隕石
ねえねえ、もし明日隕石が降ってくるとしたら何がしたい?
西に傾き始めた太陽は、周りを囲む山々の向こうから顔をのぞかせている雲を、確かに照らしている。まばらにある緑の田んぼはため池から引かれた水で満たされ、陽光を反射しきらめいている。中にはオタマジャクシやエビのようなものが泳ぎ、若鷺が首をもたげて覗きこむ。水の無いひび割れた田んぼには、枯らされた草が力なく横たわり、崩れ去る日を静かに待っている。ところどころ土が覗く、細く狭いアスファルト道を先に行く制服の少女、U子は、いつもと変わらない、楽しげな声色で聞いてきた。
私はねえ、xxちゃんと一緒にお菓子パーティーがやりたいな。
彼女は、あぜ道のふちに生えていた綿毛の、萎んだそのひと欠けをつまみとり、行く先を定められた流水に向けてポロポロと落とした。良いことをしたと言わんばかりの様子で立ち上がった彼女の、衣替えで露わになった腕は陶磁のように細やかで、首筋には幾本かの髪がぺとりと貼り付いている。昔はこれほど暑くなかったなどと言うが、ほとほと関係のない話である。
彼女は、小さく飛び跳ね、丁寧に結われた艶やかなおさげを翻しながら振り返る。大げさに腕と足を動かし、動きほど大きくないローファーの音を響かせながら後ろ歩きを始める。
クッキーにショートケーキにマカロンに、それからxxちゃんの好きなモンブラン。
親指から薬指まで折りたたんだ彼女は、視線を上げる。眩しさに少しだけ目を細めた彼女の真珠のような瞳には、私の輪郭が黒く映っている。立ち止まって、残った小指をこちらにピシリとさして言う。
でも、やっぱりxxちゃんと一緒なら何をやってもいいかな。
ふたつの影が道の先へ伸びている。彼女は影を不格好に暴れさせながら前を向きなおし、おさげとスクールバッグをパタパタと揺らしながら小走りで掛けた。私の足元から伸びる影の先へ辿り着くともう一度振り返る。空いた距離を埋めるように少しだけ声を張り上げ、
xxちゃんは、明日隕石が降ってくるとしたら何が
U子が目の前で潰れた。空は赤みを帯びて、雲は肩のあたりまで姿を見せている。街灯は点滅を始め、カラスの群れが騒がしく山へと飛び去って行く。道の端では棒に括りつけられたカラスとスズメの模型が風に揺られている。たんぽぽの綿毛は萎んでいて、まわりのクローバーたちに申し訳なさそうに首を垂れている。
いつもと変わらない日常である。足りないものはひとつだけ。
私の影の肩のあたりに何か孔がある。ひび割れ、何かに押しつぶされてできたような。あたりの地面のアスファルトは暗く濡れ、見覚えのない大小さまざまな欠けらが散っている。
月明かりの代わりに地面を照らす街灯に、薄汚い羽虫がパチパチと音を立ててぶつかっている。鉄さびの匂いがあたりを包み込む。しゃがみこんで細長いひと欠けをそっとつまみとる。それはまるで先ほどまで温かさを持っていたかのような美しさをもっている。先端のつやつやとした硬い部分をそっとなぞる。口元へと運び、そっと口を付ける。やわらかい根元を選び、嚙みちぎる。丁寧に咀嚼し、舌で転がし、ゆっくりと嚥下する。少しずつ、確実に、欠けらを飲み込んでいく。
「私も、U子と一緒だよ。」




