幻影
『サウンドオン』
全員が理科室に入ると、クルミが音を元に戻した。
「やあ。俺がショウだ。よろしく。アカハは久しぶりだな」
ショウくんは教卓に座って、僕たちを出迎えてくれた
さらさらとした赤髪、鋭くも優しいまなざし。
こんな人が、同級生にいたのか。
彼はあまりに大人びていて、上級生にまで見えてきた。
「きゃほ。ショウくん、最近は自分の力保ってる?」
「大丈夫だ、アカハ。ここんとこは問題起きてねえし。まあ、おまえが記憶消してんのもあるけどさ」
「きゃほ。あはははは~。確かにね~」
アカハとショウくんは仲がいいみたいだ。
アカハの雰囲気がさっきよりさらに柔らかくなった気がする。
「ショウくんの能力、見せてほしいな」
「私も見てみたい」
僕が声を漏らすと、ミツナが僕の隣で目を輝かせた。
「気を付けたほうがいいぞ。俺の力は、ちょっと刺激的だからな」
「刺激的って、そうゆう系?」
「おまえの想像とはちょっと違うと思うぜ、ミサ、だっけ?」
名前、知ってるのか? ミサも目を丸くして、立ちすくんでいる。
「僕らの名前知ってるんだ」
「ああ。コノトたちは覚えてないだろうけど、俺は覚えてるからな」
そうか。同級生だったりするんだよな。
「それより、刺激的って?」
「俺の力は強すぎるんだ。暴走したら止めらんないかな。おまえの思考操作でもな」
そんなに強力なのか……。
アカハ以外は少し顔をひきつらせた。
「じゃあ。試してみようぜ。ファントムオン」
僕らの前に現れたのは、僕らにそっくりな幻影。
「あれ、私たち?」
「ドッペルゲンガーかよ」
「ドッペルゲンガーなんかじゃねえぜ。ちゃんと喋るしな」
「喋った!」
タクミは幻の自分とさっそく会話してる。
かなりビビってるけど……。
「驚いた? 僕は君だよ」
幻の僕は、僕と同じように話した。
声の質、呼吸の仕方や話し方の癖まで、僕にそっくりだ。
「ファントムオフ」
ショウくんの一声で、幻の僕は消え去った。
「きゃほ。よかったよ。ちゃんとコントロールできてるみたいで」
「もうできるさ。俺もそんなに子供じゃねえし。それより、どうだった? 俺の幻影」
自信ありげにショウくんは聞いてきた。
「すごかったよ。まるで本物みたいだった」
「だろ?」
自意識過剰、という言葉が出てこないくらいに、彼の力はすごかった。
「暴走したらどうなるの?」
「ユイカ!」
「構わねえよ。暴走したら、幻が本物になっちまう。さっきつくった君らの幻も、俺が暴走したらこの世に存在するようになるんだ。昔一度だけ、俺の力は暴走した。俺が作り出した銃の幻は本物になって、それで俺の母さんは死んだ」
「危険な能力なんだな」
「そのとおりだ、シュウヤ。君たちの力は、人に害を与えることはない。俺だけだ、暴走なんてすんのは」
悲しそうなショウくんの声に、僕の胸は締め付けられた。