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会議3

 話終えると、英二が半信半疑な様子で尋ねてきた。

 「つまり、霊気の強い五門を使い、犯人を探し出すってわけですか」


 英二は年齢的には僕たち年長組の一つ下ではあった。背が同年代の男の子と比べて低く痩せており、一見頼りなさそうにも見えるが、観察眼に優れており、動植物に関する知識に秀でていた。

 第八地区はその大部分を穀倉地帯が占めていることもあり、彼が長として知識を活かしながらみんなを取りまとめているのであった。


 「利用法は主に二つを想定している。一つは、今英二が言ってくれたように『捜索』への利用だ。霊気を高めた霊獣を使い、捜査範囲を広げていくわけだ。しかし、問題点というか未検証の部分もある。その霊力がいつまで持続するのか、また範囲はどうなのかといったことだ。白狐の力はその辺りの調査に向いてないから十分なことが調べられなかった」


 「まだわからないことも多いってわけですか」

 この場での最年少である千夏が声を漏らす。

 胸元にかかるくらいの黒髪は先端がくせっ毛になっており、そこを指で弄るように回していた。不安な時にみせる彼女の癖である。


 「でも・・・やってみる価値はあると思う。もうこれ以上、じっとだけしているのは耐えられないから」

 玲の言葉には重みがあった。

 自分の地区から死亡者を出してしまったという責任もあるのだろう。


 「一つ懸念がある」公治が声をあげる。

 「というよりも、これは白狐様への質問になんだが、よろしいでしょうか」

 白狐が少し煩わしそうに公治を見る。


 公治は白狐を常に様付けで呼んでいる。これは白狐の特質である「人と会話できる」という点から来ている。

 人と会話のできる霊獣は滅多にいない。僕も調べた限り、かなり昔にいたされる雉の霊獣の一例しかしらない。その雉は様々な知識を人に授け、この山都国を築くきっかけになったという伝説を持っていた。


 僕は生まれてからずっと一緒にいるためか、敬意は一応あるものの畏怖の対象としてみることはない。しかし、公治やその他一部の人達にとって、人語を話す白狐は「伝説の霊獣」であり、相応の礼儀を以て接しなければならないと思っているようだった。

 たしかにここ10年、僕たちだけでは解決できないようなこともあり、白狐に助けてもらったことも多かったが、そのことで一層信仰心みたいなものを持ってしまっている面もあった。


 白狐は「本に書いてあったことを少し見ていただけで、知識はみなと変わらないよ」とか「私が霊獣だから出来たんだ」といって堅苦しい口調や様づけをやめてほしいと言うのであるが、それが謙遜に見えるのか、公治はやめようとしなかったため、最近ではもう諦めて受け流しているようであった。


 「いいよ」

 白狐は公治を見返す。


 「懸念というのは、その力というのが我らの霊獣を暴れさせ、または病に陥らせる結果になるのではないかということです。今のところ犯人への手がかりも少ないですし、打つ手はこれしかないのかもしれません。しかし、もしも、あの・・・・あの大災厄のようなことになるのであれば、と思うと・・・」

 公治の言葉が途切れる。


 『大災厄の悲劇を繰り返してはならない』


 それはぼくたちにとって、最も大切な教訓として刻み込まれているものである。

 公治が迷い、不安に思うのも無理はなかった。だから、その質問に対してはぼくが答えることにした。


 「公治の心配は僕も気になっていたところではあった。だから、書庫で出来うる限り調べてみた。そして、結論から言うと、五門の霊気に関しては問題ないだろうと思う」


 「何故だ」

 公治が問い返す。


 「理由は、力を受けた白狐が今も問題ないということ。白狐自身も力が増した程度で変調は特にないと言っている。また、書物で調べた限り、五門の周辺にいた霊獣が問題を起こしたという記録もない。あればもう少し問題になっているはずだ。最近においても、僕はあまり五門に近寄ることはなかったけど、五門付近に立ち寄った人はいるだろう。だが、それでも問題として出てきていない。ここから考えて、安心とは言い切れはしないものの、試してみる価値はあると思う。病に関しては原因が不明であることも含め、まだわからないことも多い。もしかしたら、明日、白狐が病に陥る可能性だってある。たぶんみんな一度は考えたことがあると思う」


