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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter1 サイバネティック・オーガニズム
9/79

Chapter1-4


 岩の裂け目から光が射し込み、薄暗い洞窟の内部を高いところから照らしていた。そこはタチカワとイケブクロの間の街道から少し外れた場所に作られた、ならず者たちの拠点であった。中では数名の男たちがもぞもぞとうごめき、大小さまざまな機械部品を並べて整理していた。洞窟のさらに一番奥では、ずんぐりとした大男が他の者、手下たちの作業の成り行きを眺めながら、腕を組み黙考にふけっていた。


「お頭ァ。仕分け完了したぜ」手下の一人が大男に報告する。

「おう、単車に積んどけや」


 報告を受けた大男――ならず者達の頭領 ヴァルモ・サラソヤ は満足そうに口の端を歪め、次の指示を出した。そうして彼自身もその巨体を起こし、自らの準備に取り掛かり始めた。


 ヴァルモ・サラソヤは、元々はトレイズとして生計を立てていた男だった。最低限の労力で自分の好きなように暮らしていきたいという願望を持つ彼は、まともに依頼をこなしてコツコツと生活するという暮らしに馴染めなかったし、人より多少腕は立ったものの、それを使って高難度の討伐依頼を受けるという気にもなれなかった。


 彼はその腕力を他人の財を奪うことに用いることにした。外地での討伐任務は指定数のグールや野生生物を駆除しろ、というものが多い。討伐依頼を受けると、似たような依頼を受けたトレイズがいる地区へ向かい、そこでまともに戦おうとはせずに瀕死になりかけの討伐対象を探し、それに過剰な威力でとどめを刺すということを繰り返し、獲物や素材を横取りするというのが彼のやり口だった。


 狩場を頻繁に変えるなどして、しばらくはそういったやり方でながらそういったては彼はトレイズとしての暮らしを謳歌していた。しばらくしてギルドからの警告を受けると、彼はまた別の方法を模索した。もはやまともに働かないこと自体が彼の美学のようなものになりつつあった。


 しかし、ある日彼は他のトレイズとトラブルになり、そこで相手を銃で撃ち殺してしまった。それは逆上して我を忘れた行動ではなかった。世間一般の常識というものを知ったような顔で語ってくるその相手が面倒になり、彼はあっさりと引き金を引いたのだった。ここまで自分の好きなように生きてこれたのだから、なんとかなるだろうと彼は考えていた。


 トレイズとしての彼のカードは失効し、彼は街を追われて外地をさまようほかなかった。とはいえ、彼にとってはグールを殺すことなどわけもないことだった。彼は各地を渡り歩いて好きなように生活をした。次第に街の中より外地で暮らす方が多くなっていた。


 そんな暮らしを続けていくうちに、ヴァルモは自分と同じように街を追われたならず者たちと出会うこともあった。ヴァルモは外地でより楽に金を稼ぐための手段としてこれらを抱きこみ、ならず者たちも外地での依り処としてヴァルモを利用した。以来、ヴァルモはならず者の頭領として一団をもつようになった。


 ◇


 彼の手下が袋に詰めているのは、各地にある遺構から発掘された再起動以前の時代の機械類だった。

 岩の上に乱雑に置いてある装備を身に着けながら、ヴァルモは自分たちに取引をもちかけてきた相手のことを思い出していた。

 

 相手は科学省の人間であるらしく、遺構から出土した機械を持ってくればどんなものでも全て買い取ってやると言った。ヴァルモが訝しむと、そいつはヴァルモの経歴や主だった拠点、直近の一週間で彼が口にした食事の全てをそらんじた。ヴァルモはそれにうろたえることはなかったものの、何か得体のしれないものを感じた。

 気が向いた時に持ってきてくれれば構わない。ただこちらの仕事をするのが一番効率よく稼げるだろうというようなことを相手は口にした。ヴァルモはひとまずこの取引を了解することにした。何かあってもなんとかなるだろう、と彼は思った。元より深く物事考えることが好きな人間でもなかった。


 何度かの取引をして、相手はこちらの思っていた以上の金額を払うことがわかると、ヴァルモ達はそれに気を良くし、めぼしい遺構を自分を漁るだけでなく他の者が所持している機械にも手を出し始めたのだった。


「お頭ァ、トレイズが一人でうろついてるぜ!」


 ヴァルモとその手下たちが移動の準備を終えた頃、洞窟の入り口から外を見張っていた手下の一人が愉快そうにヴァルモに声をかけた。ヴァルモは洞窟の入り口を振り返った。


「ああ? どんな野郎だ?」

「けーっこういい装備してるぜえ。大きなザックも背負ってやがる」

「輸送任務か? …まあいい。せっかくだから分捕っちまおう――お前ら!エンジンに火ィ入れろ!」


 ヴァルモが号令を出すと、手下たちはそれぞれ自分のバイクのエンジンを起動させた。


 「お前らは先に行って足止めしとけ!俺が『雉隠キジカクシ』で横から仕留める!」

 「オーケイ、先にやってるぜ!」


 洞窟の中から何台かのバイクが勢いよく飛び出した。

 エンジンの音は徐々に小さくなっていく。


 ヴァルモは洞窟の中に置いてあった、黒い、身の丈より一回りほど大きい人型の金属の塊に手をついた。それは人間が乗り込むように着用して操作するパワードスーツであった。彼はスーツに乗り込み、中のパネルを操作した。


 「雉隠」と腕に刻印されたそれは光を灯し、排気音を立てながらヴァルモを己の内に迎え入れた。



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