ロマリアと魔王
解けなかった謎がひょんな事から解ける事はわりとある。それは巡り合わせと言えるかもしれないけど、偶然だろうと運命だろうと、そんな事はわりとどうでもいい。要は謎が解けたと言う点が重要なのだから。
アリアントの街にある冒険者ギルドでミアさんからお願い事をされた俺達は、簡単にミアさんの素性を聞いた後で更に詳しい話を聞く為に、リュシカとラッティとミントが宿泊場所にしている宿屋で続きの話をする事にした。
普通に話を聞くだけなら冒険者ギルドですればいいんだろうけど、ミアさんから聞いた素性が素性なだけに、他の人達に聞かれる可能性を極力潰そうと言う事で宿の部屋で話を聞く事になった。なぜリュシカ達の泊まっている部屋を話の場としてチョイスしたのかと言えば、単純に俺とラビィが泊まっている部屋よりも広く、壁も厚いからだ。
そして全員で移動してリュシカ達の泊まる部屋へと着いた俺達は、適当にミアさんの周りに散らばって座り話を始める事にした。
ちなみに宿へと辿り着く前にとんがり帽子を風に飛ばされたラッティを見たミアさんが、ラッティをエミリーと勘違いしてかなり混乱していたという状況があった。けれどそれは、俺の説明によりすぐに勘違いだという事を理解してもらえたから良かった。
「それではミアさん、ここで改めて事情を聞かせて下さい」
「はい。では、改めて私の事をお話させていただきます。私はレイリー・ミア・ロマリアーヌ。このラグナ大陸にある魔術国家ロマリア国の王女で、父の野望を止める為にアストリア帝国女王、シャルロット・リア・アストリア様と、第一皇女、ヴェルヘルミナ・エミリー・アストリア様にご助力の嘆願をする為に国を飛び出して参りました」
宿屋の一室で始まったミアさんの話は長く続き、その全てを聞き終わる頃にはお昼を過ぎていた。
そしてミアさんからの話を聞いた俺達は、図らずとも魔術国家ロマリアの国王がしようとしていた計画を知る事になった。
ラグナ大陸の北。寒冷地側に位置するロマリアは今でも小国として世界に認知されているが、建国から三十年間のロマリアは今よりも遥かに国としての規模が小さく脆弱だったらしい。
肥沃な土地があるわけでもなく、貴重な資源があるわけでもないロマリアが国として大きくなっていくのは難しい。それでも少しずつロマリアが大きくなっていったのは、魔術というものをよく知り、その特性を活かしたアイテムなどを生み出す事に長けていたからに他ならないとミアさんからは聞いた。
しかし、マジックアイテムなどは効果が高くなるほどに成熟や精製、生産に時間がかかる。それではいつまでも国が潤わない。
そこで現ロマリア国王は魔術の優秀な人材を集め、その問題を解決する事に乗り出したらしいのだが、それでもその問題は解決されなかった。
ミアさんの話によると、そんな膠着状態が永く続いたロマリアの状況が大きく変化したのは十数年前。まだミアさんが幼かった頃まで遡る。
マジックアイテム作りにおいていくつかある問題点を解決できずにいたある日、ロマリアに一人の青年が訪れた。
その青年は世界を渡り歩く旅人だったらしく、食料と当面の旅費を稼ぐ為にロマリアへとやって来たらしい。そんな青年が偶然にもマジックアイテム開発の仕事募集を受け、ロマリア城の研究施設へとやって来たのが始まりだったという事だ。
その青年は研究施設に居た誰よりも魔術というものを心得ていて、マジックアイテム開発にも並々ならぬアイディアを出して問題を解決へと導いた。
しかしそれは、その青年が持つ無尽蔵とも思えるほどの膨大な内包魔力と、それをコントロールする術を持っていたからできたに他ならない。
そんな青年の出現によりロマリアのマジックアイテムの生産効率と品質は一気に向上し、国民生活は雲泥の差と言う位にまで変わった。寒冷地側にあるにもかかわらず、マジックアイテムの使用で農業や林業、牧畜などもやりやすくなり、国の自給自足率も大きく向上。国としての自力をメキメキと上げていった。
本来ならそれでロマリアの当初の目的は達成されていたんだけど、国が大きくなれば人の心も変わる。それはロマリア国王も例外ではなかったらしく、徐々に黒い野望を持つ様になっていったという。
ロマリア国王の黒い野望。それは経済を操作して意図的に世界を混乱に陥れ、その時に豊富な物資と人材を持つロマリアが世界の先頭に立って他の国々を統治する――というものらしい。
