到着
二の門に近づくにつれ、警戒に出していた霊獣たちが何やら騒がしくなるのが分かり、街道からの階段を上り終えると、その興奮が最高潮に達したのが分かった。
あるものは吠え叫び、あるものは飛びまたは走りまわる。一種の狂乱状態にみえた。
「おい、白狐。大丈夫なんだよな」
不安になり、おそるおそる白狐に尋ねる。
白狐がすっとこちらに寄って来て、辺りを見渡す。
「よく見てみな。みんな顔が喜んでいる。悪い兆候ではないよ」
そう言われ見渡すと、確かにどちらかというと歓喜しているようにも見えた。
顔が分かりづらい虫の形態をした霊獣もいるため確認しづらいところではあるが、白狐が言うのであれば間違いないだろう。
胸をなでおろすとともに、動揺しているみんなにこのことを伝える。
長く付き合ってきただけあって各々自分の霊獣の扱いに慣れており、すぐに落ち着けると、小班長が班員をまとめ報告に来た。報告を聞き、全員の無事を確認すると、各自の持ち場つくよう指示し、自分も先ほどの報告をするため、二の門の祭殿へと入っていった。
祭殿は過去祭事で使われていた場所であり、こちらもかなり広い空間となっていた。靴を脱ぎ、板張りの床を見て回る。掃除されていなかったためほこりはたまっているものの、傷んでいる箇所はなさそうであった。掃除を済ませれば、生活空間として問題ないであろう。
奥にある扉を開け、中を確認すると、そこには座布団や長机、毛布などが揃っていた。座布団や長椅子は、祭事の際に利用されたものであり、毛布は酔っぱらった男たちが寝泊まりできるようにと置かれているもののようだ。
今はまだ夏ということもあるので、夜の寒さをそこまで気にする必要もないが、あるのとないのとでは大きく違う。寝具は後で運ぶ予定ではあったが、少しの間はこれで耐えてもらうしかない。
報告に来た莉々に掃除と毛布を日干しすることを伝えると、僕は長机を用意し、報告書をしたためた。
光輪・響声を使ったのだ。他の地区のみんなは不安を覚えているに違いない。また、門に入ったときの霊獣の狂乱ぶりについても説明を加えなければならなかった。
急ぎこれらを纏めると、通信班の全員を呼び、一斉に残る四門に放たせた。
夕刻、一通り二の門の周囲を見て回り状況を確認した後、警戒に当たっていた巡回班に声をかけた。
「霊獣の調子はどうだ。悪い変化があれば教えてほしい」
巡回に当たっていたものの一人が口笛を吹くと、空からゆっくりと旋回しながら鳥の霊獣が下りてきて肩にとまった。小型ではあるが頭の毛が少し立っており、田園でもよく見かけるヒバリのようにみえる。
「このように悪いところはありません。むしろいつもより元気なようです。今のところ何かを見つけたりはしていないようですが、何かあれば鳴き声で分かるので、その際はすぐに報告します。」
「そうか。よかった」
「このまま何もなければいいんですけどねえ」
僕もそう思うが、しかし、現実としてそこまで楽観的になれないのもまた事実であった。
「襲撃があるとしたら今夜か明日の夜だろう。つらいと思うが、頑張ってくれ」
そう言うと肩に乗ったヒバリの霊獣を撫でた。霊獣は嬉しそうにひと鳴きすると、また大空へ旅立っていった。
西の空が赤く染まっていく。気を引き締め直すと、各地区からの報告を受け取るため、祭殿へと向かった。




