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コメント

橋本と池田が同級生であると知った伊藤は、二人の関係を調べる為に、ネットで情報を探す・・・

 伊藤は、慣れた手つきで、スマートフォンの画面を撫でる。


 市のホームページで校区を確認し、池田と橋本が通っていたと思われる中学校を特定する。

 次に、中学校名と、二人が住んでいた〇〇市をキーワードに、ここ数年間で発生した事件を検索する。


 手のひらサイズの画面にびっしり並ぶ文字を、サラサラ流しながら、自分が求めている情報を探した。


 市長選挙、まちおこし、生活保護受給者増加

 学力テスト、剣道部全国大会出場決定、体育館不審者侵入


 地域限定ではあるが、大小様々なニュースがあった。


 範囲を狭める為に、伊藤は「7月」をキーワードに加えた。

 すると、気になる見出しを見つけることができた。


『2014年7月 中学校教諭、変死体で発見

 〇〇市立〇〇中学校の数学教諭が・・・』


(池田と橋本の母校の教諭が変死体で発見?)


 記事内容は、事件性の低い事故として書かれていた。


 伊藤が注目したのが、記事の終わりに載っている、関連記事の見出しだった。


『2015年7月 高三女子、とびだし車両事故で即死』


(去年が高三ってことは、池田と橋本と同級生か)


 塾の帰り道、見通しの悪い道路での不幸な事故。


 ネットニュースも面白い点は、記事を読んだユーザーのコメントも併せて見られるところだ。

 多くは、飛び出した女子高生を非難し、加害者となった運転手を同情するものだった。


 伊藤はその中で興味深いコメントを見つけた。


《この女子高生の元担任も、去年死んでたなw

 こわ(;゜▽゜)

 ぐーぜん??』


 このコメントに対しての、他ユーザーからのコメントを更に読んでみる。


《このニュースですよね!

 (リンク先URL※ここでは省略します)

 ウチの友達、同じ中学らしくて、ビビってました(笑)》


 リンク先を見ると、先の教諭変死の記事ページに変わった。


《〇〇中、ヤバくねWWW

 これ死んだJKと教師のクラス、卒アルうpする。

 一人超キモい女子いるから、閲覧注意》


 その下は、繋がりのない内容になっていた。


《すみません(´д`|||)

 卒アルリンク先が、引っ掛かって、削除されちゃいました涙》


 伊藤は、指を止めた。

 新しい検索ページを開き、次のキーワードを入力した。


 〇〇市立〇〇中学校 卒業アルバム 変死


     ◇◆◇


 検索結果が出た。


 先程と同じニュースが始めに出てきて、前半はそれと同様のものであった。


 しかし、そこから先は違った。


『変死体で発見された数学教師の卒アル画像見つけた!』


『とびだしJKの中学時代www』


『画像あり 〇〇市変死体教師の教え子達・・・』


 非公式の掲示板や情報交流サイトの書き込みと思われる文章が並んでいる。

 伊藤は更新が新しいものを指でタップした。


 成人向けの卑猥な広告がズラリと並ぶ。

 伊藤はスクロールして、該当する掲示板まで辿り着いた。


 数学教師の顔写真を筆頭に、以下、同じページに載っていたのであろう、生徒達の正面写真が名前順で順番に掲載されている。


(名前まで載せてるの!? 最低・・・!)


