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フラグが立った!

 行方不明事件解決の糸口を見つける為に結界の張られた儀式のダンジョンへと入った俺とラビィは、分かれ道を右方向へと進んで行った先の部屋の中に二人の人物が居るのを発見した。

 そしてその人物達の様子を観察しようとしていた俺とラビィはくだらない事で言い争いを始めてしまい、そのせいで部屋の中に居る人物に俺達の存在を知られてしまう事になった。


「そ、そこに二人居るのは分かってるのよ! いい加減に姿を現しなさいよねっ!」


 聞こえてくる声はそれなりの怒気を含んでいる様に聞こえ、これ以上の沈黙は俺達にとって良い状況にはならないだろう事を伝えてくる。

 二人が居る方へと歩き始めていた俺はその場で足を止め、覚悟を決めて声を出した。


「驚かせてすみません。俺は冒険者の近藤涼太と言います。あなた達はここで何をしているんですか?」

「きゅ、急に声を出さないでよね! ビックリするじゃないの!」

「あ、すみません」

「たくもうっ、これだから冒険者って嫌いなのよね」

「そんな事よりアンタは誰なのよ! 答えなさいよね!」

「そ、そう言うアンタ達こそ誰なのよ!」


 なぜかラビィが強気にそう言うと、相手も負けじと強気にそう尋ね返してきた。


「そんなに聞きたいなら教えてあげるわ! 聞いて驚きなさい! 私は大天使にしてエンジェルメイカーのラビィよ!」

「大嘘ついてんじゃないわよ! エンジェルメイカーなんてやってる奴が、ここに入って来れる訳がないんだから!」

「な、何ですって!」


 確かに張られていた結界の事を考えれば、エンジェルメイカーになれるような者は本来ここへ入る事はできないのだろう。

 しかしラビィがエンジェルメイカーなのは確かな事実だから、そこだけはしっかりと相手に伝えておいた方がいいのかもしれない。


「あの、すみませんがコイツがエンジェルメイカーなのは本当なんですよ」

「そ、そんな事を言って私を騙そうとしてもそうはいかないんだからねっ!」

「まいったなあ……」


 その声の主は焦りを含んだ感じでそう言い返してきたが、こればっかりは真実なのでどうしようもない。

 しかしこの状況では相手がこちらの言う事を簡単に信用できないのも、当然と言えば当然の話。となれば、相手を信用させるだけの何かを示さなければ話は進まないだろう。

 俺は明かりを消した二つのランプの中にある燃料石に再び明かりを灯し、道具袋を漁って冒険者カードを取り出した。


「ラビィ、お前の冒険者カードを貸してくれ」

「えっ? 何でよ?」

「いいから早く」

「何よ、いっつも説明抜きで偉そうにさ」


 ラビィはブツブツと文句を言いながら道具袋へと手を入れ、そこから冒険者カードを取り出すと不機嫌にそれを手渡してきた。


「な、何をこそこそしてんのよ!」

「あ、すみません。あのですね、今からそちらへ俺達の冒険者カードを持って行くので、その目で確認して見て下さい」

「ちょっと待って! それならその場に明かりと冒険者カードを置いて二人は部屋の出入口まで下がりなさい」

「分かりました。それじゃあ、ここに置いておくので確かめて下さい」


 その場に俺が持っていたランプと二人の冒険者カードを置き、ラビィの手を掴んでから来た方の通路へと戻り始める。


「ちょっと! 何で私達がここまでしなきゃいけないわけ!?」

「いいか? 状況が見えない以上、相手をある程度信用させるにはこれが一番なんだよ。幸いにも冒険者カードが偽造不可能ってのはこの世界の常識だからな。これで相手がある程度こちらの言う事を信用してくれるなら、それに越した事はないんだよ。それにこれはチャンスでもあるんだ」

