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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter2 調査団
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Chapter2-11


 セラフィーナ・ハッカーがタチカワに到着してから、既に六日が経っていた。彼女は現在、タチカワギルドの二階にある部屋を借りて街に滞在している。部屋の中はアオバから持ち込まれた機材が広げられ、すでに足の踏み場もないほど散らかっていたが、彼女にとってはむしろ、日ごとアオバにある自身の研究室に近づいていくようで、居心地の良さを覚えるようすらなっていた。

 

 一日のほとんどの時間は部屋に閉じこもり、ただただ作業に没頭している。その甲斐あってか、簡易的にではあるが、ついに彼女はアオバで行っていたような実験を、ここタチカワでも行えるようになった。


 部屋の中央には二つの電子端末が設置されていた。一つは、アオバから持ち込んだ、科学省支給の個人用端末。もう一つは、タチカワのジャンクショップから仕入れたパーツを組み合わせて作った、彼女手製の端末である。それら二つはケーブルを用いて接続されていた。


 「デバイスの認識は、オッケー。さてさて、データは受け取ってくれるかなー?」


 セラフィーナが端末に取り付けたキーボードをタイプする。一通りの操作を行うと、今度はジャンク端末の方へと移動する。彼女が部屋の中を移動するたびにがちゃがちゃと騒がしく音が鳴った。


 「えーっと、今送ったデータはここのドライブに……あれ?」


 ジャンク端末のキーボードを打っていたセラフィーナが首を傾げる。何度かキーを叩き、セラフィーナは顔をしかめさせた。


 「ああ、もう!動作確認はしてきたつもりだったんだけどなー……」


 ぶつぶつとつぶやきながら、彼女は端末に取り付けていたキーボードを予備の物に取り換える。新しいキーボードが正常に動作することを確認すると、ジャンク端末の傷のついたモニターを覗き込みながら、操作した。ケーブルを通して送信されたデータが正しく受信されていることを確認すると、彼女は満足そうに頷いた。


 「よーしよし!いいねー!さーて、それじゃ、こっちからの送信はどうかなー?」


 セラフィーナはカバーの取れかかったキーボードをタイプして、再びもう一方の端末の方へと移動する。


 「――うん。データの送信及び受信は、どちらも問題なし、っと」


 彼女はそう言うと、今度は端末同士を繋いでいたケーブルを外し、近くにあった棚から新しく別の機械を取り出した。それは彼女の手のひらから少しあふれるほどの大きさをしていた。彼女は機械の電源を入れ、さらに別の棚から同じ形の機械を取り出し、それも同じように電源を入れた。


 セラフィーナは再び個人端末の前に戻ると、両の手の平をこすり合わせ、己を奮い立たせるように自身の顔をはたいた。


 ――うん、本番は、ここから。


 彼女はそう胸内でつぶやくと、またキーボードを打ち込み始めた。端末内の必要な機能を立ち上げていく。また、しばらくしてから、彼女は思い出したようにビデオカメラの電源を入れ、実験の様子を収められるようにそれを適当な場所に配置した。


 「えー、こほん、無線通信を用いたネットワークテスト、その一。科学省支給端末からジャンク端末へ、有線接続しないでデータを送ることができるか、つまり……、繋がりのない独立した端末から、中継器を介した無線通信によって受信側の端末にデータを送ることができるか、実験します。えーっと、アオバの研究室以外の場所でテストをするのは初めてだから、面白い結果が出ることだけをひとまずは期待しておきましょう――えいっ!」


 セラフィーナはカメラから身を翻し、キーボードのキーを一度叩く。ぱちん、という乾いた音が部屋に響いた。モニター上にデータ送信タスクの状況が一瞬だけパーセンテージで表示されて、すぐに消える。その様子を確認すると、セラフィーナはすぐさまジャンク端末の方へと向かった。


 「どうかなー。……お?おお?来てる!?」


 画面を覗きこむセラフィーナが嬉しそうに言う。


 「いいじゃない、いいじゃない!それでそれで、データの中身は……」


 端末を操作し、受信したデータへとアクセスする。しかし操作を進めるごとにセラフィーナの顔は曇っていった。そのうちに、彼女は脱力したように床にへたり込んでしまった。


 「また、だめなのおー……」


 がっくりと肩を落とし、溜息をつく。彼女の目の前の画面には、破損したデータの残骸が表示されていた。


 ――何がいけないんだろう。何が、足りないんだろう。


 セラフィーナは座ったまま腕を組み、考える。しかし彼女の手元にある情報だけではどうしても求める答えにはたどり着くことができなかった。


 彼女は気を取り直して、今回の通信によって生じたデータの流れを解析することにした。


 「……あれ?」


 解析を始めてすぐのことだった。受信側であるジャンク端末の通信記録を見ていたセラフィーナは、表示される数値に違和感を覚えた。彼女はデータ通信にかかった時間や通信速度に関する項目をさらに細かくに追っていく。


 これまでの実験記録と比べるまでも無く、彼女は違和感の正体に気付いた。アオバの研究室でテストを行った時よりも、今回のタチカワでのテストの方が段違いにデータの通信に関わる速度が高いのだ。それは中継器内のデータを見ても明らかであった。


 ――何、これ。いっそ中継器なんて無くたって繋がりそうな……。


 そこまで考えて、セラフィーナは解析の手を止めた。

 彼女はアオバの研究室に置いてきた、自身のPCの事を思い出していた。


 すぐに支給端末のキーボードを叩き始める。

 モニターにデータ通信タスクの状況が表示されていった。


 「うそ……!なんの中継器も使ってないわよ!?」


 画面にはタスク完了の文字が送信先の端末名と共に表示されていた。

 その表示が示すのは、タチカワにある端末が、遠く離れたアオバの研究室にある端末を認識し、データを送り切ったということであり、彼女の想定を遥かに超える二都市間距離での通信を達成したということであった。


 片道であるとはいえ、都市から都市への情報伝達に要する時間が一分を切るのは実に数百年ぶり、<再起動>以来の出来事である。受信側がデータを復元できなければ意味のない記録ではあるが、この時、セラフィーナは自身の信ずる研究の実体に触れたような気持ちになった。


 「セラフィーナ様、今、よろしいですかな?」


 不意に部屋の扉がノックされ、外から声がする。

聞き覚えのある、男性の声。少し間を置いてから、セラフィーナは声の主がギルド長のアラハバキだと気づいた。彼女は慌てた動きで部屋の扉を開ける。


 任務に出ていたポスター達が帰還したという報せが、彼女の下へ届けられた。


次回更新予定日が固まり次第追記します。


2017/07/04 追記:

07/05(水)午前0時頃に更新予定です。

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