第8話「私、初めての試練。そして心を垣間見えます。」B
前回のあらすじ。
死んだ王国、ネルフィスへ着いた火花達はゾンビに襲われて気持ち悪くて逃げた。
目についた教会へ逃げる。しばらくは外のゾンビも入ってこれないだろう。そのため、探索することにした。
「うわー、ぼっろぼろ。ミシロちゃん、さっきの呪いって?」
「は、はい。あの魔法は遥か昔、死者を蘇らせるために編み出されました。しかし実態は腐敗した不死者を作り出すのが精いっぱいの魔法で、封印されたはず。なぜこんな大きな王国で……」
しばらく教会の奥へと進んでいると、瓦礫の奥に崩壊していない大きな扉があった。鍵とチェーンと何かが書いてあるお札が張り付けられている。扉の上には見知らぬ文字が書いてある。
「ミシロちゃん、読める?」
「えーと、古い魔族文字ですね。フェ…フェンリ…ル、フェンリルと書いてあります」
「ミャノン、フェンリルって?」
「神を恐れぬ狼のことです。神々に災いをもたらすとされ、神の頂点を討つと言われています。」
「へぇ~、入ってみよ。」
大きな扉を両手で押すと開いた瞬間の一瞬、眩い光に目がくらんだ。
「な、なにこれっ……」
「こ、これはっ!?」
そこには大きな広間があり、なにより驚いたのはまるで絵画に出てくるような天使が横たわっていたのだ。大きさは10メートル以上はあり、紫色の肌に生気は無い。
「人形……じゃないよね」
「こんな種族初めて見ました……。」
火花が天使に触れようとした途端、後ろで唸るような声が聞こえてくる。振り向くと真っ黒な毛並みをした巨大な狼が現れた。赤い瞳は火花をにらみつけている。
「ミシロ、下がって。クッ!?」
途端黒い狼は火花に飛びかかった。鞘でそれを受け止めるが、頬に傷がつき血が流れる。
「な、なに!?」
「ご主人様!おそらくこの狼がフェンリル!フェンリルは神の力を消し去ると言われております!つまり!」
「私、今不死じゃないってこと?」
「そうでございます!オゥマイガ!」
死ぬかもしれない。そう思った途端、私の心に冷たい風が吹いた。凍り付くようなその風は今まで忘れていた恐怖を呼び覚ました。
「た、たすけっ……」
私は逃げようとした。怖い、死にたくない、死ねば私の世界が消えてしまう。私は無様にも逃げ回り、鞘をむやみに振り回す。
「うぐああ!?」
フェンリルの体当たりを喰らい壁に叩きつけられる。人生で感じたこともない激しい痛みに更に恐怖は増大していく。
「く、来るな!来るなぁ!?」
「火花様!」
フェンリルの牙が私へ向かってきたその刹那だった。
ー恐れるなー
「え……?」
逃げようと後ずさった私の背中を、とても熱い手が止める。凍り付いた私の心が熱く燃えていくような気がした。フェンリルの牙は目の前で止まり、まるで時間が止まっているようだ。
ーなぜ逃げる。-
止まった世界に現れたのは鎧姿のスヴァローグだった。
「スヴァローグ…消えたんじゃ……」
ー消えた。火花殿の心の中にな。だから私はここにいる。ところでお主、なぜ逃げるー
「な、なぜって。今私不死じゃないんだよ!?」
ーだから?見てみろ。奴も不死ではない。-
止まったフェンリルを見ると、鞘で傷ついたのか爪がかけている。よく見ると体にも傷がある。
ーお互いに不死ではない。そしてこれはお主の試練だ。-
「私の……試練?」
ー他の力に頼り切らず、自身で勝ち取れ。案ずるな。見ろ、お前を信じて待つあのエルフを。見ろ、お前の中にいる私を。見ろ、目の前の敵を!-
「うん!必ず勝ってみせる!」
時が動き出し、フェンリルの牙が重なる瞬間赤と黒の炎が火花から燃え上がったのだ。フェンリルは弾き飛ばされ壁に激突する。火花の身体には鎧が装着されているが、スヴァローグの炎と黒い炎両方が唸るように燃え盛っている。
「来い!」
そして私は、私の恐怖心とフェンリルとの激戦を繰り広げることになる。