異邦人を愛する者達の画策
ちなみに精霊視点
「マヒロ、二人の事は気にしなくていいからな」
「ん、ああ…」
「…どうした?」
「…いや、マモノとヒトの境って何処なんだろうな、って」
マヒロの言葉に、森の王の子は僅かに訝しげな顔をする。
「魔物は魔物だろう?」
「ヒトの姿を取れなければ、言葉を交わす事が出来てもマモノなのか?」
「魔物は人の言葉を話さない。人ではないのに人の言葉を話すのは悪魔だ」
「マモノとアクマは違うの?」
「悪魔は人類の敵対者だ」
森の王の子の言う事がピンとこないらしく、マヒロは不思議そうな顔をしている。まあ、当然だろう。マヒロは高い操魔スキルと言霊の影響で、本来なら通じない魔獣や我々とも言葉による意思疎通が出来ている。つまり、マヒロにとって、魔物も人の言葉を話すものなのだ。
『無駄だマヒロ。ヒトかどうかなどというのは、ヒトが勝手に言っているだけの区別だ。厳密な区分けなどされていない』
我がそう呼びかけると、マヒロは片眉をちょっと上げた後、肩を竦めてみせた。
「…まあ、ちょっと思っただけだから別にいいんだけど」
『どうも、此処のヒトたちはマヒロの価値をわかっていない』
『我らと言葉を交わせる者等、数千年ぶりではないか?』
『ここ千年程は我らを見る事も出来ない者ばかりだからな』
魔力や腕力、体格がよくなったからそれが何だというのだ。全ての生命は自然、この星に生かされているというのに。
『マヒロはボクらにもやさしい』
『ボクらのはなしもきいてくれるし』
『なでなでされるときもちいいのー』
小さき者たちが口々にぴよぴよと言い立てる。
『どうだ、此処は我らの力でマヒロがそんじょそこらの凡人とは違うという事をわからせてやるというのは』
『いぎなーし!』
『ほう、では具体的にはどうするつもりなのだ?』
我らの立てた作戦は極単純。普通のヒトは脅威を感じるが、マヒロは日常の延長線上と思っているものを学院でマヒロにけしかけてやるのだ。
より具体的に言うのなら、学院の北側の森に棲むドラゴンの内一匹をそそのかしてやろう、という事になった。
『そういうわけでケダモノ、我らに力を貸してもらうぞ』
【フン、精霊共ハ、相変ワラズ身勝手ナモノダ】
森の小竜はフン、と鼻を鳴らす。鼻息と共に噴き出した炎を避け、我は小竜の眉間に指を突き付ける。
『我らに従わんとでも?』
【マヒロ本人ニ頼マレレバ兎モ角、精霊共ニ従ウ理由ハ無イ】
【まあまあ、おんじ、こんのちびっこたちのようにゃあ、おらぁがあそびにいくから、はらたてんでけろ】
小竜より幼い子竜がそう言って己の薄い翼を広げる。
【おらぁも、そろそろまたマヒロのかおさ、みにいきてぇとおもってたところだけん、ちょうどよかとぅよ】
…このおとぼけドラゴンでいいのか多少不安ではあるが、まあいい事にして、我らは学院に向かう事にした。
『おーい、マヒロー』
『マヒロー』
【マヒロー】
皆で口々にマヒロの名を呼ぶ。…といっても、子竜はともかく、我らの声は大体のヒトには知覚できんのだがな。
「なっ…何故ドラゴンがこんな所に?!」
「誰か操魔科の先生呼んでこい!」
「今は大人しくしているようだが、油断はできん、不用意に近づくなよ」
ヒトどもが騒ぎ始める。そうやら、このこぼけドラゴンでも虎の毛皮程度には役に立つらしい。一応はドラゴンというだけはあるという事か。
『マヒロ、さっさと出てこい、でなければこやつを暴れさせるぞ』
「…何物騒な事を言ってるんだ、君は」
我の呼びかけに、呆れた顔をしたマヒロが溜息の様に返す。
【ひさしぶりやのうぅ、マヒロ。あいかわらずめんこいなぁ】
「どうしたんだ?レゥリア、こんな所まで出てきたりして。また何か面倒事でもあったのか?」
【いんやぁ、こんのちびっこたちが、マヒロんとこさあそびにいこうって、おんじをさそいにきたけん、おんじのかわりにおらぁがきただよ】
「…は?」
「お、おい、そこの二年生、何してるんだ!」
「何って…呼ばれたので様子見に来たんですが」
「は?」
「いや、何かレゥリアと精霊たちが僕の事呼んでるみたいだったんで何か用があるのかと思って」
揃いの衣ではない、"キョーシ"とか呼ばれているヒトの一人がマヒロの肩を掴む。
「…ウズカミ、能力測定受けてこい」
「え?でも定期測定は月末だから二週間後で…」
「いいから受けてこい。精密コースでな」
「えぇ…」
マヒロはとても嫌そうな顔をする。このヒトはマヒロに不快な事を強いようとしているのか?
『マヒロ、そのヒト、燃やすか?』
「燃やしちゃダメだからな」
即答された。解せぬ。
・マヒロ的には余計なお世話である
・マヒロは奨学金とバイトで学院に通っている。バイト先は学院に併設された研究所、最初は清掃バイトだったのが色々あって飼育員になっている
・子竜だの小竜だの言われてるがでかいし古竜と若竜である




