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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter1 サイバネティック・オーガニズム
14/79

Chapter1-9

 ポスターは扉に付けられたボタンを押して適当な番号の組み合わせを数度試してみたが、電子ロックが解除されることはなかった。そのうち彼は、扉の表面を覆う埃の下に文字が彫られていることに気づいた。

 手で拭うように表面の埃を落としてみると、かすれた文字が浮かび上がってくる。


「…用の方は第四管理室へ…」


 辛うじてわずかな文章が読み取れる。

 ここに書かれている場所へ行けば扉を開ける番号がわかるのではないか。ポスターはそう考え、ひとまず扉を後にして商店街の中を歩いてみることにした。


 胸に取り付けられたライトを点けて、さらに奥へと進む。音のない廃墟に瓦礫を踏むポスターの足音が響いた。辺りに舞う埃や塵のもやをライトの明かりが割っていく。

 商店街内部は廃墟となって長い時間を経る中であちこちで壁や天井が崩落し、本来繋がっていなかったであろう場所に道ができあがっているなど、さながら迷路のように入り組んでいた。


 壁に入ったヒビを辿るように照らしてみると、その先は拳痕のような、何か強い力で殴られたように陥没していた。不気味な痕が無数に残っている。

 いくつかの店舗跡に入ってみると、中では激しく争った形跡が残っていた。この場所に何かが潜んでいるのか、とも思ったが、風化の度合いからここで争いが起きたのはだいぶ前のようだった。


「嫌な雰囲気…。再起動時に起きた混乱か…?」


 しばらくして、額に入れられた案内図が壁にかけられているのを発見した。それは商店街内部の見取り図であった。一階から三階まで、通路の様子と当時この場所にあった店舗の位置が示されている。

 これを見る限り、やはりここは非常に大規模な商店街のようだった。

 かつてたくさんの人々でにぎわっていたに違いない。ポスターはこの案内図を写真に収め、それを確認しながら探索を続けることにした。


 二十分ほど歩いた頃、ポスターは案内図を写した写真を眺めながら首を傾げた。第四管理室という名前は図のどこにも見当たらず、商店街の中を歩いてみてもそれらしき部屋は見つけられなかったためである。


「なにか変だな…」


 ポスターは案内図の写真と周囲の様子を見比べみた。彼には、この商店街が案内図に描かれている様子よりももっと広い空間で構成されているように感じられた。


 今、半分壊れかかった扉の前に立ち止まっている。それは店舗の入り口ではなく、通路の壁に取り付けられていた。しかし、その扉は案内図上には書かれていない。


 扉を越えた先を覗いてみると、そこにはこれまでポスターが通った商店街の道よりも細い通路が続いていた。

 奥の通路はさらに薄暗く雑然としており、とてもたくさんの人間が通っていた場所のようには思えない。


「ああ、そうか…。あの案内図は、商店街を訪れた人間のためのものだ。だからこういう、従業員が使う扉だとか通路っていうのは書かれていないんだ」


 ポスターは少しの間思案した後、納得したように頷いた。この細い通路を辿った先にはきっと従業員用の部屋があるのではないか、とも彼は思った。

 「第四管理室」とはいかにも業務的な名前である。買い物客向けの案内図に記されていなくても納得がいく。


 瓦礫を踏み越えると、入り口に「第一管理室」と書かれた小さな部屋がポスターの前に姿を現した。


「第四…じゃあないか」


 残念そうにポスターは頭をかいた。

 ざっと部屋の中に視線を走らせる。元々この商店街で働く従業員の荷物置き場のようにも使われていたのか、そこかしこに物が散乱していた。


 彼は気を取り直して、部屋の中を調べ始めた。


「管理室ということは――」


 部屋の中を見渡すと左手の壁に沿ってロッカーが並んでいるのがわかる。一番端のロッカーが部屋の隅を覆うように傾いていた。

 ポスターは床に転がるパイプ椅子をどかしながらロッカーまでたどり着くと、一番端の傾いたものに手をかけて床の方へと引く。大きな音を立ててロッカーが倒れた。


「よーし…、やっぱりあると思った」


 ポスターは体に着いた埃を払いながら、今しがた発掘した、脚の折れ曲がった机とその上にある小型のデスクトップパソコンを見て満足げに頷いた。


「ま、点くわけはないけどさ…」


 パソコンの電源ボタンを無造作に押してみるも、何も反応は無い。そもそもモニターも大破していた。ポスターはパソコンから視線を落として机の周りを物色し始めた。


 彼は瓦礫の中に埋まっていたPCケースを見つけると、それを慎重に掘り起こした。机の下から引きずり出してからナイフを使って側面に取り付けられた蓋を外すと、ケース内部に格納されていた細かな部品が露出する。

