カッパとなつ
カッパはじりじりと肌を焼く季節が好きではありません。食べ物の中で一番大好きなきゅうりをばりばり食べながら、むすっと顔をしかめました。
暑くて熱くて、水が足りなくなりそうで溜息を吐きました。カッパにとって、頭の上にあるお皿がからからに乾いてしまったら、大変なことになってしまいます。
「カッパさん」
ひょこっと草むらから出てきた少女はカッパの友達です。夏の空みたいな青い髪と目をしています。
「よお、なつ。お前は元気だよなあ」
ぐったりと疲れているカッパは、元気いっぱいのなつを見つめました。
「カッパさんは夏が嫌い?」
ぽつりと小さな声でなつは質問します。自分が大好きな季節を友達が苦手なことは知っていました。
それでも、嫌いだと言われたらとても悲しくなります。どんな答えが返ってくるのか考えるだけで、なつの心は雨が降るみたいに寂しくなりました。
「ん? なつは嫌いじゃねえよ。おれっちは夏の暑さがだめなんだ」
しょんぼりと肩を落とすとなつは悲しそう眉を下げた。
「悪いな。友達でも好き嫌いは別だ。夏はおれっちの敵なんだ」
「…………」
動かしかけた口を閉じて、なつはこくりとうなずきました。
夏の季節にふらりと遊びにやってくる彼女にカッパはもう一度「ごめんな」と謝ってきゅうりを食べます。
「なあ、なつ。お前もしかして夏の子供か?」
びくりと肩を震わせて、少女は首を必死にふるふると振りました。質問に答えたら、友達ではなくなってしまう気がしたのです。
「おれっちとなつは友達だ。いいか、おれっちは夏が苦手だけどなつは嫌いじゃない」
きょとんと首を傾げるなつにカッパは胸を張りました。
「この綺麗な水を守ってるのはおれっちだ。とっちゃんに頼まれたのはおれっちなんだ」
手を広げてカッパは「まだちょっとの範囲だけどさ」と笑います。
「おれっちはしょーらいすごいカッパになるんだ。そんなおれっちが苦手な夏の子供だってくらいで、友達やめるわけないだろ」
好きなものと嫌いなもの。苦手なものが違っても、友達という関係は変わらないのです。
「そっか」
「おう! まあ、夏の暑さはだめだし、敵だし、苦手だけど――」
落ち込むなつの頭をぺしりと叩いてカッパは言葉を続けました。
「夏は嫌いじゃなくなった。友達のなつと遊べるからな」
顔を輝かせたなつに「水遊びするか」とカッパは笑います。なつは「今日は負けないもの」と頬をぷくりと膨らませました。
ミンミンと蝉の声がうるさいほど響く中で、涼しく美しい水の中へと二人は仲良くばしゃりと潜ります。
とっても綺麗なその場所は、カッパが守る小さな湖です。そこには、暑さに弱いカッパと夏が大好きな子供が遊ぶ場所。
冷たい水の中で、仲良しのふたりは魚を追いかけたり、どっちが早いか勝負をしたり、たくさん遊びます。
暑さなんて忘れてしまう湖の底で、弾けるような笑い声が響きます。ふわふわ浮かぶ泡は、まるで会話しているように楽しげに水の中に浮かんでいました。