「チャンス?」

「さっきまでは顔を伏せてたからはっきりと顔を見る事ができなかったけど、あのランプの位置から出入口までの距離なら顔を確認する事は可能だ。それに相手も俺達の顔を確認するだろうから、そうなれば絶対にこっちを向かざるを得ない。それならお互いに顔の確認ができて安心だろ? ある意味でこれは一石二鳥なんだよ」

「そ、そう……まあ、ここはとりあえずリョータに任せてあげるわ」


 俺の言ってる事を理解できたかどうかは疑わしいけど、とりあえずラビィはこちらの言葉に従う事にしたようだった。


「ここまで下がればいいですかー?」

「え、ええ、そこでいいわ。しばらくそこでじっとしてなさい」

「分かりました」


 相手の言葉に対して返答をすると、洞窟の中に小さく足音が聞こえてきた。問題の人物が移動を始めたのだろう。

 とりあえず念の為に少しだけゴッドアイを発動させてみたが、床へ置いたランプの方へと近付いている女性はまだ顔を伏せていて、その顔をはっきりと確認する事はできない。

 なぜあんなに顔を伏せなければいけないのか疑問だけど、それも相手がランプのある場所へと辿り着くまでの事。

 ゆっくりと近付いて来る足音に反応する様に、自分の心臓の鼓動が早くなっているのが分かった。

 そしてようやく小さなランプが照らし出す光の範囲に女性が入ったのが見えると、その女性は置いていた冒険者カードを手に取り、床に置いたランプの光でそのカードを照らしながら内容を確認していた。


「どうですか? それで信じてもらえましたか?」

「た、確かに片方の職業はエンジェルメイカーになってるけど、これがアンタ達の物かどうかはまだ分からないわ。もしかしたら盗品かもしれないし」


 随分と疑り深いなとは思うけど、確かにそういう可能性がありえると言えばありえるだろう。まあ、こんな時の為にカードには本人を確認できる部分があるわけだが。


「それじゃあ、カードの左上部分にあるカードの持ち主の顔を見て下さい。俺達が今からランプを少し上げて顔が見える様にするので、それで確認してもらえればいいと思います」

「な、なるほど。分かったわ」


 納得の言葉が聞こえたところでラビィと横並びになり、もう一つのランプを上げて二人の顔が見える様にする。

 すると俺の思惑通りに顔を俯かせていた女性が顔を上げ、こちらにもその顔が分かる様にこちらを見てきた。

 初めて見るその女性の顔はとても整っており、はっきり言って美人としか言いようがない。セミロングの茶髪にスラッとした体型。身長はラビィと比較してもかなり低い様に感じる。

 そんな美人の女性を見てただ一つ難点を挙げるとすれば、表情を強ばらせているからせっかくの美人が三割減になっていると言う点だろうか。


「どうですか? ちゃんと確認してもらえましたか?」

「……ちょっと信じ難いけど、確かに間違いは無いみたいね。分かったわ。あなた達の言う事を信用してあげる。それで? あなた達はここへ何をしに来たの?」

「俺達はこのダンジョンからほど近い場所にある街道で最近発生している行方不明事件の調査をしにここへ来たんですよ」

「えっ!? てことは、ギルドに依頼されたって事!?」

「あ、いいえ。ギルドから依頼を受けた訳じゃないです。これはこの街道を使っている商人から個人的に受けた依頼なんですよ。冒険者以外にも商人が巻き込まれたりしているみたいで、少なからず商売に影響が出たりしている様なので」

「あ、そっか……その可能性もあったんだ。悪い事しちゃったな……」


 ――悪い事しちゃった?


