Chapter2-34
「なにやら修羅場の気配がするな。よう、ポスター。席を外しておくか?」
二人の関係をうかがっていたセラフィーナをよそにウィリスが声をかけた。
「いや、構わないさ」
「ふむ、そうか。ならいい。 …お前、その子になにかしたのか?」
ウィリスが眉をひそめながらぶっきらぼうに尋ねた。その質問に同調するようにセラフィーナも首を何度も縦に振る。二人から自身に対して向けられる視線に弱ったのか、ポスターは居心地悪そうに目をそらした。
その様子を見たウィリスは問いかけるように「ポスター?」と彼の名前を呼ぶ。
「なにかしたというか、何もしなかったんですよね、センパイ?」
口を開いたのはポスターではなく女性の方であった。彼女はどこかいたずらっぽい仕草でポスターの顔を覗き込んだ。「悪かったってば…」とポスターはうろたえたように言った。
「なにもしなかった?」
ウィリスが尋ねると女性は説明を促すようにポスターに視線をやった。
思わずポスターは視線を泳がせる。それから少し間を置いた後、何かを観念したのか、ポスターは降参だというように両手を挙げた。
「この間、イーヴァの輸送任務を手伝ったんだ」
ある吹雪の夜、リンクであるイーヴァ・ウォルシューに出された緊急依頼への助けとしてトレイズの立場から彼女の輸送隊に参加したこと。猛吹雪によって隊列は二分されてしまい、一人で目的地まで向かったこと。彼は自分がウィリスと出会うより少し前に受けた輸送任務について話し始めた。
「なるほど、お前だけが先に荷物を持ってそのシンジュクとかいう町まで向かったと。それで、その後はどうしたんだ?」
「僕は町まで荷物を届けて、少し休んでからまたタチカワに帰ったよ」
「それで?」
「……それで終わり。翌朝には別の任務に向かった」
ウィリスはその場で数回瞬きをした。
何故ポスターが手刀を受けることになったのか、彼は今しがた聞いた話を整理しようとしているようであった。
「は、はいっ」
ちょうど同じころ、セラフィ―ナが声を上げて挙手をした。
「……あの、ポスターさんの消息はどうやってイーヴァさんに伝えたんですか?」
セラフィーナはおそるおそる尋ねる。言外には、「まさか」であったり「もしかして」といったニュアンスが込められていた。
周囲の視線がまたポスターに集まる。
「…ツタエテナイヨ」
ポスターの言葉は小さい呟きだったが、周囲の者達全員の耳にしっかりと入った。
「ほんっとひどいですよ!!」イーヴァが吠える。
「センパイ、あの時『先に行ってる』とか『後からなるべく早く来い』って言ってたじゃないですか。それで町に行ったらとっくに帰ってるとかどういうことですか?普通合流を待ってません?荷の確認だってありますよね?」
「ほら別に僕は待ってるとは言ってなかった」
「それ、センパイ用の食糧や医療キットを急いでベースキャンプから取ってきた私の目を見て言えます? 町の中でセンパイを探して走り回ってたら、ヒューバートさんに『もう帰ったよー?』って言われた時の肩透かし感わかります?」
「……待っていると約束したわけじゃないですけど、殴られても仕方がないくらい心配かけてますね」
「それを自覚してたからお前はあの手刀を避けなかったというわけだ」
次回更新日が固まり次第追記します。