初心者の街リザルトがあるプラート大陸からここへ来るまでにロマリアが絡んでいると思われる出来事は色々とあったけど、その全てが経済に影響を及ぼすものが多かった。それを考えると、ミアさんの話してくれた事は多分本当なんだろうと思える。
「話は大体分かりました。要するにロマリア国王は経済的に世界を掌握して、他の国々を従わせようとしている――そう言う事ですよね?」
「はい、そう言う事になります。ですから私は父を止めたいのです。父のやろうとしている事はいたずらに世界を混乱に陥れ、争いの種を生むだけですから……」
「……ミアさん。一つ疑問なんですが、その協力してくれてる青年にロマリアへの協力を止めてもらえば、そんな事を出来なくなるんじゃないですか?」
「確かにそうです。ですからその方は、父の考えを良しとせずに一度は国を去ろうとしたんです。ですがそれを知った父の差し金で強力な魔術結界に囚われ、そこで一種の仮死状態の様になり、そのまま膨大な魔力を奪われ続けています」
「なるほど……ちなみにその青年はどんな人で、名前は何と言うんですか?」
「その方はいつも優しい表情をした細身の方で、短い銀髪をしています。ロマリアへ来るまでは世界中を旅して回りながら、親の居ない子供を集めて孤児院を経営されていたと聞きました。その前は大勢の仲間の方々と一緒に世界中で色々な事をしていて、当時は仲間の方々から魔王と呼ばれていたとか何とか」
「そ、その人ってもしかして、ラッセルって名前じゃありませんか!?」
「えっ? あ、はい。私も小さい頃に一度だけお名前を聞いただけですが、確かそんなお名前だったと思います」
ここに来てロマリアと魔王ラッセルとの関係が一気に判明した。
ミアさんが話してくれた事からこれまでの経緯を見て色々な事件を考えると、そのほとんどが一本の線に繋がってくる。
つまりロマリア国王はラッセルの力と存在を悪用し、世界の支配を狙っている。そしてラッセルはそんなロマリア国王に捕らえられ、自分が意図したわけでもなくロマリア国王へ力を貸す形になっている。
これでようやく俺の中にあったこの異世界における魔王ラッセルの存在感があやふやな理由が分かった。
おそらくロマリア国王は、かつて魔王と呼ばれていたラッセルを利用しつつ世界を支配する事を思いついた。そんな中で孤児院の子供達を利用しようと考えたのも、きっとラッセルの名前を出せば利用しやすいと考えたのと、身寄りの無い子供達ならロマリアとの繋がりがばれにくいと考えたんだろう。
そして各地で魔王の仕業と言われている騒動も死者がほぼ居ない事を考えると、殺す事が目的ではなく、ラッセルと言う魔王が居る恐怖で人々の心を縛る為だと言えるだろう。前にも言ったとおり、人の話には尾ひれが付きやすいから。
それにロマリア国王の目的は殺戮による支配ではなく、あくまでも各国の経済的支配だろうから、人を殺すのは良しとしていないのだろう。人を殺してしまっては、国の発展など在り得ないのだから。
そう考えると、リリティアでのアクア湖汚染事件や、各地にある孤児院への物資供給行動、アルフィーネの街を混乱に陥れたのも、大きな経済的混乱行動を起こす為の前哨戦。いわゆる自分達の行動がどういう結果や流れに繋がるのかを見る為のものだったのかもしれない。
「まったく……ラッセルの奴、簡単に捕まって利用されてんじゃないわよ」
「でもティアさん。これでラッセルが魔王として世界を脅かしていたわけじゃないって分かったから、良かったじゃないですか」
「ま、まあそうね。でも、アイツがアホな事に変わりはないけど」
憎まれ口を叩いてはいるけど、ティアさんの表情はとても明るかった。何だかんだ言って、ずっとラッセルの事が心配だったんだと思う。
様々な謎が解けていくと同時に、俺達が最終的にやらなければならない事が見えてきた。それは、ロマリアに囚われている魔王ラッセルの救出だ。
囚われの魔王を助けるなんて、俺がやってきたゲームの中にも無かった事だけど、事実は小説よりも奇なりと言うし、ここが異世界という事を考えればこんな事もあるんだろう。
こうして俺達はミアさんの話を元に旅の計画の見直しを図り、魔王ラッセル救出作戦へと内容を変更した。