 その言葉はどう聞いても、自分が今回の行方不明事件を起こしたと言っているようにしか聞こえない。


「あの……もしかして、あなたがこの行方不明事件を起こしてたんですか? だったら――」

「ちょ、ちょっと待って! 確かに私がしてた事だけど、妹を助ける為に仕方がなかったのよ!」

「なーにが『仕方なかった』よ! こっちは凄く迷惑してるんだからね!」


 この場合はラビィが言っている事が正しいとは思うけど、相手も妹を助ける為と言っているし、その事情もちゃんと聞いてみるべきたとは思った。


「まあ待てラビィ。とりあえず相手の話も聞こうぜ」

「はあっ!? どうして!?」

「ここで事情も知らずに相手を責めても仕方ないだろ? それに俺達の目的は喧嘩をする事じゃないんだから。えっと、すみませんが、とりあえず事情を話してもらってもいいですか?」

「わ、分かったわ。それじゃあ、こっちに来てちょうだい。妹の回復も続けないといけないし」


 そう言うとその女性は、床に置いたランプと冒険者カードを持って移動を始めた。


「分かりました。ラビィ、頼むから騒ぎは起こさないでくれよ?」

「何よそれ! 私をトラブルメーカーみたいに言わないでよね!」


 間違い無く、ラビィはうちのパーティーで一番のトラブルメーカーだろう。

 しかし本人はそれをまったくと言っていいほど自覚していない。これがトラブルメーカーの困ったところだ。

 俺としてはもう、職業をエンジェルメイカーからトラブルメーカーに変えればいいんじゃないかと思っているくらいだし。


「悪かったよ。とりあえず、無闇に噛みついたりしないようにな」

「分かってるわよ。たくっ、人を猛犬みたいに」


 首輪にリードを付けられる分だけ猛犬の方がまだマシだなと思いつつ、ランプを持って進む女性の方へと歩いて行く。

 そして女性の持っていたランプがゆっくり床へ置かれると、そこに横たわっているもう一人の茶髪の人物が照らし出された。

 この人が言っていた妹さんなんだろうけど、お姉さんよりもずっと背が高いせいか、かなり大人に見える。それにお姉さんが美人なように、この妹さんもかなりの美人さんだ。


「あの、妹さんは怪我でもしてるんですか?」

「いいえ。外傷は一つも無いわ。ただ、大幅に生命力を失っているのよ」

「どうしてそんな事に?」

「それは――」


 俺の問いかけに対し、女性はこうなった経緯を話してくれた。

 何でも二人はリリティアの街で雑貨店を経営しているらしく、こうなる前に別の街へと仕入れに向かっている途中で瀕死の冒険者達と出会ったらしい。

 そしてそんな状況を見た妹さんが、自分の生命力をその瀕死状態の冒険者達に分け与えたんだそうだ。

 瀕死だった冒険者達はそれで一命を取り留めたらしいが、今度は逆に妹さんの方が生命力不足で命が危なくなってしまったとの事だった。

 それで妹さんの生命力を回復させる為にお姉さんは止むを得ずこのダンジョンへと向かい、近くの街道を通りかかる一定レベル以上の冒険者達から少しだけ生命力をもらっていたんだそうだ。


