Chapter2-24
「つ、続きはけっこうだわ。それより、その流れてきたっていうの、もう少し詳しく聞かせてもらえる?」
恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、セラフィーナはウィリスに尋ねた。
「ポスターとこの場所で話をしていたら、急にどこかからか送られてきたのさ」
ウィリスは自分の頭を指でつついて言った。
「あのサリヴァンとかいう男がやってくるよりも少し前――まあ、一時間と経ってはいないと思うがね。……ちなみに聞くが、俺がさっき読み上げた内容に心当たりはあるんだな?」
「……ええ、あるわ。私がついさっき無線通信の実験としてアオバに送った内容とまるっきり一緒」
アオバの端末には届いているはずなのに――とセラフィーナは首を傾げた。
「ええと……ああ、思った通りだ。ヘッダーの制御情報を見る限りでは、確かにどこか別のアドレスを指定しているな。恐らくだが、無線で流されたデータを俺が拾ったのだろうよ」
「あ、あなた、そこまで見れるの?」
目の前のウィリス――恐らく送られた情報をその場で解析している――の様子に、セラフィーナが声をあげる。
「ねえ、どうやって解析しているの? そもそもどうやってデータを拾ったの!?」
「どうって……、普通に? 送られてきた手紙を開いて目を通すような感覚で? どうやって拾ったかは……そもそも、拾うつもりもなかったからな。勝手に受信しただけだから、どういう仕組みまでかはわからんよ」
「そ、そんな、アバウトな……」
ウィリスの言葉に、セラフィーナはがっくりと肩を落とす。
「ううう……! その頭の中を調べることが出来たら~~……!!」
「おいおいおい…」
セラフィーナのあげるだらしない声に、ウィリスは苦笑いをした。
「……わかってる、わかってるわ。本当にそんなことするわけにはいかないってこと……」
壊しちゃったりしたら責任も取れないし、とセラフィーナは付け足した。
「直せるなら頭を開くのか……」
様子を見守っていたポスターが呟くと、合意が取れるならね? とセラフィーナは答えた。
「受信したパケットの復元ね……」
ウィリスが顎のあたりを指でさすりながら一人呟く。彼はこの状況を利用できないかと考えていた。
彼の横にいるポスターという男。この数日間を共に過ごし、ウィリスは彼を信の置ける友人と認識する程度には気に入っていた。しかしそんな友人とはいえ、彼の持つ、この世界で生きる人々を繋ぐために、トレイズとして自身の全てを捧げるように輸送任務を請け負い続けるという思考は、あまり賢いものではないと言わざるを得なかった。思考は良いとしても、そのための手段があまりに愚直すぎるのだ。
ポスターは理知的な男ではあったが、こと自分自身の中で完結する事柄については単純な考えで行動する傾向にあった。やれるなら、やる。できないなら、できるようにする。観察する限り、彼の行動指針はその二つの思考で決まっているようだった。ウィリスはポスターの過去をそれほど知らない。しかし、その思考で彼が今日まで生きてきたことはわかった。できないなら、できるようにする。そして、それが本当にできてしまったのがポスターという男なのだ。だから自分一人で人々の繋がりを取りなそうとする。無理だと言わず、取り組み続けることが出来てしまう。
確かに、電信程度の通信手段しかないこの世界で人々を孤立させないためには、都市間の往復によって物資を届ける程度の方法しか無い。その役割を担うために「リンク」と呼ばれる公組織があるのだと、ポスターからは聞いている。そして、リンクの働きには漏れが出てしまうということも。しかしその責任を彼個人が請け負い、細かな任務の回数を増やして対応してやろうなどというのは、正気の沙汰ではないだろう。そもそも何故彼がそこまでする必要があるのか。とんだ大物だと思ったが、友人として止めてやらねばともウィリスは思った。結果として、ポスターとは口論のようになってしまったが。
どう説得したものかと考えあぐねていたところに、セラフィーナという女流科学者が現れた。驚いたことに、彼女はこの世界にインターネットを再構築しようと一人で研究をしているという。どこかの誰かと似たような話だ。実験について聞いてみれば、いくらかの問題が出ているようだったが、基礎部分の研究は大詰めといったところのようだった。
荒唐無稽な話ではなく、おぼろげながらも実現のイメージが湧く話である。もっとも、これはインターネットという技術について既に知っているウィリスだから抱くことのできたイメージであり、この世界の人々はまだ彼女の話にそれほどの関心を示したりはしていないのだろう。まだ実装以前の、研究段階である。セラフィーナ本人でさえ完成形を完全には把握しきれてはいないのだから、周囲の人間にどれだけ実像が伝わっているかは想像に難くない。
無線通信による都市間ネットワーク。ろくな援助を得られない中でここまで研究を進めたのか、とウィリスは胸中で感嘆の息を吐いた。そうして、これがあれば、ポスターがひたすら外を走り回る必要はなくなるのではないか。ウィリスはそう考えた。
次回更新日が固まり次第追記します。




