覚悟
パリアはそっと、唇に指を当てて、さっきのことを何度も思い返していた。
あの、小さくて柔らかい唇。
唇の触れたソアラの息吹。
思い返すたびにパリアの胸は高鳴って、足取りも軽くなっていく。
夢を見ているみたいだ。
生まれて初めての自分を自分としてみてくれる人に出会ったこと。
いつも劇場の客席から想いを寄せていたソアラと直接話が出来たこと。
華の街を抜けて、いくつかの角を曲がり、フラロアの店に着く直前、
軽く弾んでいたパリアの足が止まった。
フラロアの酒場の前には人垣が出来て、中からは泣き声と叫び声が聞こえてくる。
「どうしたんですか?」
人垣を掻き分けながら店の中に入ったパリアは、その目の前の光景が理解できなかった。
店じゅうのテーブルや椅子は乱暴に投げ飛ばされて、砕け散った皿やコップが散乱して、
店の客の大半は傷を負いうずくまっていた。
そして、その真ん中でパーラスは血の海に沈んでいた。
「なに…これ…?」
ただ呆然と立ち尽くしているパリアの脚にフラロアがしがみつく。
「鎧を着た男が、鎧を着た男が急に!!
剣を…パーラスが!!!」
パリアの脚にフラロアの爪が食い込む。
それでも、パリアにその痛みを感じる余裕は無かった。
「タスケナキャ…ハヤク…」
無意識に言葉が口から漏れ出した。
その自分の言葉で気を取り戻したパリアは、自分に言い聞かせるように大声で叫んだ。
「早く、パーラスを助けなきゃ。
奥に荷台があるから持って来て!!!早く!!!」
パリアの大声で我を失っていたフラロアも周りの野次馬も一斉に動き出した。
フラロアと周りの数人の男が店の裏から荷台を持ってくると、すばやく慎重にパーラスを荷台の上に乗せた。
パーラスの息は浅く短く、腹の傷口からはどす黒い血が流れ続けていた。
「早く医療院へ。」
男たちが荷台を囲んで勢いよくパーラスを医療院へ運ぼうと店を出て行く。
「待って!医療院まで行っていたら間に合わない!」
パリアが声をあげた。
男たちの足が止まる。
「わかってるわよ、そんなこと。だから急いでるんじゃない。」
パリアの言葉にフラロアが苛立ちをぶつける。
「宮殿に行こう。宮殿の中にも医療院はある。その方が近い。」
「無理よ。宮殿なんかに入れっこないわ!」
取り乱して言うフラロアを、パリアは何かを決心したように見つめていた。
「大丈夫。僕がいるから。」
ソロはそうかみしめる様に言った。




