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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter3 アサカ開拓地 
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Chapter3-1


 「センパイ」


 地形を切り拓くように敷かれた道路を進む中で、それにいち早く気が付いたのはイーヴァであった。

 彼女は自分たちの進む方向に人影を見つけると、それを指さして周囲の者たちに伝えた。


 イケブクロを出発してからかなりの時間が経ち、もうしばらくでアサカ開拓地が見えてくるかというところである。見つけた人影は開拓地の人間だろうかと一行は考えた。


 イーヴァが指示した方向。

 徐々に近づいてきている人影は、その体格からして男性のようだが、足下はややおぼつかない様子であった。

 

 「……ちっ」


 男の様子をはっきりと視認できるようになったところで、ポスターが小さく舌打ちをした。


 「ポスターさん?」


 セラフィ―ナが尋ねる。


 「嫌な予感がする。僕の後ろに隠れていてくれるか。――ウィリス。セラフィーナの背後についておいてくれ」

 「了解」


 ポスターは前方から近づいてくる男を見据えたまま、腰のホルスターに手をかけて言った。


 「センパイ。あの人はやっぱり?」

 「グールかもしれない。見た目は人間のままだけど、どうも様子がおかしいね。…もう少し近づいてみよう」

 「大丈夫ですかね?」

 「大丈夫じゃなかったら援護を頼む」


 ポスター達は慎重に道を進む。

 男との距離が縮まっていくと、次第に彼がぶつぶつと何かを呟いていることがわかる。


 ――…ど、どど、土曜ビの午…、わ……は目を覚…すと…飯の材料…買…に


 男は虚ろな目をしたままふらふらと歩いている。

 ポスターとの距離は既に十メートルを切っていた。


 ――…-パ…へ続くい…もの道に猫…死骸が転がってててて、わ、わたわたしははは


 男は言葉を切って立ち止まると、その顔をポスターに向けた。

 ポスターは既に彼が普通の人間でないことなど理解していた。遠くから見た時はわからなかったが、男の体には外傷が見られる。おそらく彼はグール化の進んだ人間である。


 一方でその事実を予測していたポスターは、警戒していたにもかかわらずその身をすぐに動かすことができなかった。先ほどまで虚ろだった男の目が、自分の方を向いた時に正気を取り戻しているように見えたためである。


 助けを求めるような目がポスターに銃を取り出させるのを躊躇わせた。


 「なあ――あんた…助けてくれよ……。何、かが俺の中に…あ、あ、あ……」

 「おい、大丈夫か!?」


 苦しそうに言う男にポスターが声をかける。

 男は頭を抱えて、その場で体を震わせた。次第に男は両手で頭を殴り、掻きむしり始めた。

 

 「あああああああっ!くそっ!くそっ!くそっ!おれ、わたわたしわた、おれ俺の中から出て、いッ!」


 さきほどまでふらふらと歩いていた男が、今度は力を込めて頭を掻きむしる。頭からは血が噴き出し、男の指は血と剥がれた肉で赤黒く染まっていった。


 「が、あ、あ、……――ねこのしがい……わたしがころすはずだったねこ、ねこ、猫。だれがころしただれが殺した誰がやった誰がやった」


 男は頭を掻きむしるのを止めると、ゆっくりと手を降ろした。それから一度辺りを見回した後、またポスターの方を向いた。


 「お前か」


 虚ろな目でそう呟くと、その身を躍らせてポスターへと襲い掛かる。

 男は獣のような動きで腕を振りかぶるが、その腕がポスターの体に届くことはなかった。


 害されるよりも早くポスターは銃を引き抜いて男の眉間を撃ち抜いた。


 男は衝撃であっけなく吹き飛ばされ、地面に転がされる。

 痙攣したようにのたうち回る男にポスターが止めを指すと、男はそれきり動かなくなった。


 「ポスターさん、今のは……」

 「グール化した人間さ。変異の瞬間を見るのは初めてかい」

 「は、はい。」

 「そう。あんまり気分がいいもんじゃない…、運が悪かったね」


 ポスターはそう言ってため息をついた。


 「――あの感じ、グールに襲われたばかりのようでしたね」


 イーヴァが言う。


 「だろうね。それこそ僕らが見つける少し前とか……。念のため、これまでよりも警戒して進もう。彼を襲ったグールが近くにいるかもしれない」

 「わかりました、何かあれば報せますね」

 「頼むよ。ああ、くそ。もうすぐアサカに着きそうだってのに…」


 「おいおい、ポスター。あれを見てみろ」

 

 唐突にウィリスがポスターの肩を叩く。

 どうした、ポスターはウィリスの方を振り向いた。


 するとウィリスは顎をしゃくり、ある方向を見てみるよう促した。促されるままにポスターはそちらを振り向く。イーヴァやセラフィーナもそれに続いた。


 彼ら視線をやったのは道が続いている先、そこから黒煙が上がっている。


 「もしかしてありゃあ……」


 ウィリスはそう言ってポスターを見る。

 ポスターはウィリスの言葉に頷いて応えた。


 「ああ、アサカはあのあたりにあったはずだ」


 立ち上る黒煙を見ながらポスターはそう言った。


 一行はアサカへと続く道を急ぐことにした。 

チャプター3です。

次回更新日が固まり次第追記します。

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