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番外編エピソード・できた妹達の異世界生活

 その場所は現実とは思えない程に幻想的だった。何がどう幻想的なのかと言えば、見回す限りどこまでも続く水槽の中に、見た事もない形状の色鮮やか魚達が泳いでいるから。

 言ってみればそこは水族館の様な場所なんだろうけど、私以外に誰も居ない水族館なんてどう考えてもおかしい。それが私から現実感を奪っている原因の一つでもあった。


「選択の間へようこそ。近藤唯こんどうゆいさん」


 しばらく水槽の中に居る魚達を眺めていると、突然誰も居なかったはずのこの場所に、美しく透き通る落ち着いた雰囲気の声が響く。その透き通る声に惹かれるようにして視線を向けると、艶やかで長いブロンドの髪をした美しい女性が立っていた。

 その女性はどこか近付き難い雰囲気をしているけど、表情はとても柔らかくて優しげだ。


「あの……あなたは? どうして私の名前を知っているんですか? ここはどこなんですか?」

「私は天界よりこの選択の間を任されし女神、イリュシナ。近藤唯さん、あなたは残念ながら、現世においてその命を落としました。そして若くして亡くなった魂は、ここで三つの行く先から一つを選択しなければいけません。一つ、再び日本で生まれ変わる為にあの世へと旅立つ。二つ、あの世で永遠の安息につく。三つ、魔王が席巻する異世界へと転生し、新たなる生をまっとうする。この三つの中から今この場でお選び下さい」

「死んだ……? 私が死んだ?」


 自身を女神だと言うその女性の言葉を、私はすぐに信じる事はできなかった。だって私の生活の中に、死を感じさせる要素は微塵も無かったんだから。

 でも、目の前に居る女性が嘘をついているとも思えなかった私は、とりあえずいくつかの質問をしてみる事にした。


「あの、ちょっと質問をしてもいいでしょうか?」

「はい。私にお答えできる事でしたら」

「ここへ来る前の記憶が曖昧でしっかりと思い出せないんですが、私はどうして死んでしまったんでしょうか?」

「あ、えっとあの……それは…………」


 この場所へと来てしまった根本は、私が死んでしまった事。だったらその原因を知りたいと思うのは当然だと思う。

 けれど私の当然とも思える疑問から生じた質問に、その美しい女性は凛とした表情を崩して顔を真っ赤にした。予想もしていなかった女性の反応にちょっとだけ驚いたけど、顔を赤くしてもじもじとしているその女性の姿はとても可愛らしい。

 でも、そんな思いとは裏腹に、私の質問に対してこんな態度を見せる女性の事はかなり気にかかる。


「あの……何か言い辛い事なんでしょうか?」

「それはその……言い辛いと言えば言い辛いのですが……どうしても聞きたいのでしょうか?」

「はい。差し支えないなら聞かせて下さい」

「…………分かりました。それではお話します。どうか心を強く持って聞いて下さい」


 その女性はコホンと一つ咳払いをすると、私がここへ来た原因を話し始めた。

 特に長い話をされたわけではなかったけど、話を聞いて全てを思い出した後の私は、茫然自失状態だったと思う。だって、あんな恥ずかしい話を聞かされたんだもん。

 それに、私がここへ来る前にしていた事を彼女は知っていた。だとすると、彼女が女神様であると言う事は疑いようがないのだろうと思える。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です……」


 正直な事を言えば大丈夫ではなかった。けれど今更それを悔いたところでどうしようもない。とんでもない事で命を落としてしまったけど、私にはまだ希望が残っている。

 そしてその希望が確かなものである事を確認する為に、私にはどうしてもこの女神様に聞いておかなければならない事があった。


「あの、もう一つお聞きしたいのですが、若くして亡くなった魂はこの選択の間へ来るんですよね?」

「はい、その通りです。ただし選択の間へ来れるのは、大罪を犯していない者だけですが」

「では、だいぶ前にここへ近藤涼太と言う男性が来ませんでしたか?」

「えっ!? あ、あの……それは…………」


 お兄ちゃんについての質問をした瞬間、女神様の元に戻っていた凛とした表情がまた崩れた。しかも、私の死んだ理由を話してくれた時の様に顔を真っ赤にしている。

 そんな女神様の様子はとても気になるけど、今はお兄ちゃんの事を確かめるのが先決。


「どうなんですか?」

「……あ、はい。確かに近藤涼太さんはこの選択の間へと導かれました」


 ――やった!!


