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有識者

作者: 道永純生
掲載日:2015/09/05

 戦後、ハゼは不自由だった。不自由ではあったが、エビと巣穴をシェアしていたので安全でもあった。たえずタコやイカの謗言にさらされ、ちょっかいを出されていたが、涙目でエビを仰ぎ見ると、鉄砲を持ってきて相手を威嚇してくれた。

 そんなある日、シンちゃんというハゼの代表が、「自分たちのことは自分たちで守るべきだ」と皆の前で言った。むろん正論ではあるのだが、ハゼたちは本能的に警戒した。するとシンちゃんは「わたしはソーリーだ」と胸を張った。ハゼといえども多少はエビの言葉を解するので、どうしてソーリーと謝っているのに偉そうなのか、とても不思議に思った。そもそも、エビと約束して、「誰とも絶対喧嘩をしない」と、昔の代表が、「ハゼの掟」に盛り込んでいたのだ。その代わり、イジメられたときにはエビがいつでも守ってくれるという取り決めだった。

 ところがシンちゃんはこともなげに言った。「それは昔のことだ。そして、わたしを信じてほしい。わたしはタコのように爆買いもしないし、イカのように誘拐もしない。こんなわたしを怪しむなんて、まったくもってどうかしている。それにエビもちょっと疲れ気味だと思わないかい? 少しは負担を軽くしてあげよう」

 そういわれてみると、たしかにそのとおりである。決心しかねて迷っている間に、シンちゃんは「売られた喧嘩は買う。エビ相手の喧嘩にも加勢する」と「ハゼの掟」を書き換えてしまった。書き換えたことで、鉄砲をエビから買うことになった。けっこうな値段だった。ハゼたちは借金まみれだったので、そんなに買えるものではない。ハゼたちがそういうのを聞いて、シンちゃんは笑って言った。「なぁに、自分で作れるようになるまでの辛抱だ」

 数匹のハゼが、「シンちゃんはタコやイカと喧嘩がしたいだけなんじゃないか?」と疑いを口にした。それがシンちゃんの耳に入ると、彼は声を荒げ、「わたしは常に正しい。わたしはなんといってもソーリーなのだ。それよりも、君らこそ、ほかの生き物から金をもらったスパイではないのか?」と応じた。

 この応酬は少々難しかったので、多くのハゼたちは固唾をのんで議論の行方を見守った。スパイの容疑をかけられたハゼたちは、どうにも自分たちの無実を証明できず、次第に仲間はずれにされてしまった。

 そのようになると、「シンちゃんが胸を張ってソーリーと謝るのだから、彼の考えを受け入れてみよう。もしも按配が悪ければ、新しい代表に変えればよいのだ」という、有識者の意見が多数派となった。訳知り顔の瓦版屋も有識者の意見を後押しした。

 そのあとのことはもう誰もが知ってのとおりである。

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