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追われる者は助けを求める

 リリティアの街に店を構えていたおっちゃんにお金を払って得た情報によれば、ラビィが取引したキャットピープルのニャンシーはリリティアとリザルトを往復しながら商売をしている闇商人らしく、それぞれの街で良い商品を仕入れては高く売れそうな人物を相手に商売をしているらしい。

 そして昨晩ラビィから金色キノコを買い取ったニャンシーは、その日の内にリリティアを出てリザルトへ向かったとの事だった。


「怖いよぉ……モンスター怖いよぉ……ぶたれるの怖いよぉ……」


 リリティアを出てからリザルトへ向かう途中で何度となくモンスターに襲われ、その度に囮となってモンスターを遠ざけていたラビィは、完全にその行為がトラウマと化していた。

 さすがにそんなラビィを見るとほんのちょっとだけ心が痛むけど、無闇にお金は使えないから、モンスターが強いこの地域で生き残るにはこうするしかない。


「ほら、もうリザルトの街が見えてるから元気出せよラビィ」

「モンスターに見つかったらまたボコボコにされる……大いなる快感が押し寄せてくる……怖いよぉ……」


 俺の言葉など完全に聞こえていない様で、ラビィはさっきからずっと一点を見つめたまま同じ様な事をブツブツと呟き続けている。

 そんなラビィは完全に意識が自分の世界に入っていて、その様子を見ていると思わず怖気立おぞけだってしまう。


 ――とりあえず事件が解決したらパチパチでも飲ませてやるか。このままじゃちょっと可哀相だしな……。


「なあ、ラビィ――」

「そうよ……何も私が囮になる必要なんて無いじゃない……リョータを置いてそのまま逃げちゃえばいいのよ……そうよ、そうすれば良かったんだ……フフフ……」


 せっかく気を遣ってやる気を起こさせようとしていたのに、ラビィは途端に奇妙な薄ら笑いを浮かべてとんでもない事を口走り始めた。


「ラ、ラビィさーん? 大丈夫ですかー?」

「フフフ……何でも無いわよ……行きましょう……リョータ。フフフ……」


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべてそう言うと、ラビィはゆらりゆらりと先へ進んで行く。

 既に自分が何を考えているかを口にしているってのに、それにすら気付いていないのは相当に重症って事だろう。快感てのは過ぎると恐ろしいもんだなと思いつつ、見えてきたリザルトの街へと急ぐ。

 そこからリザルトの街へ着くまでの間は幸いにもモンスターに襲われる事は無く、ラビィの口走った不吉な言葉が現実となる事は無かった。


「おいラビィ! 街に着いたぞっ!」

「……街に……着いた……? うわあああ――――ん!」


 そろそろ太陽がその姿を赤く染め始める頃にようやくリザルトの街へと到着し、その事を虚ろな目をしたラビィに告げると、辺りをゆっくりと見回した後で力無くその場に座り込んでから大声で泣き始めた。

 そんなラビィの挙動に門番をしている人や近くを通っている人々が手を止め足を止め、一斉に視線を向けてくる。


「な、何だラビィ!? 急にどうした!?」

「やっと囮にされた挙句あげくにモンスターに囲まれてボコボコにされずに済むぅ――――!」


 激しく周りから俺という人間を誤解されそうな言葉を叫ぶラビィ。

 確かに言ってる事は間違ってはいないんだけど、モンスターに襲われたボロボロの姿でそんな事を叫ばれると、無傷状態の俺が相当な鬼畜に思われてしまうのは間違い無い。


「落ち着けラビィ! 気持ちは分かるが今は抑えてくれ!」

「アンタに私の気持ちが分かる訳無いでしょ!? どうせリョータなんて、感じたくないのに感じて苦悩する私の姿を遠くから見て嘲笑あざわらってたに決まってるんだからっ!」


 止めと言わんばかりの言葉がラビィから飛び出すと、周りで見ていた人達の視線が更に冷たく凍りついていくのが分かった。

 それが証拠に周りからは、『モンスターに襲わせて楽しむとか鬼畜……』とか、『襲われるのを遠くから見て笑ってたって……どんだけヤバイ性癖なんだ……』とか、完全に誤解されているとしか思えない言葉が聞こえてきている。


「ともかく一度落ち着けって!」

「いや――――っ! 私に触らないでっ! これ以上私の心と身体をもてあそばないでっ!」


 激しく取り乱し続けるラビィは、次々と周囲の目を釘付けにする言葉を羅列していく。

 そして何とか泣き喚くラビィを泣き止ませようと奮闘する中、俺は最終的に酒場でそれなりにパチパチが飲めるだけのお金を手渡し、ようやくラビィを泣き止ませる事に成功した。

 てか、お金を渡して『パチパチでも飲んで来いよ』と言うだけで簡単に泣き止むくらいなら、最初っからそうすれば良かった。これじゃあ無駄な慰めの言葉を言っている時間が勿体なかったと思う。

