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作戦

 『第一地区、第三地区、一の門に移動完了。異常なし』

 『第四地区全員三の門への移動を完了。異常なし』

 『四の門、第六、七地区移動完了。道中での異常はなし』

 『第五地区、第八地区と合流後、五の門への移動を開始。道中かなり離れた箇所に敵影を確認も戦闘はなし。はっきりとした数は不明。しかし人数は5人よりは少ないと思われる。夕刻前に無事到着』


 以上が各地区からの報告であった。


 報告よりも道中で戦闘があった僕たちへの質問の方が多く、詳細の報告に少し手間取ってしまった。


 集まった情報から考えるに狂信者はやはり少数と考えられた。

 事件が一人の時を狙ったものが多かったことからもこれは間違いないように思われる。五の門に向かう途中で見つけたという敵影が果たして僕たちを襲ったのと同一集団なのかは不明であるが、多く見積もっても十人くらいというところか。

 どこから来ているか分からないため、総数はさらに増える可能性はある。しかし、分からないことをこれ以上考えても無駄なので、いったん人数は保留にしておくことにした。


 「問題はやっぱりあの透明な壁だよなあ」


 考えに煮詰まり、つい独り言が出てしまう。ふと振り返ると、そばに志郎と莉々が立っていた。どちらもこちらの様子が気になって見に来たようであった。


 「どうしたんだ。弱音が漏れて聞こえたが」

 志郎が呆れ気味につぶやく。


 「まあ、あれを見せられたらね・・・。本当に何だったんだろう」

 莉々が僕の 前に座りながら、同じ疑問を口にする。


 他のみんなは祭殿の奥側で食事をとっており、この二人以外に独り言が聞こえていなかったことに安堵した。


 「まあ俺の金剛でさえ歯が立たなかったんだ。なにかしらの仕掛けがあるとみて間違いはないな」


 「本気を出しても無理だと思うか」

 あえて尋ねてみる。


 「おそらく無理だっただろう。感覚的にわかるんだよなあ。これ駄目なやつだって。なんていうんだっけ。柳に風だっけか」


 「おお、なんか知的だね」莉々が笑う。


 「風流な例えだが、ちょっと違うな。まあ言わんとすることは分かる。続けても徒労に終わりそうではあったもんな」


 「ただ」

 一瞬の間を置き、志郎が続ける。


 「光や音の効果はあった」


 「そう。僕もそこが突破口になりそうな気がしている」


 物理的な攻撃は無効。

 だが、光や音といったことに対しては効果があった。こちらを監視していたのだから、光や音まで遮断することができなかったのだろう。


 「もし、光と音までも断ち切ることができるという場合であっても、それはそれで隙がつけるのでありがたい話ではある」


 「もし、万能の壁であったら」

 意地悪な笑みを浮かべながら志郎がきく。


 「その時は・・・もうお手上げじゃないかなあ。むかつくけど、全力で逃げるしかないよ・・・」

 その先を続けようとして莉々が口をつぐむ。


 言わずとも分かる。『ここを捨ててでも』だろう。

 命ある限り、生き延びることを大切にすること。くり返し教わったことだ。


 だけど。


 「万能なんてことはないよ。それなら、やつらももう少し積極的に行動してきただろうからね。というわけで、今考えるべきは、あの見えない壁をどう突破して、狂信者たちをどう捕まえるかってことだ」

 僕は強引に話をもどす。


 「思ったんだが、あの透明な壁って昔祖父ちゃんから聞いた『獣繭』の状態に似てるんだよなあ。そういうことは考えられたりしないのか」

 ふと志郎がつぶやく。


 (じゅう)(けん)――主人である人を守るために、霊獣が使う最終手段とされるている。僕も書物でしか読んだことはないが、主人と一体化することであらゆる災厄から主人を守り、その間はいかなる方法であっても主人を傷つけることはできないらしい。


 「獣繭の状態のときは意識がなくなるらしいから、今回のものとは少し違うと思う。そもそもあの状態にはなろうと思ってなれるものではなく、霊獣が人の危機に対して本能的に起こすものらしいからね」

 僕は本で得た知識を説明する。


 「確かにあいつらから霊獣の気配を感じなかったもんなあ。もし持ってたら、金剛の攻撃をただ受けるなんてことしないだろうし。しかし、それもないとなるとなあ・・・捕まえる方法か・・・」

 そう言って志郎は黙り込む。僕同様、あまり良い考えは浮かばないようだ。


 「えっとさ、落とし穴とかはどうかな」


 提案しておきながら少し恥ずかしそうにする莉々。

 「いや、あのちょっと思いついただけだけど」きっと子供っぽいと思ったのだろう。


 しかし、僕はそうは思わなった。

 はっと顔を上げるといろいろな考えが浮かんできた。あまりに初歩的すぎて見落としてしまっていたのだ。


 「なるほど!試す価値はありそうだ。空を飛んでいたという報告もないし、十分使えそうではある。となると・・・」


 思考が一気に回転を始める。その豹変ぶりに莉々と志郎は驚いていたが、お互いの顔を見合わすと笑い合い、そっと僕のところを離れ夕食をとっているみんなの輪に入っていった。



 出来うる限りの対抗策を纏めると、その内容をしたため各地区へと飛ばした。そして、ここ二の門でも対策を進めていった。霊獣の力をもってすれば落とし穴を作ることは用意であり、他の準備も合わせすべての作業が月の上がりきるまでに整った。


 出来うることはすべてした。今夜を乗り切れば、明日からは捜索に本腰を入れることができるのだ。防衛だけでは意味がない。なんとかこちらからも仕掛けていきたい。


 気持ちだけが焦るなか、事態はやはり悪い方向に進んでいくのであった。


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