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関係性を壊したくはない君と私の物語

作者: 実瑠さくら
掲載日:2026/07/25

私と浅木拓海は、仲の良い友達だ。

 

 

いや、親友というのだろうか。

 

 

小学校からの付き合いで、お互い何もないまま、高校生となった。

 

 


「おーい! 双葉ー! 一緒に帰ろーぜー」

 

 


拓海は数メートル先の廊下から、大声を出す。

 

 

他の生徒の視線が、私や拓海の方に一斉に集中した。

 

 

そして、囁かれる数々の声。

 


 

『え、やっぱあの二人って付き合ってんの?』


 

『友達にしては距離近くね?』


 

『いいなー、放課後恋人と帰るのー』


 


ほら、また勘違いされた。


 

私は別にされても悪い気はしないけど。


 


「いいよー、私も拓海と帰りたかったし!」


 


両手を後ろで握り、口角を上げながら拓海に近づく。

 

 

こうしたら、少しは意識、してくれるかな?

 

 


「おう! じゃ、決定なー」


 


………何も意識されてない。

 


私は顔も結構いいし、知らんけど。


 

性格だって陰口とか言わないし?コミュ力も高めだし?


 

モテる、モテるはずなのに!


 

あの男への長年の片思いのせいで、彼氏ができない!


 


「なーんで、あんなやつ好きになったんだろ……」


 


出会いは確か、小学4年のクラスの時だ。


 

最初の印象は、私にちょっかいだしてくる“うざいやつ“。

 


虫を見せてきたり、私が他の人と話していると割り込んできたり、先生に私がトイレに行きたがっているのを、みんなの前でバラしたり。


 

そう、数々の悪行を働いていたのだ。

 


そんなことが続いたある日のことだった。

 


給食中に、隣の男子が自分の嫌いなものを私のお皿に入れてきたのだ。


 

謎に酸っぱい野菜炒め、少し白色の油っぽいソーセージ、漬物などを。


 

私だってもちろん抵抗はした。


 

そいつのお皿に、箸で戻したりと。


 

だが、いくら戻しても私の方へと入れてくる。


 

そんな時だった。


 

拓海がその不味い……いや、苦手なおかずを食べてくれたのだった。


 

当時の私には、神様のように思えた。

 


小学校のエピソードは他にもある。


 

例えば、クリスマスの日だけに出されたミニケーキ。


 

あれはクラスでの争奪戦の火種だ。



いち早く食べなさそうな人に声をかけてから、ケーキをもらうという恐ろしい事態が起きるのだ。


 

名付けるならば“特別デザート争奪戦”。


 

単純すぎるやん!というツッコミは無しにしていただきたい。


 

私ももちろん狙われた。



 

「双葉ちゃん! ケーキ、ちょうだい?」



 

クラスのボス的な女子がその時だけは話しかけてくるのだ。


 

獲物を狩るような目で。


 

渡さないと面倒だというのは誰にでもわかるはずだ。



 

「いいよー! 私、あんまりケーキ好きじゃないから」



 

本当は好きだよ?だって甘党だもん!


 

だが、何かしらの理由をつけた方がいいかなー、という謎の気遣いが出てしまうのだ。


 

あげてしまったものは仕方ない。


 

家でお菓子食べよ、と考えながら給食を睨みながら食べ始める。



 

「あれ? 双葉、ケーキは?」



 

キョトンとした目で私を見てくる。


 

声変わりをする前の少し高めの声で。



 

「あー、あげちゃった! ま、いいんだけどねー」




「でも双葉、甘いもの大好きじゃん」


 


少し悪いが、あの女子に聞こえるかもしれない恐怖に駆られた。


 

そこはツッコミせんといてくれー!と願う私。


 


「あ、そうだ! 俺のを半分こしよう! これで二人とも食べれる! 多分俺、天才……」


 


なんとも言えないドヤ顔に思わず笑ってしまう。


 

何故かわからないが、あの女子に心の中で感謝をしたのだった。



一旦ここで現実に戻らせてもらう。


 

結論……たぶんー、そういう不器用な優しさ?を好きになったんだな!うん!


 

このままだと、大人になっても彼氏が出来なさそうだ。

 


カバンを持ち、拓海と帰り道を歩く。


 


「拓海は、彼女とか作らんの?」



 

さりげなく聞くことが重要だ。


 


「あー、うーん、作れないというか、まぁ。……好きな子はいるんだけどなー。関係が壊れるくらいなら、このままの方がいいのかなーとか思ったりしてなかなか」


 


しばらく声も何も出てこなかった。


 

時が止まったように。


 

好きな人、いるんだ……。


 

それじゃ、今度から関わらない方がいい、のかな。


 

その子に勘違いされたら悪い、し……。


 

本当に好きなら、拓海の幸せを願わなきゃ!


