第7話「私、完全に異世界の人間を敵に回します。」B
火花とミシロはブーモウを目指して歩みを進めていた。チェルノボウグ騎士隊も消さずに進軍のつもりで歩いているが、全く人間の村がない。むしろ村は荒廃している。おそらくすでにヴェルカンディアスへ向かっているのであろうとミシロは話す。そしてそんなことよりも火花は気になっていることがある。
「剣、鞘から抜けないんですけど。」
「え?それはそういった武器ではないのですか?」
「違うわよ。本当はこの剣は最強の二つの力を私にくれるらいいんだけれど、私が人間全てを滅ぼす覚悟ができた時に抜けるんだって」
「つまり、火花様はまだお覚悟ができてないと?」
「ん~、でももう1万人くらい殺してるんだけれど。覚悟、かぁ。ちょっとミャノン、メタトロンに無料通話して」
「ファイ!我がご主人様!お呼び出し中です。少々お待ちください。お呼び出し中です。少々お待ちください。お呼び出しちゅ現在電波の届かないところにいるか、電源が入っていな」
「ふざけんな!もう、またかけなおす。お、草原が見えて来たけれどもしかしてあれがブーモウ?」
大き目の町が見えてきたため、チェルノボウグ騎士隊を銀色の短剣へと戻した。そしてよく目を凝らす。しかしその町は黒煙が上がり、何か巨大なものがうごめいている。
「たしかにあそこがブーモウのはず、です。でも、すごい恨みの念を感じるのです。あの場所は恨みとは程遠いただの農業地帯のはず」
「行ってみよう!」
私が駆け出すと、目の前に黒い服装の集団が現れた。その先頭にいるのはアリア・デルセンである。
「待て死人の目ヒバナ。」
「アリア・デルセン。どういうこと。ここでこの前の決着でもつける?」
私の心は一瞬それを望んでしまっていた。またあの戦いができると思うとわくわくした。
「それもよかろう。しかし!今はそんな時ではない!あれを見ろ。」
町が突然爆発し、爆風の中から見たこともない巨大な化け物が現れた。人間の手足のようなものが幾本も生え、カエルのような胴体には人間の目のようなものがいくつもついている。
「うわキモチワル。なんだあれ」
それを見たミシロは悲鳴を上げた。
「きゃあああ!?そんな!そんなまさか!?」
「ほう、エルフの小娘にしてはよく気づいた。あれはキメラだ。しかも何の罪もない遊牧民の人間と異種族を数千人無理矢理に合体した、な」
「に、人間と異種族を合体させた!?何考えてんの!?」
「あれをやったのはヴェルカンディアス陥落を狙う黒魔術協会ヤギョウだ。我らヴェルカンディアス神罰部隊と同等の実力を持つ存在。魔術の発展しか頭にない神に仇なす下郎共の集まりだ。貴様ら、ここまで歩いてきて異種族の村が壊滅しているのを見ただろう。」
「見た。誰一人として……、まさか…?」
「そうだ。黒魔術協会の人間はこの世界の最後だからと、残った命をすべて実験に使う気なのだ!」
「こっ、この屑共がぁ!」
一気に火花は燃え、炎の鎧をまとう。
「薄汚い魔族、我らに協力しろ。今だけだ。あれを放っておけば生きとし生けるものすべてを食らいつくされてしまう!」
「チッ。あいつはどうやったら倒せるの!」
「あいつの弱点は頭頂部にあるコアを強力な炎で燃やし尽くすか、粉々に砕くこと。いいか、もうすぐ奴は分裂を始める。その時奴は反動で動かなくなる。そこを叩くのだ!」
「わかった。ミシロ、下がりなさい、遠方から魔法を打つだけでいい。」
ミシロは頬を染めて下がった。火花が真剣になった時、ミシロと呼び捨てにする姿がとても恐ろしく、凛々しく、逞しかった。まさに憧れの存在である。
そしてキメラが分裂を始め、大量のキメラが生まれだしてくるのだ。
「始まったぞ!構えろ死人の目!」
「黙れペテン!全隊、構え!」
火花が銀色の短剣を前に構えると一瞬で400人の歩兵と騎兵隊が現れる。
「まっまさかチェルノボウグ騎士隊か!?なぜ何百年前の存在が!」
「我が敵を打ち滅ぼせ!突撃ぃぃぃいいい!!」
一気に兵達が突撃し、火花やアリアの隊も駆け出していく。
草原地帯は突然激戦区となったのだ。