襲来
「敵襲ー」
月が上天から西に移動し、夜の闇が一番深まったころ。巡回班から敵襲の声とともに霊獣の甲高い声が響き渡り、辺りが一瞬まぶしい光に包まれた。
普通ならば深く眠りに入っている時間でもあり、仕掛けるならばここであろうという絶妙な機会であった。
祭殿の入り口付近で待機していた僕はすぐに飛び出し、状況を確認しようと巡回班を探す。
すると志郎が現れ、僕に告げた。
「敵影五名。階段方向からではなく、右の林を通って直進中。響声・光輪を使用したものの、一時的な足止めにすぎず、現在は金剛他3体で足止め中。しかし、それも時間の問題かと。」
後ろを振り向き、祭殿の方を見るとさっきまで寝ていた莉々たちが起きてきていて、命令を待っていた。
僕が頷くと、祭殿の中に入っていった。おそらく、みんなに事前の通り準備するよう呼びかけ、守りを固めるよう伝えてくれているであろう。
しばらくすると「第二陣、用意」という志郎の声が聞こえた。
霊獣での足止めも功を奏さず、突破されたことを伝えるものであった。
と、同時に「うおおお」という唸り声が聞こえ、3体の霊獣と共に五つの影が林から飛び出してきた。
霊獣はいずれも噛みついたり体当たりをしたりして、足止めしようとしていたが、それらはすべて体に届く前に跳ね返されてしまっていた。諦めず、抵抗し続けてはいるものの、それをものともしない勢いで、五人の敵襲はこちらに向かってきた。
霊獣たちが力を開放しているせいか、羽や体毛から光が放たれ、周囲が明るくなる。
僕は一歩前に進み出て構える。
そして、目の前の影に向け、思い切り「石」を投げつけるとともに声を上げた。
「今だ」
その声と共に祭殿から出て、後ろで待機していた者たちが次々に石を投げ始める。
物理攻撃は効かない。
しかし、あの場で確認したのはあくまで霊獣による攻撃のみである。ならば、投石などを用いる方法は有効ではないか。そう考えたのである。
そして、その予想は見事に的中する。
投げた石は霊獣を阻んでいた透明な壁を通過し、襲撃者の体にあたったのである。
だが、予想外な出来事もあった。
なんと暗闇から現れた集団は見事に武装していたのである。材質は不明であるが暗闇の中でも目立つ白々とした薄鎧をまとい、頭の部分は目だけ出ている黒色の被りものをしていた。それが投石行為を無効化していたのである。
先の接敵では、薄手の服を着ていただけであったので、完全に裏を突かれた形であった。集団的に動き対抗する様相を見せた僕たちに対して、狂信者側も準備を整えてきていたのである。
「子供たちだけだから」と油断してくれればいいものを。心の中でそう呪いつつ、僕たちは祭殿側に少し退いた。
ただ、度重なる投石のおかげで、彼らの足もすっかり止まっていた。
彼我の距離はおよそ五十歩。敵は完全武装、しかも霊獣に対抗する武装は持っているという状況ではあるものの、距離が離れておりこちらもある程度対抗準備を整えている。
奇襲は完全に失敗したといってもよかった。
「奇襲は失敗したみたいだけど、まだやるつもりなの」
僕はあえて挑発を試みる。
退いてくれれば良し、意地になって攻めてくれればなお良し。
彼らの前には急ごしらえだが、落とし穴が何か所を掘ってあるのだ。
一人でも引っかかり、捕まえることが出来れば、こちらとしては大金星である。利用価値はいくらでもあるのだ。
「どっちが押されてるか分からんみたいだな」
五人の中の一人がじりっと前に出てきた。
かかった!と嬉しくはなったが、表情は苦虫をかみつぶしたような顔に切り替える。ここでばれたら意味がない。
もう少し引き付けるのだ。
男は被りもので分からないもののその下を覗けばにやけていたであろう。ずいずいと前に進んでくる。有利を確信しているに違いない。
あと一歩踏み出せばというところまで来た。
「状況を見ろよ。奇襲は失敗。数はこちらが多い。どう考えてもこちら有利だろう」
さらなる挑発を加えつつも、顔は焦りの表情を浮かべ、わざとらしく見えないよう一歩下がる。
男がさらなる一歩を踏み出そうとしたところで、大声が響きわたった。