 


「あのー、双葉?? 生きてる?」


 


今は、私の顔を覗き込むその顔が憎らしい。


 

好きだけど、見たくない。


 

見られない。



 

「あっ、生きてる! 拓海、告ったら? そんなんじゃ、いつまでも進まずに他の男に取られちゃうよ? 拓海ならいけるよ! モテ要素しかないんだからさ?」


 


失敗した。


 

なんでこうも素直になれないんだろう。


そんな私が憎らしい。


 

思ってもいないことが、口から沢山出てくる。


 

告白しちゃだめ。



私を見て。



私の方が長く一緒にいたのに。



その子、他の男に奪われたらいいのに。



これが本音。


 

でもこれ、最低すぎでしょ……。


 


「えっ、あ、いや。ふた、ば? そうじゃなくて……」



 

こんな顔、見たことない。


 

拓海は、耳まで赤くして、蕩けそうな目をしていた。


 

好きな子の話をする時、こんな感じなんだ。



初めて“友達”の顔ではなく、“男子”の顔を私の前で見せた気がする。




「実は俺、ずっとす―――」




「私もね! 好きな人いるの! その人のこと考える時って楽しいよねー。私も頑張るし、拓海もファイト!」




嘘、ついちゃった…………。


 

いつも明るい拓海が、下を向く。



下を向きたいのは、私の方だよ。



だって、いきなり失恋したんだから。




「ねぇ、好きな人って、誰? 俺よりもいい奴? どこが良かった? 顔? 性格? 教えてよ。今から見に行ってあげるから」




ジリジリと私に詰め寄ってくる。



どういう、こと……?



無機質で、どこか暗い目をしている。



口は笑っているはずなのに、笑っていない。


 


「え、性格だって優しいし、全部好き、だけど」




もう何を言ったらいいのかわからない。



素直に答えることしかできない。


 


「へー、そうなんだ? ねぇ、俺も優しいよね? 俺の方がずっと、ずっと双葉のこと好きだったんだよ? 今までどんだけ理性が飛びそうになってたか分かってた? なのに、横から知らない男に取られるなんて笑っちゃうよね。それなら強引にでも振り向かせればよかった……」




え……。



考えてるのも束の間。



拓海の美しく整った、なめらかそうな唇が近づいてくる。




「え、え、え、あっ―――」




ギュッと目を瞑る。


「はぁ、何で目を瞑るんだよ。だめだよ、そんなことしちゃ。変に期待しちゃうから。相手が俺で良かったな」




え?キス、しない、の?



してもよかったのに。




「拓海、なんでしなかった、の?」




「……は? 好きな男いるやつにできるかよ。好きだからこそ無理なんだよ……。あっ、今度から勘違いされねーように、あんま近寄らないでおくな」


 


寂しげな背中が、黄金色をした夕日に向かって歩いていく。



このまま何もしないと、関係が終わってしまう。



そんな予感がした。



行かないで。


好きだよ。



お願いだからどこにも行かないで……。



置いていかないでよ。



言葉にしたいのに、喉につかえて出てこない。



でも!



無理やりでも言わないと……!



両手で、頬を思いっきり叩く。



そして、息を吸う。




「拓海! 待って! 私が好きなのは、ずっと好きだったのは拓海なの! 好きな人は紛れもなく浅木拓海!」




精一杯の声で叫んだ。



過去一大きな声、出したかも。



今までの不安が一気に吹き飛んで、安堵に包まれた。




「………え?……俺はバカだな。ついに幻聴まで」




蚊の鳴くような声で、ぼそっとあり得ないことを言った気がする。



いや、確実に言っていた。


 

え、私結構勇気出したよ?



なんで伝わらんの?



ま、拓海だからなー。




「浅木拓海! なーに言ってんのよ! 私が好きなのは! 初恋だったのは! 浅木拓海あなただけです! 幻聴じゃなくて、私の声だよっ!」




去ろうとしていた拓海が、ゆっくりとこちらに体を向ける。



拓海の瞳孔が開いたのがわかる。



そして、目には塩水が溜まっていて、今にも溢れ出てきそうだ。


 


「ほんと、に……?」




立ち止まったままの拓海に、歩幅を大きくして近づく。




「ほんと! お互い両思い!だよね?」




「お、おう…………っ」



拓海は、どこか安心したような表情で、柔らかく微笑んだ。



それと、ほんの少し照れくさそうに。




「……え、待って。俺、すごい恥ずかしいことしたんじゃね? 詰め寄ったり、キスするふりしたり。あぁーー! あれは忘れてくれ! その、本音が溢れ出したというか、好きすぎてみたいな! まじごめん!」


 

 

顔を赤くなりながら、どんどんと発言が追加される。



口は災いの元、というやつだろうか。




「なんか、自爆していってるよ??」




笑いながら言うと、拓海はガーンという、漫画に出てくる文字が今にも現実世界で出てきそうな感じだった。




「まじか。ま、そんだけあれってことよ。あれ」



 

私の目を全く見てはくれない。



心はこっちに向いてくれているはずのに。




「あれ、って?」




少しイジワルをしたくなる。



拓海の照れ顔、もう少し見たい。




「………双葉のことを本気で好きってこと」




耳元に吐息がかかる。



唇が近い。



声が脳に直接響く。



低くて、重い声。



顔に熱が集まる。




「…………はぃっ」


 


恥ずかしすぎるのと、嬉しすぎるのとで声が小さくしか出てこない。



こんなの、反則でしょ。



逆に照れちゃったじゃん。


 


「双葉、照れててかわいい」


 


「別に、かわいくないしっ! あ、でも、ありがとっ! 拓海の方こそ、かっこいい、よ!」


 


こんな会話を繰り返しながら、夕陽が沈んできた帰り道を歩くのだった。

お忙しい中、読んでくださりありがとうございます。

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