 掲示板書き込みに参加している者達は、主に女子の容姿について、好き勝手コメントしていた。


 髪を染めていない、部活で日焼けした橋本桃の画像もあった。


《まぁまぁ、可愛い。この中ではまだマシ》

《頭弱そうw すぐヤらしてくれるタイプ》


 更にスクロールしていくと、今度は交通事故で亡くなった女子生徒の画像が出てきた。


《この子も死んでるwwww》


《まぢか?! ヤバイなこのクラス(笑)》


《お待たせした。大トリ》


《もう一人いるの?》


《はやくだせよ》


《つり乙》


《では、どーぞ》


     ◇◆◇


 一人の少女の正面写真が貼り付けられていた。


 ボサボサに伸ばした真っ黒な髪が、フレームいっぱいに広がり、制服の肩や襟元が見えない。

 前髪もかき上げることなく、顔の半分近くを覆っている。

 艶の無い黒髪の隙間から見える肌は、炎症したニキビで赤く埋め尽くされていた。

 口元は、力なく緩んで半開きである。その上唇の下から、黄ばんだ大きな前歯が見える。


 整っているとは言い難い少女の容貌を、不気味だと感じざるを得ない最大の理由は目だった。


 異様に目が大きい。

 特に黒目部分が大きいのだ。


 だが、そこには、他の生徒達のようなきらきらした輝きは無い。

 淀み濁った眼球から、まるで画像を見ている者を捉えて離さないような妙な力を、伊藤は感じた。


 その少女の名を、何度も何度も読み返す。

 顔写真の下の名前は「池田 透厘」だった。


《キモいwww》


《これはアウトだろ・・・》


《おえっ》


《こんなんクラスにいたら、息できねーわ》


 池田透厘の写真へのコメントで、この掲示板は終わっていた。


     ◇◆◇


 伊藤は頭を抱えた。


 あらゆる事象の一面だけを捉え、それが全てだと確定し、ごく当然のように非難する。

 伊藤はそのような思考を持つ人間ではなかった。


 池田透厘の顔写真を見たときの不気味さ、異様と感じた心情は否定しない。

 しかし、オープンに、非難と罵倒をすることつもりは全くない。


 顔写真の池田は当時中学生。


 己の力だけで、周囲環境も、内面も、外見もコントロールできない立場だ。


 彼女の保護者は、だらしないから口を閉じろと言わなかったのか。

 髪を切るためのお金を渡してあげられなかったのか。

 ニキビ用の塗り薬や洗顔料を買ってあげられなかったのか。

 歯医者に、一緒に行ってやれなかったのか。

 何か理由があって、池田は全てを拒否してしまってのか。


 伊藤は思った。

 もし中学生だった頃の自分なら、池田のような生徒がクラスにいたらどうするか。


 間違いなく、友達にはならない。

 何で同じクラスなんだと思うだろう。

 キモい彼女に近付かないよう、席替えのくじ引きを操作しただろう。


 或いは。

 彼女の存在にイライラし、それを共有できる友人が複数人クラスにいるとする。

 ならばきっと彼女がキモいと声に出し、笑うだろう。

 やがてそれは態度や行動にも表れてくるだろう。


 悪口も行動も、自分達は悪くないと堂々と言える。

 なぜなら、皆同じことを思っている。

 そう思わせている方が悪いのだと。


 ふと、伊藤は顔を上げた。


 自分は決して非凡な思考の持ち主ではない。

 同じことを、池田のクラスメイトも思っていたのではないだろうか?


     ◇◆◇


 伊藤は、次にこの掲示板やりとり全体に対するコメント一覧のページを開いた。


《よくまぁ、ここまで他人の顔を批判できるね。

 こいつら、どんだけイケメンなんだよ》


《最後の女の顔は本当ヤバかった・・・。

 あんなん、トラウマだわ》


《この池田って女、絶対友達いない。

 つーか、存在排除したくなる(笑)》


《このブス、マジでいぢめられてたよ。

 親戚に同じ学校だった奴いるから、ガチ話》


《〇〇中のこの学年て、生徒少なくて、2クラスしかなかったらしい。

 イケダキモリと同じクラスになる確率は毎年50%。

 とーぜん、3年間ずっと同じだった不幸な奴もいる》


《イケダキモリwwwww》


《池田透厘は、ブツブツボソボソ独り言言う奴で、たまに、いきなり甲高い声で叫んだりしてたらしい》


《ここだけの話w

 飛び出し事故で死んだJKは、当時キモリをいぢめてたってwww》


《何それ!? ヤバくね?》


《友達から聞いたことある。

 このJK、頭良くて、優等生タイプだったから、生徒は逆らえないって感じ。

 しかも、自分じゃなくて、他の奴に指示してやらせるタイプ。

 だから、ガッコーもスルー☆》


《担任は、めっちゃひいきするタイプだったらしいぞ。

 可愛い女子には、優しくて、ブスは相手にしない。

 マジで、一部の女子だけに、旅行のお土産とか渡してたらしい》


《キモリが生徒とか、終わっているよな・・・。

 担任にどーじょーwww》


《掲示板よりコメ欄の方が、超面白い、暴露ヤバいんだけど。

 これ、嘘だったら、ほんとお前ら全員死ね》


《キモリの親も3年前に死んでるってコメしても、信じてもらえるかな?

 はっぴょーします。

 キモリの親の通夜、行きました(^▽^)//》


《え、キモリの呪い? こわっ》


《いや、キモリは死んでないしょ》


《とりま、親戚に預けられて、〇〇市にはいない。

 by PTAやってた俺の母》


《もっと早く出て行けよw》


《転校したら、その学校がかわいそう(涙)》


     ◇◆◇


「・・・・」

 伊藤は黙ったまま、スマホの画面を机上に伏せた。


 学生時代に受講した講義、有識者の意見や著書、共に学んだ友人達、会社勤め。

 これらから得た知識や考えから、伊藤も伊藤なりの持論を持っていた。


 アウトプットされたものは全て、何かの真実や経験から生まれる。

 無から有は生まれない。


 アウトプットされたものとは、人間が表現し、この世に出したものだ。


 小説、絵画、音楽、彫刻、建築、陶芸など、芸術や工芸だけではない。

 ニュース記事、噂、妄想、嘘も、表現しようとする者の中に、それを生み出す原因がある。

 その原因は、真実や経験に基づいているのである。

 

 たとえ、表現した時点で、それが歪曲されていたとしても、アウトプットしたものを解析していくことで、そこに隠されたものを見出すことが可能なのだ。


 伊藤は目を閉じる。


 自分が見てきた手の平サイズの情報のほとんどは、妄言だ。

 信用に値しない。

 ただ、人を不快にさせるだけの、無価値な言葉の並び。


 しかし、極めて真実に近いものもあった。


 死んだ教師と女子高生が、橋本桃と池田透厘と同じクラスだった。

 あの写真をゼロから手作りなど、ほぼ不可能のはずだ。

 制服や写真の様子から、実際の卒業アルバムから掲載されているに間違いない。


 そして、妄言でない可能性が高いと思われるコメントもあった。


 妄言に乗っかるなら、関連コメントは、必ず後にくる。

 しかし、いくつかの長文コメントは、ほぼ同時だったり、文脈を無視したりしているものもあった。


 すなわち、同じ意見を持つものが複数おり、この掲示板に各自コメントしているのだ。


 そこから、伊藤は推測を立てる。


「・・・橋本桃は、池田いじめグループの一人だった?」


 伊藤はガタッと休憩室の椅子から立ち上がった。

「池田は、隣の部屋に橋本桃が引っ越したことを知っているのかも・・・?」 

※活動報告でお知らせしました通り、橋本桃の年齢設定を間違えておりました。彼女は2016年から専門学校に入学しています。関連するものは、ある程度訂正しました。なお、それにより池田の年齢も訂正いたしました。読み返す必要はございません。二人が同級生であることだけ、ご認識してくださいますようお願いいたします。ご迷惑おかけして申し訳ございません。

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