御剣学園シリーズ③~三人目と四人目
あれから、早瀬さんとは会ってない。
風紀委員長の声が聞こえてくることから、またどこかでサボってはいるんだろうけど。
ナナエルさんと会っても、そんなに話さなくなった。
「……」
「ふーかみ!」
「っ、と」
いきなり腕を乗せられて、仕舞っていたシャーペンを落としそうになる。
「購買、行こうぜ!」
「あ、冴島。購買行くなら、ついでにメロンパン頼むよ」
「じゃあ、俺あんぱん」
「私、購買じゃないけど、緑茶買ってきてー」
「俺はパシリじゃねぇっ!」
「つか、そんなに金無ぇし!」と冴島が叫べば、「冗談だよー」とか「フルーツサンド、追加ねー」と声が飛んでくる。容赦なきクラスメイトたちである。
「……冴島。僕も一緒に行くから、あまり気を落とすなって」
「深見ぃ……」
今の僕の言葉をどう受け取ったのかは分からないが、冴島がこっちを見た後、「よし、購買に行くぞ!」と僕を購買まで引っ張っていった。
☆★☆
そこは戦場だった。
「よし、行くぞ。深見!」
「え、あ、うん!」
そこに、情けなんか無かった。
「取れたか?」
「まあ、何とか」
にしても、冴島は律儀だと思う。自分の分だけではなく、頼まれていた分まで手にしていた。
「最後のフルーツサンドまで、よくゲットできたなぁ」
こっちは菓子パンの詰め合わせ一つだっていうのに。
だから、みんなは購買で、ちゃんと得られる冴島に頼むのかもしれない。その点については、納得だ。
「後は……緑茶か」
「やっぱり、自販機で買うのか?」
「そういう希望だからな」
やっぱり、冴島は律儀だ。
「先客か」
先客は、どれにしようか選んでいるようで、僕たちも自販機の方を見てみれば、緑茶の所に売り切れランプが点いていた。
「マジか」
「どうするんだ? 同じお茶で選ぶなら、麦茶か烏龍茶か紅茶系しか無いぞ」
「むー……」
自販機前で考えているのも何だから、先に待っていた女子生徒に「決まったようなら、先にどうぞ」と促す。
「……」
お礼は無いながらも、大人しそうなその子は、炭酸のジュースを選んだ後、軽く頭を下げて去っていく。
「仕方ない。麦茶で妥協してもらうか」
「余ったら、俺が貰えば良いだけだしな~」と言う冴島はちゃっかりしている。
そんな冴島が買い終わった後に、僕もスポーツドリンクを買って、教室に戻る。
「お前らー、買ってきたぞー。頼まれものは代金と交換なー」
みんなも慣れたもので、手早く取りに来ている。
「ありがと。はい、代金」
「自販機類はともかく、購買物品は残らずゲットしてるから、本当に怖ぇよな」
購買物品を頼んだ面々が肩を竦める。
「あれ、麦茶?」
「自販機に緑茶が無かったんだよ」
「ま、それでも買ってきてくれたんでしょ? ありがとね」
緑茶を頼んだ彼女もお礼を言いながら、代金を冴島に渡して席に戻っていく。
互いに信用し合っているから、冴島はゲットするし、みんなは冴島に頼んで買ってきてもらって、代金と引き替えてるんだろう。
「……そういえば」
自販機の前でどれにしようか迷ってた時、一瞬だけ妙な視線を感じたけど、あの場に居たのは、僕と冴島と先客である彼女。
問題の視線が、どこから向けられていたのかは分からない。
先客である彼女からか。
窓越しに見られていたのか。
通りすがった時に、目を向けられたのか。
本当の所は分からないけどーー……
「ま、そのうち分かるだろうし、いっか」
今はとりあえず、購買で買った菓子パンの詰め合わせを食べてしまおう。
☆★☆
「やぁ、織原」
「珍しく、ご一緒ですか。早瀬先輩、ナナエル先輩」
『織原』と呼ばれた少女が振り返れば、この学園の有名人二人が珍しく一緒に居た。
「そろそろ君も、彼と会う頃じゃないかと思ってね」
「……確かに会いはしましたけど、あれは『居合わせた』って言った方が正しいと思います。実際、あちらも気付いてなかったみたいですし、冴島先輩も一緒でした」
「まあ、彼らは同じクラスだしね。そういうことがあったとしても、特段可笑しくもないでしょ」
織原の言葉に、以前、彼ーー深見のクラスに行ったことのある早瀬がそう返す。
「けれど、これで四人とは……随分、ハイペースだと思わない? ナナエル」
「それは否定しない。普通なら、三年間で私たち全員と遭遇すれば良い方だからな」
ナナエルは、深見に自分たち全員と関わるつもりなら、覚悟するようにと忠告はしていた。
「もし、少年が本人の意志ではなく、何らかの事象により、引き合わされているのだとすれば……早瀬と会う前ーー冴島と同じクラスになった時点で、少年は私たちと関わることが決まっていたということになる」
「さすがに、それは……」
「いくら何でも、飛躍しすぎでは?」
ナナエルの言葉に、早瀬と織原が「まさか」と言いたげに反論する。
「けれど、次。少年が彼女に会えば、私の説明にも信憑性が増すことになる」
「まあ、そうなんだけど」
「冴島先輩が同じクラスなら、私が自分から近付く必要は無いわけですよね?」
「確かに、近付く必要は無いかもしれないが、君も何らかの形で接触することにはなるかもしれないぞ。私たちのようにね」
ナナエルの言葉に、織原が顔を顰める。
「嫌なフラグを立てないでくださいよ」
「冗談抜きで言ったんだが?」
「ナナエルのは、分かりにくいからなー」
冗談で言ったつもりはないというナナエルに、早瀬がけらけらと笑う。
「さてーー彼に会うのは、織原が早いか。彼女が早いか。そして、最速での全員との接触になるかどうか」
「……この状況を楽しんでますよね? 早瀬先輩」
織原が指摘するが、早瀬はにこにこと笑みを浮かべたまま「楽しんでるよ」と否定せずに返す。
「ナナエル先輩」
「私に振らないで。そもそも、少年が関わらなければ、早瀬と話そうとも思わなかったんだから」
「酷いなぁ。それが元級友に言うことか?」
「私はお前に本音しか言ってなかったと思うが?」
早瀬とナナエルが視線を交わす。
そんな二人に挟まれた織原は、そっと溜め息を吐くのだった。
2016.08.07 執筆
2017.08.07 投稿
2017.08.29 加筆
もう、連載にした方がよろしいでしょうかね……?
まあ、連載として纏めるにしても、⑤の投稿後になるでしょうが。