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DEVATECK.  作者: 脳内企画
Chapter1 サイバネティック・オーガニズム
12/79

Chapter1-7


 ほどなくしてポスターはイケブクロへとたどり着いた。

 グールの襲撃にも耐えられるように設計された巨大な鉄門を抜ければ、そこには活気に満ちたコロニーが広がっていた。

 このイケブクロという街は人間による開拓最前線の街のひとつで、タチカワとはまた違った意味でここもトレイズ中心にまわっている場所であった。辺りには途切れることなく鎚で金属を加工する音や簡易工場の稼働音が鳴り響いている。


 今回ポスターが引き受けた依頼は開拓作業や周辺のグール掃討任務に就くトレイズたちの補給品の輸送というもので、彼は物資を届けるために真っすぐにトレイダーズギルドを目指して歩いていった。


「昔を思い出すね」


 ポスターはイケブクロの街並みを眺めて、辺りに漂う香りを深く吸い込んだ。彼は街の景色を、幼少期に家族と過ごした開拓地と重ねた。


 街の中心地にあるトレイダーズギルドの扉を押し開ける。イケブクロのトレイズ達は皆依頼に出ているのか、ギルドの中はとても静かで、ドアベルの音だけが大きく響いた。

 

 ポスターに気づいたのは受付で腕を組んでいた老婆だった。老婆は座っていた車椅子をポスターの方に向ける。


「おや、アンタか。いらっしゃい」


 不機嫌そうな顔の老婆が言う。

 ポスターは右手を挙げてそれを挨拶とし、老婆のいる受付へ向かい、カウンターに荷を降ろした。


「タチカワに補給依頼を出していただろ。持ってきたよ、ポーラ」


 老婆の胸にはギルド長の証である金バッジがつけられている。彼女こそがイケブクロのトレイダーズギルドの長、ポーラ・ラサルであった。

 

「ご苦労。どれ、ちょっと待ってな」


 そう言うとポーラは眼鏡をかけて、受け取った荷を開いて中身を取り出し、カウンターの下から発注用紙の控えを取り出して荷の種類と数を照らし合わせていった。

 しばらく無言の時間が続いた後、ポーラは眼鏡を下げて満足げに頷いた。


「…薬も弾も数は揃ってるみたいだね」


 滞りなく依頼の清算は終わった。ポスターは報酬の一部を現金として手元に残し、後は自身の拠点であるタチカワギルドの口座に振り込むことにした。ポーラがイケブクロからタチカワに向けて電話をかける。依頼の達成連絡をし、ポスターの口座に報酬分の数字を足すように彼女は指示を出した。



 イケブクロは岩に囲まれた逃げ道の無い地域であり、ここで生き残るためにはグールに負けないだけの力を持つことが前提である。この街でそういった力を持つ者たちの多くはグールの討伐や素材の換金で生計を立てていた。


 輸送依頼もギルドに張り出されはするが、これはトレイズにはあまり人気のないカテゴリであった。グールや夜盗のいる地帯を常に移動する必要があり、任務の遂行には敵を追い返せる力、もしくは敵から逃げられるだけの力が必要だった。そういった力を持つ者たちの多くは輸送依頼を受けなくとも討伐依頼をこなして暮らしていける。ようするに、よほど良い報酬が提示されでもしない限り、割に合わないのであった。

 

 力のあるトレイズがグールを討伐して、余った輸送依頼はリンクへと流されるという構造が続いている。とはいえリンクの出動にも限界はあり、未受理が続く輸送依頼が増加してしまうこともあった。ポーラにとって、トレイズでありながら輸送任務を優先して受けるポスターのような者はありがたい存在だった。


「いつも助かってるよ、ポスター」


 器用に車椅子を転がしながらポーラは言った。彼女はカウンター奥のギルド職員室にある金庫からポスターが現金で受け取る分の報酬を取り出して、それをカウンターに置いた。


「そりゃどうも。もう少し報酬をあげてくれたっていいんだよ?」

「それについては申し訳ないと思ってるんだがね。アンタくらいにもなれば輸送依頼を出す側の帳簿くらい察しが付くだろう?支払いを良くするのが誠意なんだろうけどねえ、これでもギリギリさね」

