危険な男
「次は五時間目に時間止めるから」
「はーい」
「了解」
「オッケー」
「んじゃ、そうゆうことで」
僕たちは解散して、各々の教室に戻る。
僕が向かう先は、さっき時間を止めた男子トイレだけど。
「スティルオフ」
青白い光に目をつむると、また騒がしい授業が始まった。
あー、うるさい。
無駄にテンションの高いあの化学教師は嫌いだ。
確か今はタクミのクラスで授業してるはず。
寒いギャグに冷たい目をするあいつの顔が目に浮かぶ……。
「戻るか」
個室から出て、誰もいない廊下を歩く。
開いている窓から僕に視線を送っていたミツナに視線を返して、教室の後ろのドアから中に入った。
あと5分。早く終わんないかな。
やっと終わった……。
5分って、意外と長いんだよな。
「コノト、大丈夫?」
「クルミ。大丈夫だよ。つか、お前寝すぎだし」
「てへへ」
照れ笑いするクルミをよそに、僕はげっそりする。
「時間止めて寝たら?」
「それ、絶対ユイカに怒られる。てゆうか、無理矢理起こされる」
「朝は遊んでるくせに」
「朝は特別なんだよ」
特別って、とクルミが苦笑いしてることに、僕は気づいていないふりをしておいた。
「コノトさー……」
「きゃー!!」
「なんだ!?」
廊下から悲鳴が聞こえた。決して黄色くはない。
廊下をのぞくと、刃物を持った男が暴れまわっていた。
周りの生徒は、男から距離をとっている。
「は、離してよ!」
「ユイカだ」
クルミが声を上げる。
ユイカが人質に取られ、捕まってしまっていた。
「コノト! 止めて!」
僕は何も答えない。
「早く止めて! コノト! ユイカが、みんなが危ないんだよ!」
「ダメだ。人前で使うわけには……」
トイレへの道は、男がいて通れない。
能力をバラすわけにはいかないんだよ。
「人の命がかかってる時に、ルールなんて気にしちゃだめ!」
もう、どうなっても知らねえぞ。
クルミの目を強くにらんで、僕は針を止めた。
「スティルオン」
青白い光がいつも通り僕を包んだ。
教室にいたみんなは、目を見開いたまま固まっている。
「コノト!」
「ユイカ!」
僕は廊下の真ん中で、ユイカを抱きしめた。