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天使は問うに落ちず、語るに落ちる

 初めての野草採取クエストで小金持ちになった事に旨味うまみを覚えた俺達は、あれからずっと野草採取クエストを続けていた。

 本来なら野草に詳しくないとまともに稼ぐ事も出来ないこのクエストで儲けさせてもらっているのは、間違い無くミントのおかげだ。

 流石は古の時代から存在する伝説のアデュリケータードラゴン。持っている知識の広さと深さには恐れ入る。


「今日は静かだな……」


 採取クエストを始めてから五日目の朝。

 今日もいつもの様に採取クエストを受ける為に祝福の鐘へとやって来たわけだが、今日は珍しく酒場で飲んでいる冒険者の姿が無い。

 そんな珍しい光景を見つつ、クエストの受付カウンターへと向かう。


「すみませーん! 今日も野草の採取クエストをやりたいんですがー」


 いつも受付けカウンターに居るお姉さんが見つからず、仕切り板に開いた小さな穴からその向こう側へと向けて声を出す。するとしばらくしていつものお姉さんがやって来た。


「あ、近藤さんでしたか」

「はい。今日も野草採取クエストを受けに来たんですけど」

「すみません。ここのギルドは今、緊急クエストを発動中で他のクエストは一切受け付けられない状態なんですよ」

「緊急クエスト? 何かあったんですか?」

「実は――」


 受付のお姉さんからその内容を聞いたところ、どうやらこの周辺の山を守っている山神様が大事な物をこの街に居る誰かに盗られたとかで怒っていて、その盗られた物とやらを取り戻す為に街に居る冒険者のみんなに街中を探してもらっているらしい。

 しかもこの緊急クエストは明日の日没までにその盗まれた物を探し出して山神様へと返さなければ、山から下りる事の出来ない山神様の代理人が山の仲間全てを率いて街へ攻め入ると宣告してきたとの事だった。


「――と言う事なので、近藤さんにも盗まれた物を探すお手伝いをしてほしいのですが」

「分かりました。そう言う事なら協力しますよ。それで、盗まれた物って何ですか?」

「山神様の代理人からの情報によると、キラキラした山菜だとの事です」

「キラキラした山菜? 形状とかは分からないんですか?」

「はい。何でもその山菜は山神様の疲れを癒す特殊な物らしく、毎回どんな山菜として出てくるのか山神様にも分からないらしいんです。唯一分かっている事は、キラキラしていてとても綺麗に輝いているという事だけです」

「なるほど……ちなみにそれを盗った犯人に関する情報は何か無いんですか?」

「実はその山菜は本来山神様以外には取る事が出来ないらしいんですが、強力な解除の力を持っていると取る事が可能らしいんです。だから今はその線で盗った人物を捜しているんですよ」

「強力な解除の力ですか……」


 それを聞いて何となくラビィを頭に思い浮かべてしまったけど、ここ数日はずっと行動を共にしているし、特に怪しげな事をしていた様子は無い。


「あっ、それと犯人かどうかは分かりませんが、昨日の夜に怪しい人物を見たと言う木こりからの情報によると、その人物は夜の山から転がり落ちて来た際にとてもエロイ声を出していたと言っていました。ちなみに黒いローブで全身を覆っていて顔は見えなかったらしいですが、何かキラキラした物を隠す様に持っていて、声を聞く限りは女性だったらしいです」

「…………」


 ――山から転げ落ちて来たのに、痛がるどころかエロイ声を上げていた女性だと?