「わかってるよ。…インフラがもう少しなんとかなればなあ」


 二人はそろってため息をついた。

 ポスターは話題を変えることにした。


「ポーラ。アラハバキからこの辺りに強盗団が出るって聞いたが」


 ポスターが強盗団についての話を振ると、カウンターに置いていたポーラの手を中心に、音を立ててカウンターにヒビが入った。


「人様のモノを盗るだなんて、不愉快な真似をするやつもいたもんだよねえ」


 カウンターのヒビに気付くとポーラは手を離し、自分を落ち着けるようにため息をついた。


「好き勝手生きていくには手っ取り早い手段なのかもしれないけど、ラクな生き方のようには思えないね」

「その時々に都合のいい選択をすれば一生の都合が良くなると思っている連中さ…。ポーラ、強盗団の構成を聞きたいんだ。何人組だとか、特徴だとかさ」


 ポスターが尋ねると、ポーラは腕を組んだ。


「正確な数はわからないが……大規模な集まりではないみたいだね。ただ、バイクとパワードスーツを所持しているって報告もある。小回りの利く面倒なタイプさね」


 ポスターの語る強盗団の特徴を聞いて、ポスターは一人頷く。

 自分が接触した一団と同一のものだろう、と彼は判断した。


「アンタ、心当たりでもあるのかい」


 その様子を見たポーラが尋ねる。


「心当たりもなにも…、多分、ここへ来る途中で会ったよ」

「なんだって?」


 ポーラが身を乗り出した。


「山道で襲われたんだ。三台のバイクと…岩鋳重工製のパワードスーツ一体に」

「やつらじゃないか!それでそいつら、どうしたのさ」

「襲ってきたから適当に無力化して放置してきた」


 ポスターの言葉にポーラは残念そうに天井を仰いだ。


「放置ってアンタ…」

「しょうがないだろ。荷をいっぱいまで背負ってるのに大人を引きずってなんて来れないよ…。一応パワードスーツの男は粘土で固めてビーコンを付けておいた。まだ同じ場所にいるかはわからないけど、データを渡すよ」


 ポスターは懐から自身の端末を取り出し、ケーブルを使ってポーラのものと有線接続させた。ビーコンの識別番号がギルドの端末へと登録された。


「スーツを固めたのはこの辺りだね。ビーコンの反応を探せば、強盗団が残ってるかも」


 ポスターがマップを指さしながら言う。

 ポーラは目を細めて彼が指さした部分を眺めた。


「思ったよりも近い場所だね。…その辺りを探すように言っておこう。ポスター、奴らに関して他には何かあるかい?」


 ポーラが尋ねる。

 ポスターは思案するように顎に手をやった。


「…そうだ、気になることがあった。連中、何か大きいところから補給を受けているような気がするよ」


 彼は強盗団に襲われた時のことを振り返り、それをポーラに伝えた。


「純正部品で構成されたパワードスーツか。確かに、それは気になるね。わかった、その辺りも調べとくよ。…後でアラハバキにでも聞いてみるかね」



 強盗団捜索の準備を始めようとしたポーラをポスターは引き留める。


「そうだ、何か依頼は無いか? ポーラ。タチカワへ戻るついでに何かやっていこうかと思うが」

「そうだねえ…」


 ポーラは眼鏡をかけ、端末のライブラリを開いた。

 眼鏡をかけて電信で届いた依頼内容を記録したページに目を走らしていく。


「今日は天気もいいし、だいたいの依頼はハケちまったねえ。残ってた輸送依頼も、さっきほとんどリンクに投げちまったんだよ」

「そうか…、まあ、輸送じゃなくてもいいよ。たまには違った仕事をやるのもいい」


「そうだね…。……ああ、ちょうどいいのがあった!」


 ポーラは端末のモニターをポスターが確認できるように向け、それをポスターは覗き込む。

 古ぼけたモニターは非常に見づらく、ポスターは目を細めて画面の文字を読み取った。


「…ナカノ遺構内部の調査依頼?」


ポスターが依頼の登録名を読み上げる。


「正確には『再』調査以来さね。何日か前にアオバ科学省から電信で送られてきたんだけど、誰も引き受けなくってね」

「そうなのか?遺構なんて、頼まれなくても潜っていくやつはいそうな気がするけどね」

「そんなのは遺構が手つかずの場合だけくらいだよ。ナカノは随分前に探索が済んで、めぼしいものはもう持ってかれちまってる。掘ってもガラクタしか出ない上にグールの巣になっているかもしれないんだ、好き好んで入っていくやつはまあ、いないね。適当に様子を見に行ってやっつけちゃってくれると助かるよ」


「ふうん…。ま、いいや。それ受けるよ」


 ナカノは遺構の中でも特に出土物が雑然としている地域である。

 目ぼしいものは掘り起こされ尽くしているとはいえ未だに再起動前の高度な日用品が手に入ることもあり、ポスターはというと、そういった消耗品の補充でたまに各地の遺構にもぐることがあった。補充ついでに依頼をしてしまおう、ポスターは特に深く考えず遺構調査依頼を受理した。


「カードをよこしな。……よし、登録完了したよ。アンタの端末にも控えといたから確認しておくれ」


 ポーラがキーボードを叩き、依頼の受注処理を済ませる。

 ポスターも端末のモニターを起動し、依頼の控えに目をやった。


 モニターに依頼名と概要、依頼者名が浮かび上がる。

 依頼者名に入っているのが機関名義ではなく個人名義であることに少し違和感を覚えたが、ポスターはそれを特に気にすることもなく、ひととおり目を通してそのまま端末を閉じた。


依頼者名の欄には「アオバ科学省 遺失理論研究部主任 セラフィーナ・ハッカー」と書かれていた。




次回は2月15日(水)の午前0時頃に更新予定です。

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