「なるほど。とりあえず事情は分かりました」

「その……迷惑をかけてごめんなさい。なるべく迷惑にならないように分からないくらいの生命力をもらってたんだけど、それくらいじゃ妹の回復が追いつかなくて」

「それで行方不明事件が続いてたわけですか」

「ええ……でも外の状況も分かったし、こんな事はもう止めるわ」

「でも、それじゃあ妹さんが危ないんじゃ?」

「何とかするわよ」


 とりあえず事件を起こしていた首謀者が止めると言っているんだから、これでめでたく事件は解決なんだろうけど、これではどうにも後味が悪い。


「あの、妹さんは生命力不足でこうなっているんですよね?」

「そうよ」

「後どれくらいの生命力を集めれば妹さんは大丈夫なんですか?」

「そうね……冒険者一人が二日から三日くらい動けなくなるくらいの生命力があれば大丈夫だとは思うけど」

「なるほど」


 それを聞いた俺は色々と考えてみた。

 生命力を取られるとは言っても、それは一時的なもので別に死ぬわけじゃない。それならしばらく動けなくはなるけど、自分の生命力を差し出してもいいかなと思った。

 しかしそれが分かっていても、やはり恐い気持ちや躊躇する気持ちは出てくる。


「そんな事なら解決は簡単じゃない」

「「えっ?」」

「リョータがその人に生命力を分けてあげればいいのよ」


 どんな解決法が飛び出すのかと思っていたけど、その方法は俺を犠牲にするという何ともラビィらしい考えだった。


「あ、あのなあ……」

「別に死ぬわけじゃないんだし、分けてあげればいいじゃない。二日や三日動けなくても、どうせリョータには大した事はできないんだし」


 ――コイツはホントにろくでもない事しか言わんな……。


 ラビィの身勝手発言に対し、俺はちょっとカチンときていた。

 そしてこの馬鹿駄天使にお灸を据える方法が何か無いかと考えていたその時、一つだけ頭の中にその方法が浮かんだ。


「分かったよラビィ。俺が生命力を分け与えるから、お前は一度ダンジョンの外へ出て状況の報告をして来てくれ」

「いいわよ。それじゃあ頑張ってね」


 自分に被害が及ばないのをいい事に、ラビィはランプを片手に持ってスキップするかの様に軽やかにダンジョンの出入口へと向かって行く。


「さあ、始めましょうか」

「始めましょうかって、本当にいいの?」

「ええ。ちょっと迷ってはいましたけど、この方法を考えていなかった訳じゃないですからね。それに、妹さんをちゃんと助けてあげたいじゃないですか」

「でも、あなたは私達とは無関係の人なのよ?」

「関係なら今もちましたよ。それに、さすがにここで見捨てるのはどうかと思いますしね。さあ、急いで始めて下さい」

「ありがとう。あなたって優しいのね……」


 女性は優しく微笑みながら俺の両手を自分の両手で優しく握ってきた。

 これが本にあるような物語なら、まさに恋愛フラグが立った瞬間と言えるのかもしれない。まあ、現実はそう上手くはいかないだろうけど。


「あ、そうだ。生命力をあげる前に、一つ聞いておきたい事とお願いがあるんですが」

「何?」

「あなたの名前は何て言うんですか?」

「私の名前? 私の名前はティア。ティア・ミーティル」

「いい名前ですね。それじゃあ、始めて下さい。お願いはやってもらいながらするので」

「うん。ありがとう…………」


 握られた両手からじんわりと体温が伝わる。

 そしてティアさんと話をしながらお願い事を伝える中、俺の意識は少しずつ薄れていき、最後には静かな眠気の中で意識は途絶えた。


× × × ×


「あー、よく寝たー!」


 翌朝。俺はとてもすっきりとした気分で目を覚ました。

 俺の寝ていた近くにあった置手紙の内容を見ると、ティアさんが俺との約束をちゃんと守ってくれた事が分かる。


「リョ、リョータ……」

「おう、おはようラビィ。調子はどうだ?」

「か、身体が重くてまったく動かないんだけど……」

「そっかそっか。風邪でもひいたのかもしれないな。まあ、しばらく安静にしとけよ。俺はちょっと出かけて来るから」

「ちょ、こんな状態の私を置いていかないでよね……」

「心配すんな、飯くらいはちゃんと持って来てやるから。じゃあな」


 げっそりとした様子のラビィを見てほくそ笑みながら、俺は枕元に置いてあった置手紙を持って外へと出かける。

 なぜ生命力を分け与えた俺がこうして何の影響も無く行動できるのかと言えば、ダンジョンの中で俺がティアさんと交わした約束がしっかりと遂行されたからだ。

 そして俺がティアさんと交わした約束とは、俺がラビィ達に連れて帰られた後の早朝、自宅で寝ているラビィから生命力を奪い取り、その生命力を俺へと移してほしいというもの。

 ティアさんは最初こそこの提案に乗り気ではなかったけど、俺のラビィに対する苦労話を聞く内に考えを変えてくれたようで、こうしてこの計画に協力してくれた。これでしばらくはラビィも大人しくなるだろう。

