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あやふやな存在

 辿り着いたリザルトの街で雑貨店に並べる品を吟味して回る事しばらく、満足する品が手に入った様で、ティアさんの表情はとても明るかった。


「それじゃあちょっと出かけて来るから、ダーリン達は自由にしてていいわよ。でも、明日の朝は仕入れの続きをしてからリリティアへ戻るから、夜更かしはしないようにね。それじゃ」


 仕入れた品を大量に持ってティアさんがご贔屓ひいきにしている宿屋へと向かい、通された三人部屋の片隅に荷物を丁寧に置いた瞬間、ティアさんはそれだけを言ってからどこへ行くとも告げずに部屋を出て行った。

 窓外に見える紅い太陽は、そろそろこの世界から一時的に姿を隠そうとしている。となれば当然、ティアさんが向かっている場所は一つしかない。きっとあの女の子との約束どおり、街の門へと向かったのだろう。


「ラビィ、これからどうする?」

「私は疲れたから、ご飯を食べたらすぐに休ませてもらうわ」

「そっか。それじゃあ俺はちょっと出かけて来るから」

「出かけるのはいいけど、夕食代は置いて行ってよね。私はリョータに全財産を取られてるんだから」

「へいへい。無駄遣いするなよ?」

「ふふふ、分かってるって。どうぞごゆっくりー」


 別の袋にラビィの夕食代を入れて手渡すと、ラビィは上機嫌で俺を部屋から送り出した。

 あの袋の中にはそれなりにお金を入れたけど、きっとあの袋が俺に帰って来る時には中身はすっからかんになっているだろう。それだけは容易に想像がつく。

 それなら中身を少なくすればいいと思うかもしれないけど、あからさまに中身が少ないとラビィは癇癪かんしゃくを起こすし、そうなると店にも迷惑がかかる。だからあの場合、中身は少な過ぎず多過ぎずの絶妙な加減が必要になるのだ。

 異世界へ来てから順調にレベルアップしているのは、このラビィの扱い方スキルだけ。そう思うと本当に虚しくなるけど、ラビィと一緒に居る以上、このスキルはとても重要だ。もしもこのスキルが無ければ、俺はとっくの昔にこの異世界において朽ち果てていたはずだから。

 そんな事を考えながら宿を出た俺は、一旦建物の陰に入ってから奇襲スキルを発動させて姿を消し、それから街の門の方へと向かい始めた。

 こうしてわざわざ街中で奇襲スキルを使ったのには二つの理由がある。

 一つ目は夕暮れ時を迎えた事により、そろそろ俺が女体化する時間が差し迫っていた事。二つ目は、ティアさんとあの女の子に気付かれない様にして様子を窺う為だ。

 本当なら素直にティアさんへ同行を申し入れるのが筋だろうけど、俺が居てはあの二人が本音の会話をしないかもしれない。それではまったく意味が無いし、ティアさんにも申し訳ない。だからこうしてこっそりと二人の話を聞きに行こうとしているわけだ。まあ、俺としては罪悪感があって気乗りしないけど。

 しかしながら、この計画は思ったよりも簡単ではない。なぜならティアさんは、あの可愛らしくも美しい見た目にそぐわない位に強いからだ。故に下手な尾行ではすぐに勘付かれてしまうだろう。

 ティアさんの話していた魔王ラッセルがどれくらいの実力者なのかは知らないけど、間違い無く、俺などでは敵う術すら無い程の実力者だろう事は容易に想像がつく。

 だけどそんな魔王ラッセルを以前、ティアさんは感情に任せていたとは言え殺そうとしていたし、妹のティナさんも、『姉さんはラッセル君よりも強いですし、あっさりとラッセル君をってくれると思いますよ?』と言っていたくらいだから、その実力は俺などには到底測れるものではない。

 ただ一つはっきりと分かる事は、ティアさんは魔王ラッセルよりも強いって事くらいだが、それだけが分かっていれば今は十分だ。

 俺はそんなティアさんに存在を悟られない様にしながら追い抜き、素早く街の門を出てから門周辺の様子がしっかりと窺える大きな木の下で覗き見をする様にして待機を始めた。

 するとこの場所に待機してすぐ、門から少し離れた場所にアマギリが突然スッと姿を現した。そしてそれから一分と経たない内に、両手に木製のコップを持ったティアさんが門の外へと出て来た。

 俺は二人の話を遠くから聞く為だけに先程習得した集音スキル、ヘルイヤーを使って二人の話しに耳をそばだてる。

 アマギリと名乗る謎の少女とティアさんの本音が聞けるかもしれないと思ってこんな事をしているけど、やっている事はただの盗み聞きだから気は引ける。しかしそうは思うものの、あの謎の少女とティアさんがいったいどういう話をするのかという興味の方が、今は罪悪感よりも勝っていた。


「待たせたみたいでごめんなさいね。これあげるわ」

「あ、ありがとう……」


 ティアさんは両手に持っていた木製のコップを一つ、アマギリの前へと差し出した。

 すると差し出されたコップを受け取ったアマギリは、最初こそ恐る恐ると言った感じでそのコップに口をつけたけど、一口その中身を飲んだ瞬間にパーッと表情を明るくし、美味しそうにゴクゴクと中身を飲み始めた。そんなアマギリの様子を見たティアさんは、満足そうな表情を浮かべながらコップに軽く口をつける。

