サンタさんオペレーション
「大丈夫、うまくいくはず」
夏希は自分に言い聞かせながら、テレビを見て笑う優斗を、じっと凝視していた。
今年で高校二年生になった夏希にはこの時期、毎年重大な任務がある。それは全て、今目の前で無邪気に高
笑いをしている十個年の離れた小学一年生の優斗のためである。優斗はまだ幼く、この時期、つまり、十二月になると必ずサンタがやってくることを信じている。多分。
しかし、生憎うちの家庭は両親の帰りが遅く、誰もサンタの役をしてくれる人がいない。そこで抜擢されたのが私というわけだ。今までに、過去通算二回の黒星を上げてきた私なら、今年も華麗に決めて見せることができるはずだ。
「お姉ちゃん、サンタさんまだかなぁ。遅いね」
「そうだね。やっぱり暗くなってからじゃないかな」
まだ六時前だぞ。日も落ちてないじゃないか。そんな時間にサンタが外を出歩くか!
しかし、小学生になりたての優斗からすれば六時はもう遅い時間かもしれない。
夏希は頭の中で今回の作戦の最終リハーサルを行った。まず、いい時間になったところで、私がトイレに行くと言ってリビングを離れる。そのままトイレに行ったことを決定づけるため、トイレの電気をつけて足音を立てず勝手口へ。勝手口の扉を開けあらかじめ用意していた優斗へのプレゼントを持ち、正面玄関へ。プレゼントを玄関に置き、インターホンを鳴らし、優斗が出たら録音しておいた、サンタの「メリークリスマス」の声を一声かけて、そこからは全力で勝手口に戻る。優斗が玄関でプレゼントを受け取ってリビングに戻ってくるまでに、トイレの電気を消し、リビングに戻って満面の笑みで優斗を迎える。
完璧だ。毎年同じ方法だが、私は親に種明かしされるまでの十年間、ずっと騙され続けてきたんだ。優斗が気づくわけがない。
「今年はねえ。絶対サンタさん捕まえてやるんだ!」
優斗からその言葉を聞いたのは一年ぶりだった。まあ君のお姉サンタは絶対君には捕まったりはしないよ。
「なんで優斗はサンタさん捕まえたいの?」
「前ね、お父さんに聞いたんだけど、サンタさんってほんとは不法侵入って言って、悪いことしてるんだって聞いたから!」
あの親父は優斗に何てこと吹き込んでんだ!こんな純粋な子供を騙すなんて、なんて親だ!それと、私はこの家の者だから不法侵入には入らんわ。
「優斗もえらいねえ。サンタさん捕まえるために頑張ってね」
優斗はすっかりプレゼントの事よりも、サンタ捕獲を張り切っている。まあ、絶対に捕まったりはしないのだが……少し良心が痛む。昔から私は弟の優斗がかわいくて、周りからも一目置かれるほどだった。そんな優斗のクリスマスだ。絶対に成功させて見せる。
*
時間になった。
私はシミュレーション通り、リビングを離れ、トイレへと向かった。と家の電気を付け、物音ひとつ立てず勝手口の扉を開いた。外は寒く、お風呂に入りたての私にはかなり冷えるものがあった。プレゼントを手に取り、抜き足で正面玄関へと向かう。プレゼントの中身は、優斗が一カ月以上前から欲しいと言っていた新しいゲームソフト。もちろん私の分も買ってある。優斗と一緒に遊ぶためだ。
「めちゃくちゃ寒ーい」
小さな声で一言漏らすと、白い煙が顔の前にもわあと現れた。
優斗の喜ぶ顔が目に浮かぶ。今年もうまくいきそうで早くも夏希の顔には笑みがこぼれてきた。
しかし、夏希の笑みもすぐに消えてしまった。正面玄関が妙に明るい。街灯の光なんかじゃない。あれは……玄関の扉が開いている!!
夏希が急いで駆けつけると、そこには赤い服で全身を身にまとった男がいた。
………サンタがいた。
そして、なんとその足には優斗ががっしりとしがみついている。
「あ!お姉ちゃん!見てみて!!サンタ捕まえたよ!」
夏希は唖然として手に持っていたプレゼントを地面に落とした。信じられない。なぜこの男が今ここに居るんだ。最悪のタイミングだ……。
「お父さん……何してるの…………」
「お、おお……ただいま。夏希」