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大人幼女の誘惑

 女体化を治す事ができるかもしれないと期待していたムルガ特源とくげん火山天然温泉への入浴は、結局、色々なトラブルと騒動があったせいで目的の効能を持った温泉へと浸かる事ができず、そのままテンペイにある宿へと戻る事になった。

 それなら日を改めてからもう一度行けばいいと思われるかもしれないけど、モンスターの出現率が高いあの場所に一人で行き、目的の温泉に浸かるのは難しい。だからと言って、仲間を連れて行こうとすれば唯もティアさんも絶対に付いて来るだろうから、今回と同じ様な事になるのは目に見えている。

 それに今は大人化してしまったラッティの件もあるから、温泉がどうとか言っている場合ではない。まあ、俺達の泊まっている宿の女将であるハルさんが言うには、『個人差はあるけど、時期に元に戻るわよ』と言っていたから、ラッティがあのまま大人の姿を保ち続ける事は無いだろう。

 だが、ラッティがいつまで大人の身体をしたままなのかは誰にも分からない。となれば、大人ラッティに合わせた服なんかも当然必要になる。

 だから大人ラッティ用の服を急いで買いに行こうとしたんだけど、温泉から街へ戻って来ても尚、ラッティは溺れた事がよっぽど怖かったのか俺から離れてくれず、一緒に買い物へ行くのは困難だった。と言うわけで今、唯とラビエールさん、ティアさんとアマギリが大人ラッティ用の服を選びに行ってくれている。


「ラッティ、少しは落ち着いたか?」


 俺が借りている部屋の布団で横になっているラッティは、その問い掛けに対して小さく頭を左右に振った。俺の右手はずっとラッティに強く握られていて、どこかへ行く事もままならない状態だ。

 温泉で溺れたのが怖かったのは分かるけど、このままでは色々と困る。ラッティと一緒ではトイレにも行けないし、ご飯もまともに摂る事ができない。そして何より、布団に入っているとは言え、今の半裸に近い状態の大人ラッティと一緒に居るのは精神的にも良くない。


「にいやん、一緒に寝て……」

「ふぁっ!?」


 幼女の時には何度か頼まれて添い寝した事くらいはあったけど、流石に今のラッティと添い寝はマズイと思う。色々な意味で。


「ああ、いや……こうして手を握ってるから、それで良くないか?」

「ううっ……やだあー! にいやんも寝てくれないとやだあー!」

「おいおい」


 美人な外見に似つかわしくない駄々のこね方をするラッティ。いくら外身がダイナマイツになっても、中身は甘えん坊の七歳児。だから一度こうなってしまうと、その要求を呑まない限りは落ち着かせるのが難しい。

 大人ラッティの服を買いに行ってる四人もそろそろ帰って来るだろうし、決断を下すなら早い方がいい。


「わ、分かった分かった! 一緒に寝るから!」

「本当?」

「ホントホント。だからラッティ、少しだけ横に移動してくれ」

「うん!」


 にっこりと笑顔を見せながら素早く横へとずれ、俺が入る場所を空けるラッティ。傍から見れば年頃のカップルがいちゃついている様にしか見えないだろう。

 とりあえず、買物組みが帰って来る前にラッティを落ち着かせ、早めに布団から出なければいけない。


「にいやん……」


 ラッティは隣に入った俺の腕を、いつもの様にギュッと両腕で抱き包む。

 幼女の時は妹を相手にしているみたいで可愛いもんだが、今のラッティにこれをされると非常にヤバイ。なにせ俺の腕はラッティの腕だけではなく、大きな胸の真ん中に見事に挟まれているからだ。


 ――心頭滅却、心頭滅却…………。


 いくら外見が変わろうとも、中身はただの幼女。そんな相手に大人として欲情するわけにはいかないが、男としてこの仕打ちは単純に辛い。

 俺は大人として自分の中にある理性を総動員し、柔らかな二つの感触に耐え続けた。

 そんな事を考えながらラッティが寝てくれるまで待っていると、いつもの様に俺の身体が女体化を始めた。それは外で夕陽が沈んだ事を示す。


「はあっ……どうにか落ち着いたかな……」


 女体化が終わると同時に俺の中にあった劣情は急速に衰え始め、腕に感じる二つの感触に対して特に何も感じなくなった。これはきっと、女体化した事によるものだろう。いつもならわずらわしくてたまらない女体化現象だが、今この時に限ってはありがたいと思える。

