コーチの別れ
合宿が終わり、後に春の大会も終えた。
春の大会には他の高校と合同で出場したが、0ー29で、私達の高校は完敗だった。
女子サッカーは上手い下手のレベルの差が激しい。
3年生も引退し、2年生のマネージャーが部長をやることになった。
そして…。
「2年生の渡部夕美です。プレイヤーやります。よろしく。」
「2年生の時田悠です。マネやりまーす。よろしく。」
2年生の2人の先輩が転部してきた。
「ちょっと、悠ちゃん、チャラ~い。1年生、いい子たちなのに、悠ちゃんのせいでチャラくなったらどーすんの(笑)?」
と、言ったのは部長の玲衣先輩。
「みんな、マネしないでね♪」
テヘッとする悠先輩。
なるほど、チャラいのか。
「みんな、よろしくね。」
と、笑いながらまた言ったのは夕美先輩。
この人は、気さくな方かもしれない。
次の休日には、工藤さんも来て、さっそく慣れた、悠先輩と夕美先輩。悠先輩は工藤さんの知り合いだったみたいで、悠先輩は「あっちゃん」と呼んでいた。それにつられて、夕美先輩も工藤さんのことを「あっちゃん」と呼ぶようになった。
練習以外でも、私と工藤さんはアパートの部屋が隣なので、ちょくちょく会うこともあった。会っては、立ち話をするくらいに、私は工藤さんに慣れ始めていたのと同時に工藤さんに興味を持ち始めるようになった。
夏の大会には3年生のキーパーだった、夕姫先輩が参加してくれるそうだ。夏の大会も春の大会同様に、合同でやるそうだ。
夏休みに入ったが、サッカー部なんて夏が本番なワケで休みなど無く、ほとんど、練習で埋め尽くされた。
「あー…疲れた、暑い、疲れた、暑い、疲れた、暑い、疲れた、暑い…」
部活から帰ってきて、繰り返すこの言葉。
「ママ、暑いから飲み物買ってくる。」
母に言って、玄関へ出る。
すると…
「なんだ、何処かに行くのか?」
私に話しかけてきた、つなぎを着た若い男の人。彼だ。
「へっ!?あっ…工藤さん。今、帰ってきたんですか?お疲れ様です。」
いつもは普通に話せるのに、ちょっとドキドキした。
「あぁ。そうだ、来週大会だな。」
「えぇ。この間と同じところと戦うなんて…」
勝つのは無理に決まっている。
コーチの前で、そんなことは、口がさけても言えない。
そんな、私の表情を読み取ったのか、工藤さんが、
「ま、全力でやるまでだ。」
と、一言。
そうだよね。全力でやらなきゃね。だって、相手校はわざわざ私達の高校と戦ってくれるんだから、全力でやらなきゃ失礼だよね。
「ここ出発する日、6時半に駐車場な。」
また、工藤さんが言う。
「はい。分かりました。」
じゃ、またな。と言って、工藤さんはドアを開けて、行ってしまった。
私は、なんだかドキドキしたまんま、コンビニに行くのも忘れて私も、ドアを開けて、ただいまーと言った。
リビングに入ると母が、
「えっ?もう、帰ってきたの?」
そして、手ぶらな私を見て、
「買わなかったの?」
「うんっ…。」
それだけ言い残して自分の部屋に入り、ベッドに突っ伏する。
何で、あんなにドキドキするんだ?何で、緊張するんだ?何で…彼女いるのに、好きになってしまったんだ?
そうか…私は、彼が好きなんだ…。
あーあ…失恋確定じゃん。
昔から気付けばこの人が好きっ。っていうのはあったけど、毎回、私の片思いで終わった。私は、可愛いくないし、美人でもないし、モテないし。だから、片思いで終わった。今回の場合、彼女持ちだし。また、片思いで終わるか…。年齢が年齢だし、もう、結婚とかするのかも…。はあ…。
夏の大会はやはり、ぼろ負けだった。
大会の日の夜、合宿所のロビーにはテレビを見るためにみんなが集まっていた。その中には工藤さんもいる。
テレビを見ながら、夕姫先輩が聞いた。
「今日、週末ですけど?工藤さん、彼女さんに電話したんですか?」
私は、工藤さんを見た。
「あっ…あぁ。今日はちょっと…。先週はしたけど…。」
工藤さんはほんの一瞬だけ切なそうな顔をした。工藤さんを見ると工藤さんと目が合った。見られたと思ったらしく、空元気になった。
別れたんだ…。
みんなは工藤さんの顔を見なかったらしい。空元気なのをみて、元気だと思ったらしく、
「良いなぁ…。私も、そういう彼氏欲しい~」
など、呑気なことを言っていた。
工藤さんは苦笑いしながら、そうか?って適当に返事をしていた。
次の日、大会の運営を手伝って、私達は帰った。いつも通り、みんなを集合場所に送り、また2人っきりになった。
工藤さんが、不意に口を開いた。
「気付いたんでしょ。昨日の夜。」
「何の事ですか?」
何も見なかったフリをした。
「いいよ。気ぃ遣わなくて。あなたが思った通り、別れたんだよ。俺ら。」
「そうなんですか…。」
ゆっくり言った。傷口えぐるようなことしちゃったなと思いながら。
「うん。あいつがあっちで新しい男作ったんだよ。情けないよなぁ。その程度の男だったんだよ。俺は。」
「そんなことないですよ。工藤さんは好い人です。」
今は、それしか言えなかった。
「フォローしてくれてありがと(笑)」
それからは2人とも黙ってしまった。
アパートについて、お疲れ様でしたと言って、私は、ドアを開けて家に入った。
部屋に入って、ベッドに突っ伏する。
何か考え事があると、私は、よくベッドに突っ伏する。
何で?何で、浮気するの?あんなに、切なそうにしてる工藤さん始めて見た。最低!!せめて、別れを告げてから新しい男作りなさいよ。私だったら、絶対にそんなことしない。悲しい目になんて合わせない。
そんなことを考えながら、私は、いつしか眠りに落ちていた。