 お金を受け取ってから喜んで街の酒場を探しに行ったラビィと別れ、俺は街中でキャットピープルの闇商人ニャンシーを捜し始めた。

 そして赤い陽がそろそろ沈もうとしている中、俺はかなり焦っていた。なぜならもうしばらくすると俺の性別が女性へと変わるから。

 単純に性別が変わるだけなら大して問題は無いのだけど、女性になると異常なくらいに雄を惹き付けるから面倒なんだ。


「やべっ……」


 そうこうしている内に激しい眠気が襲いかかって来た。

 これは俺の性別が変わる時に起こる前兆現象の様なもの。最初の方はこの眠気にまったく逆らえなかったけど、この一週間で何とかこの眠気にあらがえる様にはなった。

 しかしその代わりに、股間がムズムズする現象を毎回味わう事になってしまったけど。

 とりあえず完全に女性化をする前に人気が少ない路地裏へと入り、変化が落ち着くのを待つ事にした。


「やれやれ……」


 とりあえず性別変化が終わったところで路地裏から顔を覗かせて辺りの様子を見る。

 俺の性別が女性になったという事は、緊急クエストの制限時間が残り二十四時間を切ったという事。つまり、次の日没までに金色キノコを持ってリリティアの街へと戻らなければアウトと言う状況だ。

 未だニャンシーを見つけられていない現状ではあまりにも時間が少なく感じるけど、こればっかりはどうにかするしかない。

 そしてただでさえ時間が惜しいこの現状で性別変化を起こした事により、俺はリザルトの街に居る男性全てに気をつけながらニャンシーを捜さなければならないという足枷あしかせのオマケ付きになってしまった。

 ここからは男性の居る場所や視線をなるべく避けて行動しなければいけない。


「さてと……そろそろ移動しますかね」


 性別変化を起こす前に街の人から闇商人が集まる場所についての情報を得ていた俺は、とりあえずそこへ向かおうと路地裏から飛び出してその方向へと走り始めた。


「おっ!? 美人のねーちゃん! 俺と一杯やらないか? 奢るぜっ!」

「結構でーす!」


 大きな路地に出てすぐ、俺は酒瓶を片手にしているオッサンにお誘いを受けた。だが、こんなのは序の口。

 俺は華麗にオッサンの誘いを断りながら横を走り抜け、目的の場所へと向かって行く。


「つれねー事を言うなよー! ねーちゃん!」

「ヒイッ!」


 案の定と言うべきか、酒瓶を持ったオッサンは俺を追いかけて来た。今までにもこういう事は多々あったけど、お誘いを断ってすぐに諦めた男など一人も居ない。

 いつもの事だと思いながら酒瓶を持って追いかけて来るオッサンから逃げて目的の場所へと向かっていたんだが、運の悪い事にその間で結構な数の男性とすれ違ってしまった。

 そのせいで目的の場所まで後少しと言う頃には追いかけて来ていた男共の数はゆうに十数人を超えていて、俺は凄い迫力で迫って来る男共にとてつもない恐怖を感じながら走っていた。


「だ、誰か助けてぇ――――っ!」


 追って来る男共のあまりの迫力に思わず助けを求めてしまう。

 しかしこの行為ははっきり言ってよろしくない。なぜなら女性の声でこんな助けを求める声を上げれば、余計に男性を引き寄せてしまう可能性が高くなるからだ。

 でも、こんな状況ではそんな事を忘れて助けを求めたくもなる。

 だって本当に怖いんだから。一度でも沢山の男共に追われてみればその気持ちが分かるはずだ。


「早くこっちに来るニャ!」


 沢山のファンに追われるアイドルの気持ちが分かる心境で逃げていると、先の方に見える家と家の間の狭い場所から、一人のフードを被った人物が忙しく手を動かしながら手招きをしているのが見えた。

 その声を聞く限りでは女性だと判断した俺は、天の助けと思いつつそのフードを被った人物の方へと急いで向かった。


「ほらっ! 急いで私について来るニャ!」

「は、はいっ!」


 フードを被った女性に手を引かれながら狭い通路を抜けて行く。

 そしてそれをしばらく続ける内に、何とか追いかけて来ていた男共を完全にけた様だった。


「はあはあ……助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。どういたしましてニャ」


 にこやかな笑顔でそう言う女性に対し、俺は大きく安堵した。

 上背や被ったフードから見える顔で想像すると、14歳から16歳くらいってところだろうか。

 とりあえずもう一度丁寧にお礼を言った後、俺はせっかくだからと闇商人のニャンシーについて聞いてみる事にした。


「あの……ちょっとお聞きたい事があるんですけど、いいですか?」

「ん? 何ニャ?」

「この街に闇商人のニャンシーってキャットピープルが居るはずなんですけど、聞いた事はありませんか?」

「ニャンシーは私の事ニャよ?」

「へっ!?」


 そう言うとその女性は被っていたフードをサッと脱いだ。

 すると街にある燃料石を使った街灯の明かりが顔を明るく照らし、その銀色の瞳を輝かせる。


 ――猫耳に銀色の瞳、ラビィが言ってた人物と同じだ。


 何の偶然か悪戯か、俺は思わずして目的の人物であるニャンシーと出会った。

 そしてこの思いがけない事態に少々焦っていた俺は、金色キノコの事をどう切り出せば良いだろうかと迷っていた。

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