 みんなを見渡すと、一様に暗い表情を浮かべていた。

 だが、それを恐れてばかりいてはいけないということも十分に分かっている。


 「あの病は奴の侵略行為が元凶だろうと考えられているし、それ以外のことが分かっていないというのもあるので、ここではあえて除外しようと思う。というより、まず目の前の問題を解決することの方が大きいと思う。賛否はもちろんみんな――全地区のみんなに任せるけど、僕個人の意見としては、問題ないとしていいと思う。どうだろう」


 左に座っている公治を見る。


 「ある程度の危険は承知の上というわけだな。」

 公治の問いかけに僕は頷きで返す。


 「分かった。危険性も考慮されているのなら、俺に反対意見はない。遮って悪かった。続けてくれ。利用法の2つ目だったか」


 その答えを聞き、僕は公治がわざとこのような疑問を呈したことが分かった。誰もが少しは思っていた心配事を事前に解消させておく、それは確かに重要なことであった。


 「二つ目に関してだけど、実はこの方法は僕もまだ有効かどうか分からない。だからみんなの意見を聞きたいと思ってる。それは、五門を一定期間拠点にするという方法だ」


 みんなが一様に考えにふけるのが分かった。だが、間もなく銀がこちらを向き答える。

 「三人で駄目だったんだ。ならばもっと人数をってことか。確かに人数がいれば心強いし、霊気のおかげで力も強くなる。しかも、あそこは祭事のために利用してたでかい館があるはずだしな。なるほど、悪くないと思うぜ」


 「でも、それなら早く動かないと。各地区で五門に集合するってことでいいんだよね」

 美緒が立ち上がり、今にも駆け出そうとしていた。


 そんな美緒を見て、不謹慎ではあるが笑みがこぼれてしまう。みんなのためを思い素早く行動に移すのが美緒のいいところではあるが、話を最後まで聞いていかなかったりするのが玉に瑕だ。


 「焦らなくてもいい。というか、今から準備を整え、みんなで五門まで移動するとなると、夜になってしまう。夜の移動はやっぱり危険だから、今夜は各地区それぞれの集会所にみんな集まってもらい今の話をして、様々な担当を決めてもらいたい。そして、そこで一泊してもらい、明日の日の出と共に行動を開始っていうのはどうだろう」


 「それがいいわね。今朝のことで不安な人も多いだろうから、みんなで集まった方が不安も安らぐだろうし」

 さらに玲が続ける。

 「それで、五門への移動の地区の割り振りは今決めるの。出来れば、早めにこの話を持って帰ってやりたいのだけど。岬ちゃん達のこともあるし・・・」


 確かにその通りである。大災厄を経験したため、僕たちは多くの死を見、そしてその後の処置の仕方も学んできた。彼女たちの埋葬等も問題はなく進んでいるだろう。

 だが、あれから10年経っている。身近な人の死に心を痛める者もいるに違いない。しかも、ただの死ではないのである。第四地区の代表である玲が早くみんなのもとへ戻ってあげたいと思っていることがよく分かった。


 もっと早めに気づくべきだった。僕は反省する。


 「分かった。五門に関する割り振りは、あとで俺と鏡矢で決めておこう。以降、細かな質問等はその都度、霊獣に手紙を持たせて鏡矢のところへ届けてくれ。大きな変更や支障が出た場合は、霊獣の力を開放し、みなに分かるように知らせるということで、いいかな」


 みんなが一斉に頷き、この会合は解散となった。


 自分の地区が心配であるのはみな同じことであるため、いつならあるちょっとした立ち話もなく、集会所には僕と公治を残すのみとなった。そんな僕たちも五門に分かれる地区の振り分けをすばやく終わらせ、自分の地区へ駆け戻っていった。


会議終了です。

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