第6話「私、亡霊達と戦います。そして、世界の闇を知ります。」C
今回から突然始まる前回のあらすじ。
前回チェルノボウグ騎士隊をボコした火花は400人の不死隊を仲間にしたのだった。
私はチェルノボウグ騎士隊を浄化した後、炭鉱地帯へと足を進めていた。町は寂れており、人の気配はない。
「随分とさびれた炭鉱ね。なんかイメージだと異世界の炭鉱ってドワーフとかが働いてそうな感じが」
「あの……たしかにこの炭鉱はドワーフがいたのですが、その。」
ミシロちゃんが指さした先には森があり、行ってみると巨大な墓地だった。墓は一目でいくつあるのか数えるのをやめるほどあり、森を埋め尽くさんばかりだ。
「ここは?」
「ここは、この炭鉱で働いていたドワーフ達の墓地です。いや、ドワーフだけではなくこの炭鉱を支配していた人間もいます」
「なんでみんな死んじゃったの?」
「戦争です。奴隷となっていたドワーフの解放軍と炭鉱を支配していた領主の軍の争いで。殺し、殺され、そして誰もいなくなった、と。街で奴隷として働いていた時もその話は聞こえてきていました。」
「戦争……か。慰霊碑もあるんだ?ん?日本語!?」
彼らの勇敢なる戦いの跡と魂の眠りを祈る、と書いてる。作った人の名前は老朽化で擦り切れており、〇ワ〇タク〇ウまでは読める。
「この文字が読めるのですか!?これは100年前に作られた慰霊碑なので、その時に火花様と一緒のブルーサファイアの人がいたのですね」
私は初めてメタトロンに会った時のことを思い出した。そういえば他にもこの世界へ人を送ったが失敗していた、と。
「100年前じゃ、会える可能性は低いか。ここの生き残りはいないのかな?」
「あの、火花様。もう一つ、いや二つになるかもしれませんがお伝えしていなかったことが。もう、ドワーフはこの世界にはいません」
「どういうこと!?」
「この世界のドワーフはこのあたりの巨大炭鉱採掘に奴隷として全て連れてこられていたのです。つまり……その……」
「絶滅……したの?」
私は血の気が引いた。まるで背中に巨大な氷でも突然くっつけられたかのような感覚だった。この巨大な世界で多くの種族がいることは前の港町シーゲートで知ったが、一つの種族がすでに人間のせいで消えているとは思わなかった。
「ここまでこの世界の人間は腐っているなんて。メタトロンの言う通り、か。ここが、ドワーフの終わった場所ってことね」
「はい。この巨大な墓地はドワーフの最後の姿なのです。そしてもう一つ、この先にあるメイロンドという場所では、その……」
「はっきり言いなさい。大丈夫、全部燃やす」
ミシロちゃんは少し涙目になりながら答えた。
「この先にあるメイロンドではっ!私達エルフ種族が人間の実験材料の奴隷として集められているのです!中には、人間や他種族との交配が可能かという実験まで!」
「ミシロ、行くわよ。メイロンドを滅ぼしにいく。」
火花の目が燃え、身体に鎧が装着された。怒りに燃える火花についていくミシロは、一旦墓地へ振り返り頭を下げた。
「ドワーフの皆さん、火花様が人間を殲滅させますので安らかに。」
メイロンド。そこは生物学者が集まる街で、人口も多くはない。しかし学者のメッカであるそこは未だ隣大陸には移動せず研究に没頭する者達がいる。
その大通りで青年の研究者がエルフ数人を引きつれてあるいていた。首には鎖をつなぎ、手には手錠がかけられている。
「研究者のみなさぁん、新しいエルフはいかがっすかー!催眠魔法でおとなしくしててなんでも言うこと聞くっすよー!たとえば…ほらそこの研究者さんの足をなめろ」
鎖をぐいっと引っ張られたエルフの一人は転倒し、歩いていた研究者の足元へ差し出される。まるで意志のない乾いた瞳は靴をなめ始める。町には笑いが響く。女子供関係なく、まるでさも当然のように、生活の一部であるかのように。
「さぁさぁこの世界が終わっちまう前にブルーサファイアへ行く前に新鮮なエルフを研究し尽くしていきやせんかね!さぁ一人激安の銀貨3枚だ!」
町からは「買った」「買った」という声が響き渡る。町にはその運ばれてきたエルフだけではなく、すでに他にもおり、奴隷と実験に使われている。
誰もエルフの命など気にしていない、異様な光景が広がっていた。しかし次の瞬間、鎖に繋がれていた一人のエルフが声を上げたのだ。
「貴様ら人間もいつか同じ目に合うんだからな!やったことはいつか自分に返ってくる!それは何倍にも何十倍にも何百倍にもなって!」
一瞬沈みかえった町は、すぐに大笑いに変わった。
「はっはっはっは!奴隷風情が!帰ってくるもなにもそんなこと返す奴らなんてもういないんだよ!それにブルーサファイアには貴様らは行けないのだからな!」
「せいぜい交配実験を楽しませくれよな!あっはっははウガァ!?」
途端、一人の男の頭が弾け飛んだ。一瞬なにが起きたのか分からず、町は再び静寂に陥る。
「ミシロ、いい魔法ね。直撃だよ」
「火花様のおかげで精神も肉体も完全に回復しましたから。私これでも魔法は大得意なんです!」
「なっ、魔族とエルフ!?衛兵を呼んで来い!
「そんなお手数はおかけないよ。みんな、殺してやる。我が配下達よ!眼前の人間を一人残らず殲滅せよ!手加減なく!躊躇なく!悲しみなく!」
火花は銀の短剣を町へ向け、言い放った。その瞬間火花の真後ろに凄まじい軍勢が霧のように現れる。火花のマントのような真っ赤な旗を掲げ、歩兵と騎馬兵が隊列を組む。
「はっ、幻覚魔法だ!怯むな!」
町の中にいた数人の衛兵が銃を乱射してくるが、火花に届く前に足元で平服していた兵士が見向きもせず弾き飛ばす。
「今のちょっと怖かった。ありがとう。全員、構え!」
400の軍勢が武器を構える。町の人間は悪夢でも見ているのかという、信じられないという表情で我先にと悲鳴を上げて逃げ出す。
「突撃ぃぃいいい!」
軍勢は雄叫びと共に一気に駆け出し町の人間だけを尽く殺害していく。蹂躙される町を悠々と歩く火花とミシロは、奴隷のエルフ達には英雄に見えた。火花が研究所を燃やし、爆破すると実験の真っただ中だったようで、女性エルフが裸で吊るされ、近くには複数の男達が同じく裸で立ち尽くしていた。
「この腐れ外道共がぁ!」
「な、なん」
町中に炎が広がり、悲鳴と断末魔だけが響いていく。
そして1時間も経たないうちに町の人間は老若男女子供赤子関係なく全て槍で突き刺されて張り付けにされた。残ったエルフ達は全員解放された。
「すごい力ですね火花様。」
「ふぅ。チェルノボウグ騎士隊、さすがじゃないの!さて、ちょっと気持ちも落ち着いた、かな。ミシロちゃん、エルフ達全員に話したいことがあるからそこの広場に集めて。」
広場にエルフ達を集めると相当な人数がおり、女だけでなく男のエルフも何人かいた。
「私は東雲火花!あなた達に問いたいことがあるの!」
そしてミシロは次の火花の台詞に驚愕したのだった。