第7話「私、完全に異世界の人間を敵に回します。」C
前回のあらすじ。黒魔術協会が生み出したキメラとの激戦が始まった。敵であるアリア・デルセンとの一時的な共闘のすえに……。
草原では激戦が繰り広げられていた。しかし激戦というよりは圧倒的な殲滅戦であり、雑魚のキメラの隊群はチェルノボウグ騎士隊によって撃破されていく。元は人や異種族を魔法で合成したというだけでも胸糞悪くなっているというのに、殺されたキメラは元の人間や異種族に戻って悲鳴や断末魔を上げて死んでいくのだ。
「絶対に許さない!絶対に!絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許さない!」
火花は怒りに身を任せて炎をふりまいていく。あわや神罰部隊も巻き込まれそうになりアリアが怒号をあげる。
「貴様ぁ!我々も巻き込むつもりか馬鹿野郎ぅ!」
「うっさい!手加減すると元に戻った人達が苦しむんだ!戻るかけらも残さず焼き尽くす!本体への道がもう少しで開く!」
「この薄汚い魔族めが!情けをかけたつもりか!」
草原地帯はすでに炎に飲まれ轟轟と燃え盛っている。大量のキメラも次々と殲滅され本体への道が開けていく。
「うぉぉりゃあああ!」
足元までたどり着いた火花はキメラの巨大な足を切り落とし、転倒させる。キメラは大量の血を流し絶叫する。
「見えた!あれがコアだ!」
アリアが指さした頭部には赤い宝石のようなコアが見える。二人は同時に飛び上がり、燃え盛る鞘とのこぎりをコアへと全力で振り下ろしたのだ。
「とりゃああああ!」
「ジイイイイザス!」
コアは粉々に砕け、キメラは息絶えた。魔法が溶けたのか、何百人もの人間と異種族の遺体が焼野原に散らばった。
「ハァ…ハァ…。最低の気分。異世界に来て、一番最低な気分。」
「はぁ、はぁ。今日の所は見逃してやる。ここの遺体の処理は任せてさっさといけ。次視界に入ったら殺すからな」
「うっさいボケ。いつでも来い…って言いたいけれど今日はやめておくよ」
二人は大の字で倒れると、空にいる審判の女神がこちらを見ているようで身震いした。するとアリアの服の中から電子音が鳴り、手のひらサイズの水晶玉が出てくる。水晶には若い金髪の青年が映し出される。
「ヴェルカンディアス様!?」
「は?」
「アリア・デルセン。この度の仕事ご苦労だった。あのキメラを生かしておいては半年持たずに王都へと侵入して民を食い荒らされたであろう。感謝する」
「勿体なきお言葉。」
「そこの魔族の生き残り。貴様が協力したのか。礼を言うぞ。褒美は望む物をくれてやろう」
ヴェルカンディアス王が意気揚々と火花に望みを聞くと、次の瞬間草原の空気は凍り付いた。
「じゃあ死ね。」
「なっ…なんと言った…?」
「貴様ヴェルカンディアス様になん」
アリアは鞘で吹き飛ばされ、倒れたところをチェルノボウグ騎士隊に押さえつけられる。
「私は東雲火花。この世界の人間全てを殲滅する。ブルーサファイアへは行かせない。そしてこの世界で恨み、死んでいった者達の思いを味わわせてやるから」
「はっはっはっはっは!面白い魔族の少女だ!あぁ。艦隊を破壊した魔族とはお前のことか!この世界の人間全てを滅ぼすと!やれるものならやってみるがいい!私は、人間は全てここにいるぞ、この王都ヴェルカンディアスにな!いや、待つのも癪だ。お前に敵を送ろう。」
「ご褒美ありがとうございます。半年後、お迎えに行くから覚悟しときなさい。じゃ。」
火花は水晶に向かって中指を立てると、鞘で叩き割った。それを見ていたミシロやチェルノボウグ騎士隊の亡霊達は歓声を上げた。そしてその中で神罰部隊は青ざめていた。。
「この薄汚い魔族が!自分が何を言ったのか理解しているのか!貴様は王都ヴェルカンディアスを、全人類を敵に回したのだぞ!」
「元からそのつもりよ。今なら貴女達を殺せるけれど、そうしないことにした」
「なぜだ!お前の目的はなんなんだ!」
「私の目的は私の世界を救うこと。そしてこの世界の人間は全て滅ぼすことにした。最初は戸惑ったけど、もう見限ったの。そして貴女達を殺さないのは、私はデザートは最後に食べる派なの」
火花とミシロは騎士隊隊長の乗る巨大な馬に乗り込み、他の部隊を短剣へと戻した。開放された神罰部隊はただただその場で茫然としていた。
「魔族どころか、化け物だったか。やはり我らの敵だ。」
悠々と去る火花にミシロは嬉々として話す。
「火花様!これで人間達はこっちから探さなくても追ってきますね!」
「ふふ、そうだね!それにしてもここまでして鞘から抜けないって、壊れてるんじゃないのこれ?」
こうしてヴェルカンディアス王へ直接宣戦布告できた火花は次の人間の街へと向かう。次の街は「死んだ王国、ネルフィス」。そこで火花は試練に立ち向かうことになる。