 木こりからの情報を聞いて、俺は身体が固まった。その妙な人物の特徴に関して一人だけ思い当たる節があったからだ。


「どうかしましたか?」

「あ、いや……それじゃあ俺も捜索を開始しますね」

「はい。よろしくお願いします」


 急いで受付のお姉さんから離れ、祝福の鐘を出てまだ長屋で寝ているラビィのもとへと向かった。


「ラビィ起きろっ!」

「ふあっ!? も~、何よリョータ……」

「ラビィ。お前、何か隠し事をしてないか?」

「いきなり何なのよ……この大天使たる私が隠し事なんてしてる訳無いでしょ……」


 そう言いながら呑気に欠伸あくびをして目を擦るラビィ。

 そんな事があってほしくは無いと、俺は祈る様な気持ちで今起こっている緊急事態を話して聞かせた。


「――てな事が起こってるんだが、お前、何か知らないか?」

「……し、知らないわよ?」


 俺の話を聞き終わったラビィは、あからさまに焦った様子を見せた。

 否定の言葉を口にする声が裏返っていて、俺の中に生じた疑惑はますます深まっていく。


「本当に何も知らないのか?」

「知らないわよ……」


 じーっとラビィの目を見ながら通常より低い声でそう質問をすると、ラビィはサッと視線を逸らしてそう答えた。


 ――アカン……コイツは絶対に今回の件に絡んでる。何なら主犯の勢いで関わってるよ。


「実はだな、ラビィ。昨日の夜に犯人らしき怪しい人物が山から転げ落ちて来たのを見たって言う木こりが居るんだよ」

「へ、へ~、そうなんだ~」


 その言葉にラビィの両肩が一瞬ビクッとなったのが分かった。もはやコイツが今回の件について何かを知っているであろう事は疑いようも無い。


「それでな、その転げ落ちて来た人物ってのはどうも女性らしいんだけど、山の上から転げ落ちて来たってのに、まるで痛さを感じてなかったみたいなんだよ。不思議だろ?」

「へえ~、き、きっと凄く身体を鍛えてたんじゃないの?」

「なるほど。確かにそれだと痛さも我慢できたかもしれんが、不思議な事にその女性は転げ落ちて来た際にとてもエロイ声を出していたそうだ。あれ~? 何だか誰かさんと似ている気がするなあ?」

「わ、私じゃないわよ!? 私はエロイ声なんて出さないし、夜に黒のローブなんて着て出歩いてないしっ!」

「…………お前さ、何でその女性が黒のローブを着てた事を知ってるんだ?」

「あっ! ううっ…………ご、ごめんなさーい!」


 あまりの動揺からか今回の件に関わっていた事を思わずして自白してしまったラビィは、その場で平伏しながら泣き崩れた。


「とりあえずどういう事か話せ。包み隠さず全部な」

「ううっ……それは――」


 とりあえず泣きじゃくるラビィが話した内容を要約すると、野草採取クエストで結構な小金持ちになった事を切っ掛けに、初日に見つけて捨てた金色キノコの事がどうしても気にかかり、昨日の夜にこっそりと取りに行ったらしい。

 そして見つけた金色キノコを大事に持って戻る途中、足を滑らせて山から転げ落ちたんだそうだ。


「たくっ……お前はどうしてそんなに欲深いんだ? 仮にも天使だろ? もうちょっと清く生きられんのか?」

「あのね、天使だからってまったく欲が無いわけじゃないのよ? むしろそういった欲を限界まで我慢している奴が多いから、昔も今も最終的に堕天する奴が後を絶たないのよ!」


 自身の行為について悪びれるどころか、力強くそう言い放つラビィ。

 しかしその言葉を聞いて妙に納得してしまったのも事実だ。確かに物語とかでは堕天してる天使って多いからな。


「まあ、それはともかくとしてだ。とりあえず持って来たキノコを出せ。俺が探しに出て拾ったって事にしておいてやるから」

「あのぉ……」

「何だよ、早く出せよ」

「それがその……売っちゃった!」

「はあっ!? 売っちゃっただあ!? どこにだよ!」

「街へ帰って来た時、すぐに闇市へ行って闇商人に売って来たのよ。もしもヤバイ物だったらいけないから、足がつかないようにしておこうと思って」

「お前はどこの窃盗団だよ……たくっ、それで? いくらで買い取ってもらったんだ?」

「えっと……100万グラン」

「100万グラン!? そんな大金で買い取ってもらったのか!? それなら急いで売り飛ばした闇商人の所へ案内しろ。買い取ってもらった金額を渡して買い戻すから」

「あっ、それがその……買い取ってもらったお金は使っちゃったんだよね……」

「使っただあ!? 100万グランをか!? 何に使ったんだよ!」

「えっと、祝福の鐘にしてたツケと、他の飲み屋で飲んだ時のツケと、酔った勢いで壊してしまったお店の弁償金とかで……テヘッ」

「こんの大馬鹿駄天使があぁぁぁぁ――――!」

「ああ――――ん!」


 俺の気合を込めた拳骨げんこつを頭にくらい、快感の声を上げるラビィ。

 買い戻すにしても100万グランなんて金はすぐに用意できないし、取り戻さなきゃ街が危ないし、いったいどうすりゃいいってんだ。

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