想い
夜の街、街角の家々の窓からもれた灯りの上、月の光りに照らされたパリアとソアラの影が歩いていた。
昼間、あれほど賑やかだった街も、夜になると人通りも少なくなって、
誰もいなくなった石畳の道に二人の靴音が響くたび、パリアは拳を強く握り締めていた。
言わなくちゃ。
夕方のこと。
僕のせいでソアラさんが襲われたこと。
そして、本当の僕のことを。
靴音と一緒に湧いては消えていく勇気。
無口なまま、時間だけが過ぎて行くほど、二人の間の空気も重たくなっていく、そんな気がした。
それでも時間は過ぎて行く。
一言の言葉も交わさずに、歩みを止めずに、二人は劇場の横を横切り噴水の前を通り過ぎる。
「今日は…、ありがとうね。
そして、ごめんなさい。
さようなら。」
目も合わせずに宿舎まで送ってくれたパリアに、ソアラが精一杯の声を振り絞って言った。
パリアはハッとソアラの瞳を見つめた。
ちがう、そうじゃないのに。
「待って。」
ほんのわずかの沈黙の後、背中を見せて帰ろうとするソアラの腕を、パリアはとっさに強く握った。
ソアラの瞳が真っ直ぐにパリアの瞳を覗き込む。
パリアはそのソアラの瞳に一瞬ひるんで、ありったけの勇気を振り絞った。
「違う…、ソアラさんは悪くない。」
「僕が、僕が狙われたんだ。
僕は、ずっとソアラさんに嘘を言ってた。」
どうして、僕が命を狙われたのか。
僕は誰なのか。
それを話せば、多分もうソアラさんと会えなくなる。
目の前にあるソアラの顔が遠くに感じた。
心を鷲掴みにされたみたいに胸が苦しかった。
それでも、パリアはかすれた声をふりしぼって言った。
「僕の名前はパリアじゃない、本当の名前は…」
「知ってたよ。」
必死に懸命に言葉をつづるパリアの声を、ソアラは優しく遮った。
「だって、ラロード劇場は、パリア君のような普通の子供が来れる場所じゃないもの。」
ソアラは、最後の勇気を振り絞ってカラッポになったパリアに近づいて、そっと優しく首筋に腕を回した。
「でも、君が誰でも関係ないの。
今日のことは、本当に私のせい。
でも、君は私を助けてくれた。」
ソアラの腕に力がこもる。
柔らかいソアラの胸に押しつけられたパリアの頭の上に涙が落ちた。
「違…」
言いかけたパリアの唇にソアラの唇が重なった。
見上げれば、パリアを見つめるソアラの瞳にたまった涙に月の光りがキレイに映っていた。
「私にも秘密があるの。
決して誰にもいえない秘密。
だから、私は君に何も聞かない。
ただ、君が好き。」
ソアラの暖かな温もりがパリアを包み込んでいた。
ソアラとパリアは濡れた瞳のままで、もう一度唇を重ねた。




