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はじまり

『咲き誇る花で五感すべてを満たし、散り行く姿を見ては翌年の姿に思いをはせる。

 小さな翼だった小鳥が大きくなり、大翼を羽ばたかせ季節の移り変わりを告げる。

 吹き抜ける風が寒暖の変化を知らせ、それにつられて生活の彩りをかえていく。

 満ち欠けを繰り返す月は、夜空を変わらずに回り行く。


 人々が、多少の苦痛はあるものの、それだけでは覆いつくせないくらいの自由を謳歌する日々。

 それが続いていくこと。それを続けていくこと。

 自分が見てきたこと。そして、これから見ていくものを後世に伝えること。

 今あるものが尊く、そしてはかないものかを再認識してほしい』





「また、ここに居たのか」

 壁に並ぶ書物をぐるりと見渡しながら、すらりとした長身の眼鏡男が近づいてくる。

「本だけ読んでいると、世間を知らない愚か者になるって言っていたぞ」

 そういってその眼鏡の男――公治(こうじ)――は僕の読んでいた本をすっと取り上げる。


「愚者は自分が愚者であることを知らないからな。そういう言葉が出るのも不思議じゃないね」

 僕は立ち上がりながら本を取り戻すと、近くにあった椅子に座り、前方に座るよう促す。


「本は世間では学べない様々なことを知識として教えてくれるし、心情を豊かにもしてくれる。腐った世間を見て学ぶよりは何倍も有意義な気がするんだけどね」


「世間を見ることで自らが腐ることはない。もし、腐ってしまうなら、そいつは本を読んでいてもいなくても、世間と同じ色に染まってしまうと思うけどな」

 よくわからない反論をしながら、公治が僕の前に座る。


「で、何か用か」

 そういうと、公治が目の色が真剣味を帯びたものに変わる。

 嫌な予感が僕の中に広がっていった。


「第四区でまた例の事件が起こった。しかも、今回は死者が出ている」


「えっ」

 僕は驚いて、椅子から立ち上がった。


「まだ詳しくは分かっていないが、事件が発生したのは深夜。死者は3名ということらしい。分からないことはまだ多いが、おそらくやったのは・・・」


「狂信者・・・か」

 僕がつげると、公治は重々しく頷く。

 様々な怒りが腹の底からこみあげてくるのが分かった。


「連中にあざ笑われているようで忌々しいな。」

 対策を練ったのにも関わらず、新たな事件が発生してしまった。しかも今度は人が殺されているという。


 なぜこんなことになった。防衛策だけでは駄目だったか。あの時すぐに動くべきだったのか。しかし、それは無理だった。だけど・・・。


 そんな混じり合った感情を今はぐっと理性で押し込める。自分の力不足であったことは間違いないのだ。

 白髪の頭を抱え込むようにして座り込む。


 それもこれもすべてはあのことのせいだと、過去に怒りをぶつけたくなる。

 すべての元凶である、あの事件に・・・。


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