 ラビィに対してざまーみろと思いながら、置手紙に書かれた場所へと向かって行く。

 そして自宅である長屋から歩く事しばらく。商店が立ち並ぶ場所の一角に俺が目指していたその店はあった。


「雑貨店ミーティル。ここで間違い無いみたいだな」


 お店の木製ドアの前には、可愛らしいハート型のプレートに店名が書かれている。

 そしてレンガ造りの建物が多い中、この雑貨店は木材を使った温かみのある風貌をしていた。

 俺はやや緊張の面持ちでドアをコンコンと軽く叩き、ドアをゆっくりと開ける。


「おはようございます。近藤涼太ですが、ティアさんは居ますか?」

「あっ、リョータ君! 来てくれたんだね!」


 木製ドアを開けた先には、フリフリの黒いゴスロリの様な衣装を着たティアさんが居た。昨日はとても簡素な旅人の衣装だっただけに、そのギャップは相当のものだ。

 しかしその低身長にゴスロリ風衣装はとても似合っていて、思わず目を惹かれてしまう。


「朝早くにすみません」

「ううん。来てくれて嬉しいよ」


 明るい表情でこちらへと向かって来たティアさんは、にこやかにそう言いながら俺の右手を両手で包み込んできた。こんな様子を見ていると、最初に会った時の警戒心丸出しの態度がまるで嘘の様だ。


「妹さんはもう大丈夫なんですか?」

「うん、もうすっかり良くなったよ。リョータ君のおかげでね」


 ティアさんは明るい表情を更に明るくしながらそう答える。

 何はともあれ、無事に事件も解決できたし、ティアさんの妹さんも助かったし、万事めでたしってところだろう。


「それは良かったです。それで、置手紙に用事があるって書いてたんですけど、何ですか?」

「うん。あのね……私、リョータ君に言いたい事があったの」


 頬を赤らめながらモジモジするティアさん。その姿は見ていてとても愛らしい。


「何ですか?」

「えっとね、私……リョータ君の事が好きになっちゃったのっ!」

「ええっ!?」


 思ってもいなかった突然の愛の告白に、俺の頭の中は一瞬にして真っ白になった。

 日本で生活していた時にも彼女が居た過去はあった。まあ、その全てがいい様にされてポイ捨てされたけどな。


「あああああの、それはその、俺が好きと言う事でよろしいのでしょうかあ!?」

「うん……」


 今まで色気も何も無い生活をしていただけに、この突然の告白はとても甘美だった。

 しかもティアさんは相当の美人。こんな人がまさか俺に愛の告白をしてくるなんて思ってもいなかったけど、これは相当に嬉しい。


「あの、とても嬉しいです!」

「ホント!? それじゃあ、私とお付き合いしてくれる?」


 相手はもう完全にその気になっている。と言う事は、俺も自分の気持ちに素直になってもいいのかもしれない。


「えっとあの――」

「あっ、近藤涼太さんですね。いらっしゃいませ」


 ティアさんの告白に対して返事をしようとしたその時、店の奥から背の高い美人さんが現れた。

 その顔はちゃんと見覚えがあったので、一目でその人がティアさんの妹さんだと分かった。


「あっ、ティアさんの妹さんですよね? 初めまして。自分は近藤涼太と言います」

「ご丁寧にどうも。私は魔王幹部の一人で、ティナ・ミーティルと申します」


 ――ん? この人は今何て言った? 魔王幹部とか言ってなかったか?


「あ、あの……今何て言いました?」

「はい?」

「魔王の幹部がどうとか聞こえたような」

「はい。私と姉さんは魔王幹部の一人ですよ?」


 あっけらかんとそう答えるティナさんの言葉が信じられず、俺はティアさんの方を向く。


「……ホント?」

「うん、私とティナは魔王幹部よ。でも、他の人には黙っててね? 今は色々と面倒だから」


 嘘であってほしいと思う気持ちは見事に打ち砕かれ、非情な現実が突きつけられる。


「う、嘘だああああああああ――――っ!」


 そんな俺の悲しみの叫びが、雑貨店ミーティルに大きく響き渡っていた。

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