 きっとそうだろうとは思っていたけど、私の思っていたとおりにお兄ちゃんはこの選択の間へと来ていた。

 嬉しさでドキドキと高鳴る胸。この感覚、お兄ちゃんを亡くして以来、久しく感じていなかった。もう二度と会えないと思っていたお兄ちゃんに、また会えるかもしれない。その希望だけで私の心はかつて無い程に躍っている。

 興奮に胸を躍らせつつも、私は最後の質問を女神様に向けて問いかけた。


「それじゃあ、その近藤涼太はどの道を選んだのでしょうか?」

「残念ですが、それについてはお答えできません。天界で定められている規定なので」

「そうですか……」


 ここへ来た事を教えてくれたくらいだから、お兄ちゃんがどの道を選んだのかも教えてもらえると思っていたけど、その考えは甘かったみたい。

 でも、お兄ちゃんが女神様の言った三つの行く先から一つを選んだのは確か。それが分かっているなら、後はお兄ちゃんが選びそうな選択肢を私が当てるしかない。私は女神様の言っていた三つの選択肢を思い出しつつ、お兄ちゃんが選びそうな道を考える。

 お兄ちゃんの性格上、退屈そうな行き先を選ぶとは思えない。加えてお兄ちゃんは、理想を強く追い求めるところがあった。それはお兄ちゃんが愛読していた小説やゲーム、見ていたアニメや映画などからも窺える。だとしたら、お兄ちゃんの選びそうな道は一つしかない。


「どの道へ進まれるか決まりましたか? 近藤唯さん」

「はい。私は異世界への転生を希望します」


 確証があるわけではないけど、私の知っているお兄ちゃんならきっと、異世界への転生を選んでいるはず。いや、そうじゃなきゃ困る。そうじゃないと、私はお兄ちゃんに会えないんだから。

 不安が無いと言えば嘘になる。勝率の高い賭けだとは思っていても、万が一と言う事もある。だから私は祈る様な気持ちでいた。


「その願い、確かに聞き入れました。では、サポーターは同行させますか? それとも一人で向かわれますか?」

「それでは、サポーターの同行をお願いします」


 地球とは違う場所にある異世界。地球でも国が違えば習慣や文化、風習が違う。それが異世界ともなれば、どれ程の違いがあるのか想像もつかない。だったら協力者は多い方が良いに決まっている。一人では無理な事も、二人なら可能になる事は多いのだから。


「それでは、こちらの中から同行してほしいサポーターをお選び下さい」

「あ、はい」


 どこから取り出したのかは分からないけど、女神様は分厚い紙束をいつの間にか手に持っていて、それを私に手渡してきた。

 とりあえずその紙束を受け取った私は、上から順にその内容を見ていく。そこにはとても沢山の人のプロフィールが載っていたけど、どうやら内容を見る限りでは天使のプロフィールのようだった。サポーターとして天使を同行させてくれるなんて凄いなあと思いつつ、一つ一つのプロフィールに目を通していく。


 ――あっ、この子凄く綺麗……。


 私の目に留まったのは、ラビィさんと言う名の黒髪ショートのとても綺麗で可愛らしい天使。これまでのページで見てきた天使もとても美しい人が多かったけど、その中でもこのラビィさんは群を抜いて目を惹く。

 そんな美しさに惹かれてこの人にサポーターをお願いしようかとも思ったけど、私は寸でのところでそれを思い止まった。これから行くのは未知の中の未知、異世界。美しいからとかそんな基準でサポーターを選んだらきっと後悔するから。

