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準備1

 自分の地区へ戻ると、僕はまず小班長の家を周り、決定事項を伝え、さらに必要最小限のものを持ち急ぎ地区の中央道場に集まるように告げた。

 小班長たちの動きは素早く、それから間をおかずして全員が集まったことが知らされた。


 ここ中央道場は、かつて武芸の練習場として利用されていた場所であり、家四軒分くらいの広さがある。そのため、第一地区の全32名が集まっても余りある大きさであった。

 水害や火事などがあった際の緊急避難先となっているので、干物や畑でとれた野菜、米や水といった食糧や、調理器具、寝具などといったある程度必要なものはすべて揃っていた。


 前に立つと、4名の小班長を先頭にして綺麗にまとまったみんなが僕に注目したのが分かった。そこで僕は、今朝起きた事件のこと、また会合で決まったことをみんなに伝えた。


 不安と驚きにつつまれはしたものの、話を聞き終えたみんなは、小班長を中心にして、食料班、巡回班、通信班、遊撃班に分かれ、役割の確認を行い、今日の夕食・就寝に関する決め事をした後に各々作業に取り掛かっていった。


 4人以上の組み合わせで移動することを義務づけたため、お手洗いなどのちょっとした行動に無駄が出る部分もあったが、それは仕方のないことであった。


 「生きること」それが何より大切なのである。



 完全に日が沈んでしまう前に食事を終え寝具を引き終えると、小班長の一人である莉々が報告に来た。


 僕より2つ下の莉々は兄弟がいない。

 水連地区がまだ形として正式に出来上がる前は、そういう者たちは近くに住む者同士で組を作り、助け合うことがなされていた。莉々の家は僕の家の隣であったから、僕は莉々と力を合わせ、初期の辛い時間を乗り切ってきた。


 水連地区同盟が出来、組織制度が固まった今でこそ二人でというのは少なくなったが、今でも莉々は小班長として僕の手助けをしてくれている。


 「22人全員の寝る用意ができ、それぞれ床に入ったことを確認。女性は奥側で見張りにうちのハルちゃん、手前側の男性はコウ君が見張りについています。8人は見張りとして、外周の警戒に、という感じです。今のところ異常の報告はないみたいです」


 「ありがとう、莉々。4人いれば安全だとは思うけど、油断だけはしないように。あと、就寝の見張りは僕と白狐もいるから、何かあれば知らせてくれるよう伝えておいて」

 莉々は頷いたが、すぐに就寝場所に戻ろうとはしなかった。


 「どうした。何か聞きたいことが」

 問うと、少し迷っている感じではあったが、やがて頷くとゆっくり口を開いた。


 「今朝起こった事件について・・・少し」


 「なるほど。まあ、立っする話でもないし、そうだなあ、ここにでも座って」


 みなの就寝場所である道場の床より一段高くなった場所――男子の就寝している側に近い場所で、各地区から定期的に送られてくる連絡を確認していた僕は、広がった手紙を脇にどけ、隣に座れる場所を作った。

 一応ここは僕以外利用しておらず緊急時の避難用として十分な広さを確保してあったが、莉々が座りにくそうにしていたので、あえてそうしたのだった。


 僕の作った場所にゆっくりと腰を下ろすと、みんなが寝ている方向を見てつぶやいた。

 「なんか、こういう風にみんなで集まって寝るのって不思議だね」


 「たしかにそうだなあ。」

 大災厄が終わってすぐの時でさえ、混乱や不安で一人で心細いときは身近な家のもので集まるだけで、ここまで大所帯になることはなかった。


 「不安か」

 「ううん、なんていうのかな。よくわからないんだよね」

 莉々は両手を後ろにつき、上を見上げる。

 さっと長い黒髪が後ろに流れる。いつもは美緒の真似をして後ろで縛っているが、就寝も近いためか今はほどいていた。莉々の愛らしい顔がよく見える。ずっと一緒に過ごしてきたこともあるが、顔はかわいらしい部類に入るだろう。

 そんな莉々の顔が少し曇っている。

 

 「ねえ、狂信者って一体なんなんだろう」

 僕も一瞬答えを探すよう上を見上げた。

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