 そしてアマギリが飲み物を飲んでふうっと満足そうな吐息を出すのを見たティアさんは、さっそくと言った感じで話の口火を切った。


「ねえ、アマギリ。あなた本当にラッセルから言われて来たの?」

「もちろん。私はラッセル様に頼まれてあなたを迎えに来たんだから」

「そっか……」


 アマギリの返答を聞いたティアさんは、何やら難しい表情を浮かべながら考え込む様な態度を見せた。


「どうしたのよ? 何かおかしな事でもあるの?」

「おかしいと言えばおかしいわね。ラッセルの性格を考えれば、あなたみたいな子供にこんな危ないお遣いを頼むとは思えないし」

「こ、子供じゃないもん! 私は永遠の十七歳の大人だもん! それにラッセル様は私を信用してお仕事を任せてくれたんだから!」


 どうやらアマギリは永遠の十七歳って事に拘りがある様だけど、どう見ても聞いても、その言動は十七歳にそぐわない。少なくともラッティよりは大人に見えるけど、それでもアマギリが子供に見えるのは変わりない。


「あのねえ、いくらあなたを信用してるからって、戦闘能力を有している人の元へ子供であるあなた一人を向かわせるって事自体がラッセルらしくないのよ」

「ど、どう言う事?」

「ラッセルはね、馬鹿でアホで単純な奴だけど、とても優しい奴なのよ。そして未来を育む子供が何よりも好きな奴なの。そんな奴が子供にこんな危ない真似をさせるって事がどうにも変で仕方ないの。だから最初にあなたに聞いたのよ。『本当にラッセルから言われて来たの?』って」

「本当よ! 本当に私はラッセル様に言われて来たんだからっ!」


 あくまでも魔王ラッセルに言われて来たという事を主張するアマギリだが、ティアさんは未だに疑いの表情を変えない。


「……分かったわ。このまま問答を続けてもきっとらちが明かないし、今回はアマギリの顔を立てて一緒について行ってあげる」

「本当に!?」

「その代わり条件が二つあるわ」

「な、何?」


 ビシッとVの字にした左手をアマギリの前へと突き出すティアさん。いったいどんな条件を突き出すのだろうかと、こっちまでドキドキしてくる。


「一つ、ラッセルの元へ行くのは私とダーリンの二人。二つ、もしもラッセルが本物だった場合、私はアイツをってしまうかもしれない。この二つの条件を容認して覚悟できるならついて行ってあげる」

「ひ、一つ目はともかくとして、二つ目の条件は飲めるわけないじゃない。それにどうしてラッセル様をあなたが殺そうとするのよ。昔の仲間でしょ?」

「あのねえ、私はラッセルが魔王として世間で恐れられているせいで、大好きなダーリンとまともに付き合う事ができないでいるのよ? これが迷惑と言わずに何て言うの?」


 左手をグッと握り締めながらそんな事を言うティアさん。

 普通なら冗談だと思うところだろうけど、あの人は色恋に関しては冗談を言わない。だから魔王を殺すかもしれない宣言はマジだと捉えておくべきだろう。


「ダーリンてもしかして、一緒に居たあの男の人?」

「そう! 私が世界で一番愛しているダーリンよ」


 とろけ落ちそうな程のニヤケた表情を浮かべながら、ティアさんは身体全体をクネクネと動かす。

 こんな甲斐性無しの俺を、世界で一番愛している――とまで言ってくれるんだから、本当にありがたいと思う。そしてそんなティアさんの想いに素直に応えられないのが何とももどかしい。


「あんな冴えない人がいいなんて、変わってるんだね……」

「はっ? 何か言った?」

「ひいっ!? な、何も言ってないっ!」

「それならいいわ。で? どうするの? 私の出した条件を飲んでラッセルのところへ連れて行くの? それとも諦めるの?」

「わ、分かったわよ。条件を飲むわ。どうせあなたはラッセル様には勝てないし、何も心配する事は無いもの」

「ふふっ、交渉成立ね。それじゃあダーリン、時間が惜しいからさっさと行っちゃいましょう」


 話が纏まった瞬間、ティアさんが俺の隠れている方角を向いてそんな事を言ってきた。

 その様子に思わず反射的に木陰に隠れると、すぐ右隣の耳元でティアさんの声が聞こえてきた。


「ダーリン。盗み聞きはいただけないけど、私を心配して来てくれたと思って無かった事にしてあげるから、一緒にラッセルの所へ行きましょう」

「のわっ!?」


 驚きのあまり声を上げながら左方向へ飛び退くと、クスクスと悪戯な笑みを浮かべているティアさんが立っていた。

 俺が居る位置とさっきまでティアさんが居た位置までは、最低でも百メートルは離れているはず。どうやってこの距離を一瞬で詰めたのか分からないけど、ティアさんならそれくらいの事は出来そうだと思えるから不思議だ。


「ふふっ。さあ、行きましょう。ダーリン」

「分かりました」


 こうしてクスクスと小さく笑うティアさんに助け起こされた後、俺はティアさんと一緒にアマギリのもとへと向かった。


「さあ、ダーリンの了承も取ったし、ラッセルの所へ行きましょう」

「……分かったわ。それじゃあ行くよ」


 太陽が完全に沈む直前、俺とティアさんは魔王ラッセルに会う為にアマギリの転移魔法でどことも知れぬ地へと連れて行かれる事になった。

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