 それに幸いと言っては何だけど、このラビィさんは既に誰かのサポーターとして活動をしているらしく、右上の隅にサポート不可の刻印がされていた。


 ――もしかしたらお兄ちゃんだったりして。


 お兄ちゃんも綺麗な人や可愛らしい人は好みだから、ラビィさんはそう言った意味では最もお兄ちゃんが選びそうな人ではあった。

 だからふとそんな事を考えてしまったけど、いくらお兄ちゃんの好みとは言え、さすがにお兄ちゃんも見た目だけでサポーターを選ぶほど短絡的ではないと思う。

 そんな事を考えつつ、自分の目的を果たす為に必要な事を考えながらサポーターを選ぶ。


 ――うん、この人にしよう。


 女神様から受け取ったプロフィール全てに目を通した後、私は考えた末にラビエールさんと言う治癒を司る天使をサポーターとして選んだ。

 ラビエールさんを選んだのには色々と理由があるけど、彼女を選んだ最大の理由はその治癒能力。モンスターとの戦いがある異世界である以上、怪我をする事を前提に物事を考えておく必要はある。

 それに異世界なら、地球では知られていない疫病や病気も当然考えられる。それなら当然、命を繋ぎ止める事の出来る能力を有した人を側に置いておきたくなるのが当然だと思う。


「同行させるサポーターは決まりましたか?」


 私が決心したのを見計らった様にして、女神様が問いかけをしてきた。まるで心の中を読み取られたのではと思える程にタイミングが良い事に驚きはしたけど、相手が女神様である事を考えればそういう事も可能なのかもしれない。


「はい、決まりました。こちらのラビエールさんにサポーターをお願いしたいです」

「ラビエールですか。ラビエールはとても優秀な天使ですから、きっとお役に立てると思います。では、大天使ラビエール、この場に姿を現すのです」


 女神様が両手を高く掲げてそう言うと、私と女神さまの間の空間に青く輝く魔方陣が現れ、そこから一人の人物が姿を現した。

 サラサラと軽やかに揺れ動く、長く黒いロングヘア。その清楚かつ神秘的な雰囲気は、まさに天使と呼ぶに相応しいと思える。


「お呼びでしょうか? 女神イリュシナ様」

「大天使ラビエール。あなたが大天使に昇格してから初の仕事です。こちらの近藤唯さんと共に異世界へと赴き、しっかりとサポートをして下さい」

「はい、仰せのままに。近藤唯さん、私は天使ラビエール。これからよろしくお願いしますね」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 イメージどおりの天使らしい優しく温かな微笑み。そんなラビエールさんを見た瞬間、きっとラビエールさんとは上手くやっていけると確信した。


× × × ×


「大丈夫ですか?」


 女神様の出した魔法陣に入り、物凄い力で引っ張り込まれる様な感覚を味わった後、暗い中を漂う私の意識に優しい問いかけが聞こえ、それからすぐ後頭部にじわっと優しい温もりと柔らかさが伝わって来るのが分かった。


「ううん……だ、大丈夫です……」


 ゆっくりと目を開きながらそう告げると、心配そうに私の顔を覗き込むラビエールさんの顔が見えた。

 後頭部に感じる温かみからして、自分が膝枕をされているのはすぐに分かった。


 ――何だか懐かしい……この感じ。


 それはまるで、小さな頃お母さんにされていた膝枕を思い出させる。とても懐かしく、とても心地良い感覚。


「良かった」

「あっ、ごめんなさい!」

「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」


 その声に私は我に返り、急いで上半身を起こす。

 恥ずかしさで慌てふためく私の両手を、ラビエールさんは優しく包み込んだ。

 ラビエールさんの優しさはまさに大天使と呼ばれるに相応しく、そんなラビエールさんをサポーターとして選んで本当に良かったと思える。


「ありがとうございます。あの……ここが異世界ですか?」

「はい。先ほど近くを通りかかった方に尋ねたのですが、ここは初心冒険者の集まる街でリリティアと言うそうです。冒険者になる為に必要な手続きをしてくれる冒険者ギルドの場所も聞いておきましたので、近藤さんの体調が良くなり次第、ご一緒にギルドへ向かいましょう」

「ありがとうございます。私はもう平気ですから、心配しないで下さい」

「分かりました。それではギルドへ向かいましょう」

「はい!」


 流石は女神様も太鼓判を押す大天使様。こちらが気を失っている間でも情報収集をしているなんて、本当に助かる。

 私は身体に付いている土埃を払い落としながら立ち上がり、ラビエールさんに案内をしてもらいながら、日本で言うところの秋めいた涼しげな街中を歩いて冒険者ギルドへと向かった。

