決別のための手紙
『パーラスへ。
ごめんなさい。
突然、こんな事を言ってもパーラスにはなにも分からないと思うけど、パーラスやソアラさんが襲われたのは僕のせいなんです。
あの時、初めてパーラスとあったとき、パーラスは僕の名前を聞かなかったけど、僕の本当の名前はソロ・レイム・ハバードなんです。
もしかしたら、パーラスは知らないかもしれないけど、このクレクリンの街の領主の息子です。』
ランプの灯が揺れる。
ソロは、静かに寝息を立てているパーラスの横で、パーラスへの手紙を書いていた。
パーラスの傷は腕のいい気創師のおかげでもうほとんど治りかけていた。
それでも、あと少し遅ければ、生命が無くなっていたというのだから、とっさにソロが宮殿にパーラスを運んだのは間違いではなかった。
ソロは、まるで何事もなかったかのように呑気に寝息を立てるパーラスの顔を見ながら、手紙の続きを考えていた。
伝えたいこと、そして伝えなければならないこと、その多すぎることを、ソロは一つ一つ自分の中で整理していった。
『実は今、僕の縁談が進んでいます。
相手はソラ聖王家の皇女です。
そして、その婚姻に反対しているのが自由の剣という人たちで、ソアラさんやパーラスを傷つけたのもその自由の剣という人たちです。
いえ、きっと彼らは僕のことを狙ったんだと思います。
だから、パーラスやソアラさんはその巻き添えになったのです。』
ここまで書いてソロの手が止まった。
―僕自身は、どうなんだろう?
貴族の子ではない本当の自分の気持ち。
ソロはしばらく揺れるランプの炎を見つめて、再び手紙を書き続けた。
そのペンの調子は今までのそれとは違って、楽しくステップを踏んでいるようでもあった。
『パーラスありがとう。
実はね、今までパーラスみたいに話しができる友達っていなかったんだ。
ソロ・レイム・ハバード、貴族の子というだけでみんな気を使って、オベンチャラつかってね。
だから、パーラスにパリアって名前をつけて貰った時は嬉しかった。
だって、ソロっていう名前じゃなくて、本当のボクと話しをしてくれる友達ができたんだから。
そう考えると、ソアラさんと会ったときもパリアでよかった。
もし、ソアラさんまでソロっていう名前と付き合っているだけだったら、そんなに悲しいことはないから。』
ここまで書いて、ソロの手が止まった。
「でも、それって逃げてるだけだよね。」
返事をすることのないパーラスにソロは話しかけた。
その言葉は一番パーラスに聞いて欲しい言葉だった。
「だって、逃げ出したいときにはパリアの名前を使って、自分の力じゃどうしようもなくなれば、ソロに戻って貴族の力を使って…。
父様に言われて、初めて気がついた。
それは勝手だって。
貴族にしかできないこと、それは貴族がしなければいけないことをした見返りだってこと。
ソロの…、貴族ってことから逃げ出した僕が、この宮殿に戻ってきたこともやっぱり甘えなんだって。」
『パーラスありがとう。』
本当に伝えたいこと、一番聞いて欲しいことを手紙には何も書かないまま、ソロは手紙を書き終えた。
「もう、逃げ出さない。
だって、僕が貴族だったおかげで、パリアの命が救えたんだ。
初めて、自分が貴族に生まれてきてよかったって思えたんだ。
きっと、だからこの先も貴族としてやっていけると思う。
がんばってみるね。」
ソロは、ランプの灯を息を一吹きして消した。
真っ暗になった病室から出たソロの瞳から一筋涙が流れた。
ソロはその涙を拭って、宮殿のエントランスホールに戻ってきた。
「お待たせ。」
ソロは少し上ずった声で、医務室に続く廊下の入り口でソロのことを待っていたタクトスに言った。
「準備はもう整っておりますが、よろしいのですか?」
宮殿の前には豪華な貴馬車と10人ほどの護衛がソロの到着を待っていた。
行き先は王都ローディス、ローディス王に謁見して聖王女との婚姻の許可を貰うのが目的の旅路、それ終えればソロは完全に貴族になってしまう。
「今日はもう日も暮れて遅いですから、明日の朝に出立してはいかがでしょう。」
タクトスのその言葉の意味はそうではなかった。
タクトスもソロが貴族になるのを嫌がっているのを知っていたから。
せめて、もう一日だけでもそれを遅らせてやりたかった。
「いや、いい。
気持ちが変わらないうちに出る。」
ソロが乗り込んで貴馬車はゆっくり動き始めた。
パリアという名前で過ごした今日一日は、自分が自分らしく過ごすための神様がくれた最後のプレゼントなんじゃなかったのか。
軋む木の車輪の音を聞きながらソロはパリアにさよならを告げた。
ご一読ありがとうございました。
まだまだ話の途中になりますが、書き溜めた物が無くなったため、蒼の独奏は一旦ここでお仕舞いになります。
続編については、古いプロットが出てきたので、また少しずつ書いていこうかと考えていますが、再開が何時になるか分からないために、ここで一旦のお終いとさせていただきます。
ここまで読んで下さった皆様本当にありがとうございました。
続編につきましても出来るだけ早くに皆様のお目に触れられるように頑張りますので、応援のほどをよろしくお願いします。




