田湊さんとショウくん
「スティルオフ」
僕は小さい声でつぶやいた。
「コノト!」
時間が動き始めて、真っ先に僕の名前を叫んだのはユイカだった。
「田湊……」
「きゃほ。なにしに来たの?」
アカハだけはいつもの調子。
いやでも、表情がいつもより固い。
「みんな、久しぶりだね。おいおいショウ、そんな睨むなって」
田湊さんは久しぶりに会う僕たちに笑顔を向けた。
でも僕らは、特にショウは笑顔なんて欠片もない。
こわばった顔、鋭くむけられる眼差し。
そしてその視線はただ一点、僕の額に向けられていた。
「コノトから銃を離して!」
「止せ、ユイカ!」
「オブジェクトムーヴ」
ヒロキが唐突に言い放った。
田湊さんの手から拳銃がすり抜け、ヒロキのもとへ移動する。
「ありがと、ヒロキ」
「無事でよかった」
あいかわらずクールだな……。
「そうかそうか。物体操作とかできるんだったね。君たちそろったら無敵だ」
「田湊、だっけ? なにしにきやがった」
シュウヤは怒りの視線を田湊さんに向ける。
「おっと。僕も嫌われたもんだ。なにしに……。そうだな。検査、いや観察ってところかな。特にショウ、君のね」
そう言われたショウくんは、右手の人差指を田湊さんに向けた。
まさかショウくん、能力を使う気じゃ……。
「ファントムオン!」
そう叫んだ彼は、普段と違って冷静さを失っていた。
明らかに焦っている。
幻の形も不確かで、さっき見せてもらったものとはまるで違っていた。
「やめるんだ、ショウくん!」
「きゃほ。離れといたほうがいいよ、コノトくん。言ったでしょ。暴走したショウくんは止められないって」
「でも!」
有無言わさずアカハは僕に諭す。
「まずコノトくんは時間を止めて。そのあとアカハがショウくんの記憶を消すから。田湊は彼の中でいなかったことにするから」
アカハの言葉から、焦りが感じられた。
やるしか、ない。
「ユイカ! 場所を何もないところへ移動してくれ。ミサ、タクミ! 二人の脳内を書き換え。争わずに済むようにしてくれ」
みんなは一斉にうなずいた。
「プレイスムーヴ」
「シンキングオぺレーション」
「フィーリングオぺレーション」
「メモリーデリート」
ユイカ、タクミ、ミサ、アカハの順に能力を発動する。
辺り一面を若々しい草が覆う草原。
操られたように憎しみを止めるショウくん。
なにが起きたかわからずに立ちすくむ田湊さん。
争いは一瞬にしておさまった、ように思えた。