 そして辿り着いた冒険者ギルドは酒場と一体化している場所の様で、沢山の屈強そうな冒険者達が顔を揃えていた。そんな光景を前にして少し尻込みする気持ちがあったのは確かだけど、私はこの異世界で生きる事を決めて転生を望んだのだから、いつまでも弱気ではいられない。

 改めて覚悟を決めた私は、ラビエールさんと共にギルドの受付カウンターで冒険者になりたい意志を告げ、所定の手続きを踏んで冒険者の資格を得た。

 でも、冒険者になったからと言って、すぐに冒険者としての活動ができるかと言えばそれは難しい。

 なぜなら私達は無一文な上、モンスターと戦う為の武器も防具も持っていないのだから。となれば、とりあえず生活の地盤を固めるのが先決。冒険者としての活動はそれからでも遅くはない。

 それに幸いにもギルドの職員さんからお兄ちゃんと思われる人が冒険者として活動しているという情報も聞けたし、尚更慌てる訳にはいかない。情報を得るにはお金が必要な事も多いから、ある程度の資金力を予め得ておく必要はある。

 私はラビエールさんと一緒にギルドで紹介された仮宿へと向かい、そこで夜を向かえるまでじっくりと今後の生活設計についての話し合いをした。


「――では明日から仕事を探して資金稼ぎをし、冒険者としての活動を行う為の準備を始める。それでいいでしょうか? ラビエールさん」

「そうですね。近藤さんの仰るプランでいきましょう」

「ありがとうございます。では、明日の為に今日は早目に寝ましょうか」

「はい」


 ギルドから借り受けた木製作りの長屋。中はとても狭く、六畳程しかない。そんな部屋の中にある粗末な二組の布団を板張りの床に敷いて中へと入り、異世界で初めての夜を過ごす。

 寂しさが無いと言えば嘘になる。だってほんの少し前までは、日本で家族と一緒に平和な日常を送っていたんだから。お母さんにもお父さんにも、妹のましろにも、飼い猫のにゃんたんにも、私はもう会う事ができない。分かっていた事ではあるけど、それを考えるとやっぱり寂しくて悲しくなる。


「大丈夫ですか?」

「あっ、はい。大丈夫です……」


 泣いている自分を悟られない様に、必死で泣き声を殺す。


「寂しいですよね…………でも、私はここに居ますから。だから安心して下さい」


 隣の布団から私の居る布団へと入って来たラビエールさんが、私の身体を優しく包み込む。ただそれだけの事ではあるけど、不思議と心が落ち着くのを感じた。

 それはとても小さな頃、泣いている私を抱き締めて慰めてくれたお兄ちゃんの様な安心感があった。


「お前はまたろくでもない事をやらかしやがって!」

「だっていい儲け話があるって言われたんだもん!」

「アホかお前は! そんなの誰が聞いても詐欺話の常套手段じゃねえか! このドアホ駄天使がっ!」


 ラビエールさんに優しく抱き包まれていると、どこかで誰かが言い合いをしているのが聞こえてきた。

 日本に居た時にも喧嘩をする人は居たけど、まさか異世界に来て最初の夜にこんな漫才みたいな喧嘩をしている人達が居るとは思ってもいなかった私は、思わずクスッと笑いをこぼしてしまった。


「どうしました?」

「いえ、聞こえてくる喧嘩の内容がちょっと面白くて」

「そういえば先程から喧嘩をされている方が居るみたいですね。止めに行った方がいいでしょうか?」

「大丈夫だと思いますよ? あれは多分、喧嘩するほど仲がいいって類の事だと思いますから」

「そうなんですね」


 どこの誰とも知れない人達の喧嘩を聞いて少し和みつつ、最終的におじさんの恐い声で『うるせーぞ! しばかれてーのか!』と言う怒号が聞こえた後にその喧嘩は終わりを迎え、私は異世界で初めての眠りについた。


