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非情はどの世界も変わらない

 異世界に転生してから今までで驚く事は色々とあったけど、今日ほど異世界に来て驚いた事は無い。

 何せ眼前では身の丈十メートル以上はある超巨大なカボチャが目からビームを放ち、口からは真っ赤な火炎を吐き、メデューサの様に頭の上にあるつるをウニョウニョとさせながら所狭しと暴れまわっているのだから。


「あんな化け物どうやって倒せってんだよ……」

「ねえリョータ、逃げた方がいいんじゃない?」


 ラビィにしては珍しく冷静で的確な意見だと思うけど、それが出来れば最初っから逃げを選択している。


「出入口はさっきのビームで壊されただろ?」

「それじゃあどうすんのよ!?」

「それが分かればこんな所で超巨大カボチャが暴れ回る怪獣ショーなんて見てやしねえよ!」


 慌てふためくラビィをよそに、俺はこれでもかと言うくらい必死に考えを巡らせていた。

 幸いな事に、現時点で超巨大カボチャは俺達を襲いには来ていない。ならばこちらへ狙いをつけられる前に、何かしらの対策を考えておくべきだろう。


「ねえねえ! もうここはラッティの魔法で木っ端微塵にしてもらった方がいいんじゃないの?」

「それはそうかもしれんが……」


 ナイスアイディア――と言わんばかりに明るい表情を浮かべてそう言うラビィ。もちろんその解決法も選択の一つとして考えはしたけど、その方法があまりにも危険な賭けになるのは目に見えていてる。

 何せ一つしか使えないラッティの魔法はどんな攻撃魔法が出るか分からない上に、初級魔法でも地面に大きなクレーターを作る威力。仮に上級か最上級の魔法でも発動しようものなら、農園ごと俺達やカボチャを地上から消し去ってしまう可能性だってあるわけだ。


「ラッティちゃんはマジックウィザードですよね? カボチャは物理攻撃には相当の耐性を持っていますが、魔法攻撃にはかなり弱いんです。合体カボチャは他に比べれば魔法耐性もかなり強いですが、並のウィザードならともかくとして、マジックウィザードの攻撃魔法なら何とかなると思いますよ?」


 非常に落ち着いた感じで説明をしてくれるリュシカ。何ともありがたい説明ではあるけど、その肝心なラッティの火力がヤバ過ぎなのが問題なんだ。


「あー、その……ラッティはちょっと特別と言うか何と言うか、魔法を撃たせるのは危険なんですよね。色々な意味で」

「色々な意味、ですか?」

「はい。下手をしたらこの農場が、俺達ごと地上から消し飛ぶかもしれません」

おっしゃる意味がよく分かりませんが、この農場は建物が強力な結界で護られているので、多少の荒事は大丈夫だと思いますよ?」


 ――多少はねえ……。


 地面に大きなクレーターを作るあの魔法威力を、多少という評価でくくっていいものだろうか。

 俺はラッティ以外のマジックウィザードの魔法威力を見た事が無いから分からないけど、もしかしたら他の連中もラッティと同様にとんでも威力な魔法を使うのかもしれない。

 この世界における出来事一つ一つに関し、俺は完全に疑心暗鬼に陥っていた。


「ヤバイわよリョータ! あのデカ物、こっちに向かって来るわよ!」

「ちっ! まだ考えが纏まってないってのに! リュシカ、あの化け物を何とかできませんか?」

「流石に私でも物理攻撃でアレを黙らせるのは難しいですね。魔法攻撃もマジックウィザードには遠く及びませんし」


 この絶体絶命のピンチにおいても、表情一つ崩さずに涼しい笑顔を浮かべているリュシカ。きっとこのお方は自分が生き残る事に相当の自信を持っておられるのだろう。


「キャアッ!」


 どうすればいいんだと考えを巡らせる中、隣に居たラビィが悲鳴と共に一瞬で姿を消した。その原因はカボチャ以外の何者でも無いと思った俺は、迫り来る超巨大カボチャへと視線を向ける。

 すると超巨大カボチャの蔓にラビィが絡め捕られているのが分かった。


「キャアアア――――ッ! 助けてリョータ様――――っ!」


 絡め捕られたラビィは巻きつけられた蔓に思いっきり振り上げられていて、そこから必死の叫び声を上げていた。

 今までピンチの時でもリョータさんだったのに、今回はリョータ様と叫んでいるあたりがラビィの必死さを感じさせる。


「くそっ! こうなったら一か八かだ!」


 奇襲スキルを発動させた俺は、気配を悟られない様に注意しながら巨大カボチャへと近付く。


「テリャーッ!」


 上手い事カボチャの背後を取る事に成功した俺は、その巨体目がけて短剣を突いた。

 しかしその堅く強靭な巨体には、刃先の少しも突き刺さってはいない。


「くっそ! かてえー!」


 リュシカの言っていたとおり物理防御は半端ではないようで、俺は早々に短剣での攻撃を諦めた。


「なっ!?」


 先制攻撃もそこそこに一度距離を取ろうとした瞬間、俺は伸びて来た蔓に足を絡め取られてラビィと同じ様な状態になってしまった。


 ――マズイマズイマズイッ! こうなったらもう、背に腹は変えられない!


