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第5話「私、異世界の人間に宣戦布告します。そして強敵に出会います。」B

 

 翌日、目が覚めた私は旅の支度を整え、シーゲートの反対側にある山脈方面へ進むことにした。このゴールドシュガーというほぼ円形の大陸に面する海は海賊やモンスターが多く、危険だという。そのため陸路を直線で進み宝玉の海の街「マリアブル」を目指す。マリアブルからの船に乗れば人間の集まっている大陸「ヴェルカンディアス」までは一週間で着くという。しかしこのシーゲートからマリアブルまではどの経路を使おうが魔法を使おうがだいたい3か月かかるという。地図を見ると途中にいくつも街があるようなので、そこで補給することにした。


「じゃあ、気を付けるのよ?いつでも戻ってきていいんだから。シーゲートはいつでも英雄を待ってるわ」


「えっ英雄だなんて。私はただの裏切者だし。でも、とても楽しかったです。ありがとうございました。この街の復興を祈っています」


「うぅっ、なんだか娘の旅立ちみたいですぜ」


「ルプーアさんも、お元気で!行ってきます!」


 多くの住人達に別れを告げ、山道へと向かった。


「資金も薬品も揃ってよかったですね火花様」


「そうだね。いくら私が不死って言っても病気にはかかるだろうし、ケガは痛いし」


「やはり不死なのですね。すごいです!」


「そぉうであろうミシロさまぅ!ご主人様こそ最強の存在っ!」


「うわうるさ。てか考えたんだけれど、人間だけ滅ぼせばいいわけだから異種族の軍隊とかあれば仲間にできないかな。」


「異種族の軍隊ですかぁ。100年前まではこの山脈の先にある穢れた森に「チェルノボウグ騎士隊」の亡霊達がいましたが、今はもう封印されていますし」


「チェルノボウグ騎士隊?」


「はい。何百年前か忘れましたが、私の母から聞いたことがあります。その亡霊達は遥か昔王族に使える由緒ある騎士隊だったのですが、敗戦とともに王に裏切られ森で毒殺されたそうです。その亡霊が森に侵入する者達を襲っていたのですが、100年前ほどに人間の聖職者によって封印されたとか」


「へぇ、じゃあ封印といて仲間に」


「嫌ですよ!?そんな怖いの引き連れて旅したら歩くところ全部滅んじゃいます!」


「まぁ行くだけ行ってみようよ」


 私はその話を聞いて、上手くすれば死なない亡霊の軍が仲間になるんじゃないかと甘い考えをしていた。


「火花様は怖いという感情がないのですか!ん?雨……」


 ぽつぽつと雨が降り、次第に強くなっていく。雨宿りできる場所を探していると私達の先に大きな木があり、その下にもう一人ローブを深く被った人が雨宿りしていた。


「一緒にお邪魔します~。ふー、異世界でも雨は突然なんだねぇ。あんまり濡れなくてよかった」


「ヒィ!?ひ、火花さま、逃げましょう!」


 一緒になった人の様子を見ていたミシロが悲鳴をあげ木の外へと飛び出した。


「え?どうしたの?」


「貴様がジョシコウセイとかいう魔族、死人の目ヒバナだな?」


「し、死人の目!?東雲ですけど!」


「その人と戦ってはダメです!」


 ミシロちゃんが叫んだ途端、ローブの人は巨大なノコギリを取り出し襲い掛かってきたのだ。


「ジイイイイイザス!」


「っ!?くっ!」


 咄嗟に鞘の剣で受け止め、一瞬火花が飛び散る。しかし受け止めた衝撃で態勢が崩れた瞬間蹴りを喰らいミシロちゃんの方まで吹き飛ばされた。一瞬内臓が全て潰れたため激痛と吐血に驚いた。たしかに不死で助かったが、この痛みは味わいたくない。


「ゲボァッ!ゲホゲホ!何すんのよ!一回死んだじゃん!」


「ほう、今の蹴りは間違いなく肋骨から内臓まで全て蹴り潰したのだが。不死というのは本当らしいな」


 ローブを脱いで現れたのは、銀色の長い髪と鋭い眼の女性だった。首からは十字架が下げられている。


「貴女、何者なの!」


「私はヴェルカンディアス神罰部隊代表、アリア・デルセン。神罰の執行者にして人間に仇成すものをことごとく絶滅させる者だ!」


「は、こっちも神様の元で人間殲滅するのよ!貴女も殺すわ!ミシロちゃんは下がって!」


 二人は同時に武器を構え、ぶつかり合う。剣とノコギリが再び鍔迫り合いになると、お互いに頭突きをかます。その衝撃は一瞬雨を吹き飛ばすほどだ。お互いに額から血が噴き出すが、一切下がろうとしない。


「神罰はノコギリで斬首刑?笑わせるなボケ!」


「薄汚い魔族の生き残りめが!今度こそ滅ぼしてやる!」


 同時に離れると、途端凄まじい剣撃のぶつかり合いとなった。互いの力は拮抗していたが、火花がスヴァローグの炎と鎧をまとうと優勢になっていく。


「うぐっ!?」


「くたばれぇ!」


 炎の鞘の突きが見事にアリアの喉元に決まり、木へと吹き飛ばした。感覚でわかる。間違いなく首の骨を折った。


「はっ…はっ……。」


 激しく息を切らし、体力の消耗によってスヴァローグの炎と鎧が消えた。


「ふっははははは。あーははははは!久しぶりだ!久しぶりに己の血を見た!」


「うっそ、回復してる?」


 立ち上がったアリアの首は回復し、気色悪いほど笑顔で火花を見ていた。


「ふむ、今日のところはこの挨拶だけにしておく。次は貴様を殺す」


「次はその身体完全に燃やし尽くしてやる。」


「ふふ、楽しみだ。実に楽しみだ。ジーザス。」


 そう言うとアリアは霧のように身体が消えていった。


「っぷはー!めっちゃ強かった!なにあれこわ!?」


「火花様よくぞご無事で!あれは魔族を絶滅させるためにヴェルカンディアスが作り出した回復ヒール細胞を身体に吸収した人間です。どんな攻撃を受けても首が吹き飛ばない限り回復してしまうのです。それでこの世界の魔族はほぼ絶滅したのです」


「なるほど。そりゃ手ごわいわけだ」


 私の手は震えていた。恐怖もあったが、それを押しのけて出てきた感情は「私と戦っても簡単に死なない人が現れてくれた」という喜びだった。


 そして無事山脈を超えると、その先に異様な森が見えてきた。迂回した方がいいとみんなが言っていた穢れた森。「チェルノボウグ騎士隊」が封印された森。


 次回は明日更新予定。

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