 そんな風に思いながらしばらくラッティの寝顔を見ていると、部屋のドアをコンコンと叩く音と楽しげな声が聞こえてきた。

 ドアの向こう側から聞こえる声は、間違い無く唯とティアさんの声だ。ならば今の状況を見られるわけにはいかない。

 俺はラッティを起こさない様に抱き包まれた腕を引き抜こうとするが、抱き包まれた腕を引き抜こうとすればするほど、俺の腕は強固に抱き締められてしまう。


「ダーリン、居ないのー? 入るわよー?」

「ちょっ、まっ――」


 ティアさんの言葉に慌てて静止の言葉を言おうとしたが、その時にはもう、部屋の扉は開かれていた。


 ――あっ、終わった……。


 この光景を見られた以上、俺はただではすまないだろう。

 そう思った俺は覚悟を決めて両目を強く瞑った。


「あら、一緒に寝てたのね、ダーリン」

「あっ、本当だ。ラッティちゃんと一緒に寝てたんだね」


 部屋へ入って来たのは唯とティアさんの二人だけだが、二人は俺とラッティの状況を見ても咎める様な発言は一切せず、むしろ微笑ましいと言った感じのにこやかな笑顔を見せていた。

 俺にとってそれはありがたい事ではあるけど、二人の反応が意外過ぎて逆に怖くなってしまう。

 本来ならその事に触れずにこの流れに乗っておけばいいんだろうけど、気になった事は聞きたくなる性分の俺は、布団に寝たままで二人に向かって問い掛けてしまった。


「あの……怒らないの?」

「怒る? どうしてダーリンを怒らないといけないの?」

「いやあの……ほら、こうやってラッティと寝てるから……」


 俺はそう言いながら空いている方の手で布団を捲り、ラッティが俺のもう片方の腕を抱き包んでいる様子を見せた。


「あー、なるほど。そういう事か。ふふっ、お兄ちゃん考え過ぎだよ」

「考え過ぎ?」

「お兄ちゃんの事だから、ラッティちゃんに腕を絡められた場面や添い寝してる場面を見られて私とティアさんに怒られるとか思ったんでしょ?」

「あ、えっと、うん……」

「そんな事を思ってたの? いくらなんでもそんな事で怒ったりはしないわよ。だって、今のダーリンは女性なんですもの」

「そうそう」

「ははっ、そ、そっか。いやあ、悪かったよ、二人共」

「ふふふっ。…………ところでダーリン。一つ大事な事を聞いておかないといけないんだけど」

「そうそう、大事な事を聞いておかないと」

「な、何?」


 今までにこやかだった二人の笑顔がスッと消え、唐突に真顔になった。

 俺はそんな二人の真顔を見て、ゴクッと唾を飲み込む。


「ラッティちゃんと添い寝を始めたのはいつ? まさか、日没前からじゃないわよね? ダーリン?」

「いやだなあ、ティアさん。お兄ちゃんが半裸の女性と男性の時に一緒のお布団に入るなんて、そんな事ありえませんよお。ねえ? お兄ちゃん?」

「も、もちろんさ! そんな事あるわけないだろ!? もちろん女体化してからに決まってるじゃないか!」


 真顔でそんな事を聞く二人を見た俺は、本当の事を口にすれば間違い無く殺されると直感した。だから俺は、自分の命を守る為に嘘をついた。


「だよねー。お兄ちゃんに限ってそんな事するはず無いよねー」

「そ、そうそう!」

「うんうん。私のダーリンは誠実な人だもんね」

「そ、そうですよ!」


 二人の言葉に胸が痛くなるけど、自分の命には代えられない。ここは意地でも嘘を真実だと言い続ける必要がある。


「でも……枕に短い髪の毛が付いてるけど、これって……ダーリンのじゃないの?」


 ティアさんはまるで姑の様に枕に付いていた短い髪の毛を指で摘み取り、それを俺へと見せながらそんな事を言う。


「そ、それは多分、布団の側に居たからその時に落ちたものですよ」

「ふーん、なるほどお……それなら仕方ないわねえ」

「そうですねえ、ティアさん……」


 不気味な笑みを浮かべる唯とティアさんを前に、俺は全身から嫌な汗を掻き始めていた。

 そしてそれからしばらく、俺は唯とティアさんから飽くなき追及を受ける事となった。

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