「リュシカー! 魔法防御系の魔法は習得してますか――――っ!」

「一応習得はしていますが、それがどうかしましたかー?」

「今からラッティに魔法を使ってもらうので、俺とラビィを一番効果の高い防御魔法で保護してほしいんです!」

「それは構いませんけれど、本当にいいんですかー? もう少し色々な方法を考えてみてもいいんですよー?」


 ――本当にいいも何も、この状況で他にどんな選択肢があるってんだ! それにこんな状態で悠長に他の方法を考えるなんて出来る訳ねーだろっ! ちょっとは状況を見ろよドSシスター!


「考えなくていいから、とにかく魔法を使って――――!」


 心の中で思いっきりリュシカに毒づいた後、俺は祈る気持ちでそう言い放った。これで駄目なら本当に今日が俺の命日になるだろう。


「分かりましたー。それでは了承を得たのでそうしますねー。この地にたゆたう精霊達よ、我に力を――マナスクリーン!」


 祈りを捧げる姿をとった後、両手を空高く掲げたリュシカの両手から巨大な魔方陣が展開し、そこから淡く美しい青の光が放たれて俺とラビィを優しく包んだ。


「魔法は成功しましたー。これで大丈夫ですよー!」

「ありがとうございます! ラッティ――――! このカボチャに向けて魔法を使ってくれ――――!」

「魔法使っていいのー?」

「今は大丈夫だから早く使って――――!」

「分かったー! それじゃあ使うねー!」


 ――良かった……これでとりあえず助かる。


「ルーデカニナ!!」


 超巨大カボチャへと向けられた杖先に現れた巨大な多重魔方陣。

 そして魔法の発動と同時に杖先がキラリと光ったかと思うと、そこから地獄のマグマを思わせる様な真っ赤な炎が飛び出し、超巨大カボチャを大きく包み込んだ。


「ギュアアアア――――ッ!?」

「ぬわあぁぁぁぁ――――!」

「死ぬう――――っ! 熱くて死んじゃう――――っ!」


 獄炎がカボチャを一瞬で包み込むと同時に、俺達もその炎に包まれる。

 よりにもよって炎の魔法で焼かれるとはついていない――そう思った瞬間に身体を拘束していた蔓が焼け落ちたらしく、俺はそのまま地面へと落下した。


「ぐえっ!?」


 高さは最初より低くなっていたとは言え、顔面から落下した俺はその痛みで顔をしかめながら両手で顔を覆った。


「ぎゃんっ! いたたたた……もうっ! 地獄の亡者じゃあるまいし、大天使の私が炎に焼かれるなんて最悪っ!」


 俺から遅れること数秒。同じく落ちて来たラビィがお尻をさすりながら大声で喚く。あれだけの元気があるならとりあえず大丈夫だろう。


「げっ……」


 魔法を受けた超巨大カボチャの様子を見る為に後ろを振り向くと、そこに超巨大カボチャの姿は既に無く、超巨大カボチャが居た影の痕跡だけが残っていた。

 身の丈十メートルを超える超巨大カボチャが跡形も無く消し炭になっているこの光景を見ると、改めてラッティの魔法威力に畏怖いふの念を抱いてしまう。それにしても、これでもしリュシカから防御魔法をかけてもらってなかったら――そう思うとゾッとする。


「よし、撤収!」


 カボチャ収穫クエストを始めてから約二時間。俺はクエストの終了を宣言し、即座に信号弾を打ち上げた。


× × × ×


 信号弾の合図により助けに来てくれた農場係員の誘導で農園を出てから馬車に乗り、リリティアの街へと戻って来た俺達四人は、今回のクエストの報酬を受け取る為に祝福の鐘へと来ていた。

 途中放棄とはいえ、収穫したカボチャ分の報酬が貰えるのはありがたい。


「はあっ!? あんだけ頑張ったのにたったの5千グラン!? どう言う事よ!」


 ギルドの受付で報酬の受け取りをしているラビィが騒いでいる。

 アイツにしては今回は頑張っていた方かもしれないけど、結果としてEランクのカボチャしか収穫していないのだから、当然と言えば当然の結果と言える。


「にいやんにいやん、お金沢山貰ったー」

「おー! 凄いなラッティ」

「えへへー」


 クエスト報酬の詳細が書かれた用紙と、お金が入った麻袋を見せるラッティ。

 ラッティは収穫におけるマイナス査定が大きかったものの、結果的には20万グラン程を稼いでいた。代価の杖で粉々にしたマイナス分さえ無ければ、かなりの額を稼げていただろう。

