かに立ち上がった。その瞬間静まり返った。群衆はどんな命乞いや醜い戯言を離すのかと期待しながら待った。
「みんな、ごめんね。でもこれだけは覚えておいて。私のパパはみんなの未来のために戦って死んだ。けれど、人間には敵わなかった。だから責任を取って私が死ぬことになった。本当のことを言うとね?まだ死にたくないんだ。まだ100年ちょっとしか生きてなくて、世界の半分も見れてない。生きたかった。素敵な恋もしたかった。でも、世界が終わるこの時に、少しでもみんなの気持ちを満足させられればいいかなっても、思うんだ。みんな!この世界は終わるかもしれないけれど、その時が来るまで精一杯生きて!それが、私の最後の願いよ」
群衆はもはや誰一人として先程のような歓声も罵声も上げなかった。一人の幼い女王の気持ちを知って、今更後悔していたのだ。
「………処刑人、構え。」
今、刑を取りやめても誰も文句は言わないだろう。しかし、もはや止められない。オーガの兵が大きな刀を振りかぶって構えた。その顔も悲痛に歪んでいた。
跪いたロードは最後に空を見上げた。その空はとても青く澄んでおり、美しかった。
「綺麗な空……」
しかし空から覗く審判の女神の顔は不愉快だった。
「死んじゃえ、ばーか」
涙が頬を伝い、刀が振り下ろされた。目を瞑り、亡き父と母の姿が目に浮かんだ。そんなロードは群衆の中を駆け抜ける大きな狼と騎士に気が付かなかった。
「飛べフェンリル!」
群衆を跳ね飛ばしながら進んでいた狼は飛び上がると、背に乗っていた騎士が勢いよく空に舞い上がった。
鈍い金属音が広場に響き渡った。なぜか痛みはない。もう死んだのかとロードが目を見開くと、そこには赤いマントを風にたなびかせた紅蓮の騎士がいた。騎士はオーガの刀を抜刀もしない鞘一本で受け止めていたのだ。
「紅蓮の…騎士?」
「ふぅ、間に合った。」
「だ…だれ!?なぜ止めたの!?私が死ななければ魔族は汚名を背負ったままになる!」
「うるさい!こんな意味のない死に方の方が汚名だよ!みんな恥ずかしくないの!?こんな小さな子どもに全部押し付けて!恥を知れ!」
群衆の誰一人として反論する者はいなかった。それどころか安堵した者の方が多かったのだ。自分達が勝手に期待をかけて、裏切られたと押し付けた、それに気づいたのだった。火花もその群衆の様子に察していた。
「もう、大丈夫だよ。」
火花がロードを抱きしめると、少女は大声で泣いた。今まで気丈に女王として威厳を保っていた幼女王は、助かった安堵と共に気持ちが溢れてきたのだ。
群衆の異種族は後悔と、ごまかしていた絶望に次々と膝から崩れ落ちた。しかしそんな中、群衆の後ろから声を荒げる者達が現れた。
「ならんならん!その魔族の子どもは処刑せねばならん!でなければこのマルクの名が穢れるわ!」
「あれがここの王、マルクね」
カエルの顔をしたその異種族は多くの兵を連れ広場を取り囲んだ。
「魔族の生き残りがまだいたとは!その魔族もろとも殺してしまえ!貴様らも戦うのだ!」
後悔に崩れ落ちていた群衆にマルクは叫んだ。しかし、群衆は誰一人として戦おうとはしなかった。
「そこのクソガエル!聞こえる?ここにいるみんなは後悔してるんだよ!罪を擦り付けてしまったことや恐怖を誤魔化していたことを!」
「ぐっく…なんたる無礼な!兵達よ!ここにいる者達全て同罪だ!反国家罪で死刑だ!」
その叫びに兵達ですら困惑していた。しかしその発言が火花の怒りを目覚めさせてしまった。
「このっ、この下衆野郎が!」
火花はダークルージュを構えた。抜けない鞘を掴み、叫んだ。
「今抜ける時でしょ!私に従いなさい!」
全力で鞘を引き、周りにスヴァローグの炎が溢れた。その凄まじい勢いで処刑人のオーガと狼の獣人は吹き飛ばされてしまう。その力と魔力を見た瞬間、群衆は恐ろしさに凍り付いた。そしてマルクは一瞬で恐ろしい敵だと認識したのだ。
「な、なんたる魔族か!あの魔族を討つのだ!あれだけは生かしてはならん!」
「ぐ、ぬああああああ!」
鞘から少しずつ刀身が現れていく。その間矢が飛んでくるが全て炎に焼き尽くされていく。
「火花様、もう少しです!」
ミシロとフェンリルと騎士隊も見つめていた。
「っはぁぁあああ!」
刀身が一気に抜けた途端、紅色の刀身が輝き出た。その刀身は美しく艶やかで傷一つない。
「綺麗……」
紅色の刀身にスヴァローグの炎が取り巻いている。
「ダークルージュ、お前が最初に切る者は群衆を誑かすあいつだ!」
ダークルージュでマルクを指し、戦線布告した。周りの兵が震えながらも処刑台にいる火花に向かって襲い掛かってくる。火花はロードを抱えるとフェンリルに乗るミシロへと任せた。
「ミシロ、フェンリル。できるだけ離れてて。今この力を上手く使う自信ない」
「は、はい!」
フェンリルが飛び下がると同時に火花は一気に敵兵達に立ち向かっていく。
次回、ダークルージュの力が悪を討つ。