しかじかいうしか(三十と一夜の短篇第18回)
僕は大きな角のしか。普通は山に住んでいる。
だけど僕らは特別で、公園の中に住んでいる。
追い出されないのは、神の使いだかららしい。
朝になると表に出て、芝を食べる。
おなかがふくれたら、膝をたたむ。
ふとおんなを見かけ、立ちあがる。
おんなに逃げられた。僕は木陰に入りこむ。
群れを連れるしかが、とてもうらやましい。
速く流れる雲の下で、また短い芝を食べる。
座って休んでいると、小さな二本足がきた。
さっと立ち上がって、ゆっくりとお出迎え。
三回おじぎするのが、公園じかのマナーだ。
二本足は何か出した。あれはしかせんべいだ。
すぐさま首を伸ばし、しかせんべいをねだる。
けれども逃げられた。どうも角が怖いらしい。
二本足はいじわるだ。せんべいで僕らを釣りあげる。
おまけにおんな好き。みな揃っておんなの許へ行く。
逃げたあのおんなは、小さな二本足と一緒に戯れる。
横から視線を感じた。二本足が僕にカメラを向けている。
僕は顔を見せつける。そしたら二本足がにっこりと笑う。
きっと写真を持って、どこかへ見せびらかすに違いない。
僕らは遊ばれている。だけど僕らはつきあってやる。
二本足が気に入れば、観光客がもっと増えるらしい。
とても騒がしいけど、せんべいの枚数も増えていく。
これが僕らの商いだ。僕らはこの公園のマスコット。
食べ物をもらいつつ、すこし遊びにつきあってやる。
そしたら巡り巡って、僕らの暮らしはずっとつづく。