 幸運なことに、ケース内部に目立った傷や浸水は無かった。これこそが、この部屋に入ってから彼が探していたものだった。


「普通の業務用PCだな…。これだったら…」


 ケースから記録盤を取り出したポスターは、手持ちの端末からケーブルを伸ばしてこれを記録盤に接続する。彼はケーブルを通して記録盤にアクセスし、中に保存されたデータのサルベージを始めた。


 端末のモニターが数度点滅すると、吸い出されたデータが次々と表示されていく。

 店舗の出納記録から出退勤表、卸業者への対応記録など様々なフォルダが端末に蓄積されていいった。ただ、そのほとんどが取るに足らないものばかりだった。ポスターは期待が外れたとばかりに顔をしかめる。


 引き続き記録盤から吸い出したデータを整理していると、フォルダ分けされずに裸のまま散らばっているドキュメントファイルがいくつか目に留まった。


 開いてみるとそれはこの場所にいた誰かの手記のようだった。業務内容が書かれた日誌ではなく、個人の日記のようにくだけた文章が打ち込まれている。


 ポスターはこれを一つのフォルダにまとめ、一番更新の日付が若いものに目を落とした。


 遠い過去にこの場所にいた何者かが書いた文章がモニターに表示される。



『ひどく大きな地震が起きた。

 一番大きな揺れから十時間ほど経ったけど、まだ余震のような小さな揺れが断続的に続いている。

 壁や天井がぼろぼろなのは前からだけど、今となってはそれが老朽化によるものなのか地震によるものなのか判別はつかない(…いや、その二つは全然別物だから区別くらいはつきそうなものだけど。きっとコンクリート壁の崩れ方だって違う)。

 …僕が何を伝えたいかって言うと、それぐらい大きな地震が起きて、この商店街のほとんどが崩れてしまったということ。

 僕が冗談を言っても隣でツッコミを入れてくれる人なんていないし、崩落で入り口が塞がってしまったせいで、僕はコンビを組んでくれる誰かを見つけに行くこともできない状態に陥っている。(わかりやすく書くと、僕はこの場所に閉じ込められているってこと――これ、僕しか読まないような文章だから注釈なんて必要ないかもしれないけど、誰かに語りかけているような“テイ”でいないとパニックになりそうだ。まさか僕一人がこんなだだっぴろい商店街に閉じ込められているなんて信じたくはない。――たとえここが改装工事の準備で閉鎖している商店街で、たとえ今日が日曜日で業者もいなくて、たとえ建物のオーナーである僕しかこの場所にいないはずだとしても…)』


 そこから先に書かれていたのは、再起動が起きた瞬間のこの商店街の様子であった。この文章を書いている男(ポスターは文章の内容からそう判断した)は建物の被害状況を比較的細やかに記していた。ポスターは文章からわかる内容を案内図の写しにメモしていく。

 さらに文章を読み進めていくと、商店街に閉じ込められてから数日間の間、男はこの管理室の中にあった非常食を頼りに第一層の範囲で過ごしていたらしいということがわかる。

 当時は余震が頻繁に発生し、いつどこで崩落が起きるかわからず、ごく限られた範囲を探索するに留めていたようだ。


『第四日。

 もうとっくに平日のはずだけど、救助の気配は“まだ”ない。少し気を抜くとひどい不安感に襲われる。誰か様子を見に来てもいいんじゃないか、とも思う。

 食糧についてはまだ余裕がある。でも飲み物の方は心もとなくなってきた。(ひどくのどが渇く…それにビタミン不足だって心配。)

 第一層はあらかた掘りつくしてしまった。あまり食糧になりそうなものが見つからなかったのは残念だったけど、辺りを調べてみて良かったこともある。僕が思っていたよりも、この場所は安定した状態を保っているってことだ。

 このところ揺れも無いし…、探索の範囲を広げるために動くなら今しかないだろう。(薄暗い管理室で一人ソファーの上で何時間も過ごすよりよっぽど健康的だとも思う。)

 地下の様子も気になるし、なんとか第四管理室まで行って、僕の方から外へ連絡を取ることにする』


 しばらく記録盤を漁ってみたが、これ以降の日付が入ったドキュメントは記録盤には残されていなかった。


 恐らく、この男はこれを書き上げた後この場所を離れて「第四管理室」に向かったのだろう。

 彼の足跡がこの商店街のどこかにまだ残っているかもしれない。遺構の調査としては、それを追っていくのが一番良いだろう。


 ポスターは方針を決めると、端末の電源を落とし、部屋を後にした。

 

 薄暗い通路を戻って再び広い商店街部分に出ると、彼は上層へ続く道を探し始めた。


いつも読んでいただきありがとうございます

次回は3月1日(水)の0時頃に更新予定です。


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