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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter1 サイバネティック・オーガニズム
7/79

Chapter1-2


 キイチに諸々の費用を支払って診療所から出る頃、タチカワの街を陽はだいぶ高い場所から照らしていた。ポスターは人で溢れる繁華街を歩き、まっすぐにトレイダーズギルドへと向かう。診療所からギルドまではほんの五分ほどの距離だった。

 ギルドに近づいていくにつれ、すれ違う人間の種類が変わっていく。辺りには全身を厚い装備で覆った者が増え、それらは皆ポスターと同じ方向に歩いているようだった。


 トレイダーズギルドは繁華街のはずれにある一際大きな建物の中にあった。

 鉄の扉を開けると、中はすでに大勢のトレイズでごった返しており、ちょうどギルドの受付嬢たちがその日の依頼を張り付けているところのようだった。


「みっなさーん! ハローワーク!」


 ヘッドセットを付けた受付嬢 リネット・グッド の声がスピーカーから聞こえてくる。

 彼女はお立ち台の上で大きく手を振って元気いっぱいな挨拶をし、トレイダーたちの視線を集めることに成功した。


「リネットちゃあああんッ!」

「今日も可愛いよ!」

「こっち目線ちょうだい!」


 トレイズたちの歓声が上がる。

 その日の最初の依頼開示の際にはギルド受付嬢が依頼の案内を兼ねて朝礼をするのが恒例だった。

 以前はただの朝礼のような挨拶でしかなかったが、最近になって新人受付嬢のリネットが新しい朝礼担当になってからは、彼女の無垢な明るさに荒んだ心のトレイズたちが大ハマりし、朝礼は異様な盛り上がりを見せるようになっていた。

 彼女の朝礼見たさに朝からギルドへやってくる者が増えたことで、依頼の回転もよくなったのだという。

 ギルドがリネットに朝礼用の制服を用意したところさらに活気が増し、今では朝礼というよりも、もはや何か別のエンターテイメントのようなものになりつつあった。


「朝から皆さんに会えて嬉しいですっ!今日も依頼がたくさん来てるから、じゃんじゃんこなしていってくねー!」


 リネットはそう言うと、スカートを翻し、お立ち台から降りて、脇に備え付けられていた大きなレバーを小柄な体をいっぱい使ってそれを押し倒した。

 ガチャンッ!というレバーの音とともにきりきりと歯車のようなものが動き出す音が室内に響く。すると無数の紙が張り付けられた巨大なボードがトレイズたちの目の前に降りてきた。

 紙の一枚一枚にトレイズに向けて出された依頼内容が書かれている。依頼の内容は多岐にわたり、下水などの生活インフラや街中の清掃、都市間の街道に出没するグールの群れの討伐、はたまた逃げた飼い猫の捜索など、まさになんでもありといった状態だった。

 昔はこれらを巨大なスクリーンに出力していたようだが、依頼内容の多さからとても一覧できるものではなく、またトレイズがそれぞれ任意の依頼を受けるには不向きであったということから、結局紙に出力したものを職員が張り付けていくなんともアナログな形式に落ち着いたという。


 リネットは再度お立ち台の上に上がってトレイズたちを囲むようにボードが降りている光景を満足そうに眺めると、依頼を受けるにあたっての注意点やギルド側で優先的に対処してほしい依頼について語り始めた。

 そしてひとしきり朝礼で言うべき内容を語り終えたところで、こほんと彼女はひとつ咳払いをした。


「明日のためにっ、今日も良き、労働を!ハロー!ワーク!」


 リネットが右手を突き上げると、それに呼応するようにトレイズたちも拳を突き上げて歓声を上げた。

 ハローワークとは、再起動以前の世界における職業求人窓口のことらしい。今ではこの言葉が実際にどう使われていたかもよくわからず、語感が良いという理由で言葉だけが辛うじて残っている。


「ハロー(挨拶)とワーク(仕事)なんで、仕事前の掛け声だったんじゃないですか?」とはリネットの談である。

 良い仕事をしよう、という程度の意味合いで彼女が使い始めたところ妙に広まってしまったのだった。


 興奮冷めやらぬままに、トレイズたちがボードから依頼用紙を次々と剥がして受付に運び、それを受け取ったギルド受付嬢たちはカウンターに備え付けられた薄い箱型の端末を操作して依頼を担当するトレイズの情報を記録していく。

 依頼用紙の元となる情報は全てこの端末の中に記録されており、依頼用紙とはその内容を紙に出力したものだった。

 また、端末にはトレイズの情報も記録されており、依頼内容とその用紙を持ってきたトレイズのこれまでの活動状況とを照らし合わせて、問題なしと判断されれば無事に依頼は成立となる。

 依頼は基本的に早い者勝ちであり、朝一番の依頼開示ということもあってギルド内は大混乱に陥った。


「おー、こわ」


 ポスターはギルドの入り口に立ったままそうつぶやいた。

 彼は人の波が落ち着くのを待って残った任務の中から適当に選ぼうと考えて、まずは朝食をとることにした。


 トレイダーズギルドでは飲食物の提供も行っている。というよりも、成り立ちを考えれば本業はこちらの方だった。

 再起動直後の混乱期、人々が憩う場所としてとある飲食店があり、崩壊直後の世界で働く人々の多くはそこに集まって情報交換をした。それをきっかけにいつしか店のモニターは伝言板として機能するようになり、そのうち店主が政府と店に集まる人々との仲介をするようになり、今日のギルドに繋がっていく。


「おはようさん。何か朝食になりそうなものをくれないか。卵料理が入ってれば後はお任せで」


 ポスターは部屋の脇に備え付けられたカウンターで料理を注文した。口数の少ない店員はそれを黙って頷いて注文を受理すると、厨房へと引っ込んでいった。



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