 クエストの詳細書によると、Aランクカボチャも四個撃破しているようだったし。まあ、跡形も無くぱーん状態だったみたいだが。


「リュシカさんの報酬はこちらです」

「ありがとうございます」

「結果はどうでした?」

「今回は40万グラン程でした。切り上げた時間も早かったので仕方ありませんが、まあこんなものですかね」

「…………」


 余裕の笑みでそんな事を言うリュシカ。

 まあ分かっていた事ではあるけど、俺が知る限りでは全てのカボチャを素手で無傷の状態で落としていたから、収穫と言う意味で最高の仕事をしたのはリュシカだろう。だからこれも当然の結果だと言える。


「そんじゃまあ、俺も貰ってきますね……」


 リュシカの余裕に溜息を吐きつつ、報酬を貰う為に受付カウンターへと向かう。


 ――今日は貰った報酬で少し良い物を食べて英気を養おう……。


「こちらが近藤涼太さんのクエスト報酬詳細書になります」

「へっ?」


 他の三人とは違い、俺が手渡されたのはクエスト報酬詳細書だけだった。


「あの……お金は?」

「近藤涼太さんの今回のクエストにおける報酬は、全て農場の破損補修金の補填に当てられました」

「はあっ!? な、何でそんな事に!?」

「こちらでは危険な魔法の使用を強要した事により、農場を著しく損壊させたからと伺っています」

「…………」


 確かにラッティに魔法を使ってくれって頼んだのは俺だけど、だからって報酬全部を差っ引かなくてもいいと思う。

 報酬が無いせいで少し良い料理を食べる事すら出来なくなった俺は、沈んだ気持ちでクエスト報酬詳細書を開き見た。


 ――完全収穫数十八個。破損収穫数十二個。収穫カボチャランク、Eランク二十七個、Dランク三個。総報酬1万9千500グラン。農場破損による天引き、1万9千500グラン。農場破損による破損金、残り198万500グラン……はあっ!?


 クエスト報酬詳細書の最後に書かれていた内容を見て俺は愕然とした。


「ねえねえ、リョータはどれくらい稼げた?」

「…………」


 それを見て答える気力すら失っていた俺は、クエスト報酬詳細書だけをラビィへと差し出した。


「何これリョータ! アンタ借金背負ってるじゃない! クエストをやって借金抱えるなんて、プークスクスッ!」


 いったい誰のせいでこんな目に遭ってると思っていやがるんだろうか。こんな事ならカボチャに捕まった時に見捨ててやれば良かったと思う。


「あっ、早速ですが、今回の報酬から約六割をいただきますね」

「あっ! ちょ、ちょっと!」


 ラビィが持っていたお金を取り、そこから約六割の額を取ってリュシカは懐へと収める。


「これで私に対するラビィさんの借金が残り429万7千グラン、リョータさんが80万グランですね」


「はあっ!? どうして俺がリュシカに借金した事になってるんです!?」

「私だって何で借金が増えてるわけ!?」


 詰め寄る俺達を前に、いつもの様に顔色の一つも変えないリュシカ。いつもながら冷静過ぎて怖い。


「借金が増えた理由と借金になった理由ですか? ラビィさんの方はまず、カボチャの群れに追いかけられた際に私が倒したカボチャの強さと総数から導き出した助け賃ですね。リョータさんの場合は私に頼んだ防御魔法と、その後に使った回復魔法の分です」


「ええっ!? あれってお金取るんですか!?」

「あら、私は借金返済の分割を受け入れる際にこう言いましたよ? 『私が貴方達と行動を共にする際に生じた行動や食費等の必要経費に関するお金の一切を貴方達が支払う』――と。つまり今回のクエストにおけるラビィさんとリョータさんの行動や意志を反映し、それに見合った報酬を要求しているだけです」

「で、でもそれってあんまりじゃないですか!?」

「だから私はちゃんと聞いたじゃないですか。『本当にいいんですか?』って」

「うっ……」


 そう言われるとぐうの音も出ない。確かにリュシカはちゃんと確かめていたから。


「リョータ……私達これからどうなるの?」

「言うな。考えると逃げ出したくなるだろうが……」


 ――ああ……ホントに異世界になんて来るんじゃなかった。


 借金を返して生活費を稼ぐどころか、新たな借金を背負ってしまった俺とラビィ。

 こんな調子でいつか魔王を倒し、どんな願いでも叶える権利を得る事が出来るんだろうか。

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