× × × ×


 異世界に来てからそろそろ三ヶ月目を迎えようかと言う頃、私はギルドから指名手配されている討伐指定モンスターのゴールデンゴブリンと戦っていた。


「ウインドエンチャント!」


 膠着こうちゃく状態に陥っていた戦いを動かす為、私は魔法を使って持っている細身の剣と自身の足に風の属性をつけた後、思いっきり利き足を踏み込んで地面を蹴り、モンスターとの距離を一気に縮める。

 風の属性魔法により強化された素早さがゴールデンゴブリンの速さを上回り、私にその間合いへの進入を許した。私はその隙を見逃さず、風を纏った剣を縦一文字に素早く振り下ろす。


「ギャッ!!」


 振り下ろした剣を地面のギリギリで止めると、ゴールデンゴブリンは持っていた金色の棍棒を落として倒れ、その場で絶命した。それを見た私は何も無い場所へ剣を振り上げて一振りし、風の魔法を解く。


「唯さん、大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと苦戦しちゃったけどね」

「マジックソードマスターになってからまだ日も浅いんですから、気を付けて下さいね?」

「うん、ありがとう。気を付けるね」


 私の事を心配しながら傷の回復をしてくれるラビエールちゃん。

 彼女が居てくれるから私は戦闘に専念できるし、こうして冒険者として早目にまともな活動ができているのも、ラビエールちゃんの協力があってこそ。だから私はラビエールちゃんにとても感謝している。

 二人で最初の二ヶ月間にお金を貯め、それなりにしっかりとした武具を買った後に冒険者を始めたのがついこの間。

 私は超上級職と言われる職業の一つ、マジックソードマスターに適正があったらしく、最初からマジックソードマスターになれる状態ではあった。

 けれど基本を無視して応用は利かないので、冒険者になって最初の一週間は全基本職のスキル習得と特性把握に努め、次の二週間はマジックソードマスターに必要なスキルを得る為に関連上級職になって戦いをし、それを経て二日前にようやくマジックソードマスターになった。マジックソードマスターへの道は決して楽ではなかったけど、ラビエールちゃんのおかげで思っていたよりも楽だったのは間違いない。

 そんなラビエールちゃんは全職業の頂点にあると言われているエンジェルメイカーに適性があったけど、私と同じ様に基本から入る事を望んで全基本職を経由し、その後にエンジェルメイカーへと転職した。

 ラビエールちゃんが本気になれば、私なんかより遥に効率的な戦いをできるんだろうけど、彼女は天使と言うだけあって殺生を好まない。だから戦いでも常に私のフォローに回っている。


「それにしても凄いですね。マジックソードマスターになってからまだ二日しか経っていないのに、討伐難易度星5クラスの討伐指定モンスターを一人で倒してしまうなんて」

「一人でって言ってもラビエールちゃんがサポートしてくれてたからだし、私一人の実力じゃないよ」

「そんな事はありませんよ。実際にゴールデンゴブリンと戦っていたのは唯さんですし」


 ラビエールちゃんはこの様に言うけど、本当に私一人では勝てなかった。まだマジックソードマスターの感覚には慣れてなかったし、何よりゴールデンゴブリンは想像以上に手強かったから。

 控え目なラビエールちゃんも好きだけど、もう少し自分を出してもいいんじゃないかと思う。


「唯さんは少し休んでいて下さい。私はゴールデンゴブリンのドロップアイテムを回収してきますので」

「うん。ありがとう」


 ゴールデンゴブリンの持っていた金色の棍棒を拾いに行くラビエールちゃんを見ながら、これである程度の資金を貯める事ができたと思った私は、いよいよこの異世界へ来た最大の目的でもあるお兄ちゃん捜しを始めようと考えていた。


「待っててね、お兄ちゃん。すぐに見つけちゃうんだから」


 青く広がる空を見上げつつ、決意と共にそんな事を口にする。

 この異世界でお兄ちゃんと出会う事ができたら、私はこれまで秘めていた想いを伝えようと思う。それは日本においては禁忌だったけど、この異世界は違う。私の想いを縛り付ける法もなければ、それを駄目だと言う人もこの異世界には居ないのだから。

 日本に居た時には持てなかった希望が、この異世界にはある。その希望だけを胸に、私は立ち上がって歩き始めた。

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