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【和風NL】忌み鬼に嫁いで山に登ります  作者: 夕凪 瓊紗.com
鬼塚家と飴山

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【8】鬼塚家

鳴砂のお母さんの名前を修正しました



――――ゆさゆさと優しく揺らす感触にうっすらと瞼を開く。


「雛、雛」

「あう……おにい……ちゃん」

「え……?」

しかし目の前で驚く顔の輪郭が段々と見えてきてハッとする。


「ご、ごごごごごめんなさい!紅鳶さん!私寝ぼけていて……」

目の前にはきょとんとする紅鳶さんの顔があった。


「いいよ、ほら。おいで。ゆっくりね」

「は、はい」

しゃべり方も、声も……声変わりしているとはいえ似てる。どうしてこんなにも。


「それでうちの寝坊助は?」

氷雨さんが馬車の中を覗き込む。


「なず兄、着いたよ」

陸璃くんが鳴砂をゆさゆさと揺らせば眠そうにしながらも水色の瞳が目を覚ます。


「んー……着いたのか?」

「そうだよ。ほら早く」

「ふぁ~~、分かったよ……氷雨、手」

「ほら」

「ん」

氷雨さんに引っ張りだされるように鳴砂が馬車を降り、一華と陸璃くんも降りてきた。

周囲では荷物を下ろし始めており、多くの鬼や人間の女性が見える。彼女らは鬼に嫁いだ女性たちか。


その中でこちらに向かってくる男女の姿にハッとする。男性の方は黒髪に水色の瞳、黒い角。鳴砂に良く似ている。


「お帰り、鳴砂。無事に務めを果たしてきたようだな」

「ああ、父さん」

やっぱり鳴砂のお父さま。


「お帰りなさい、顔を見られてホッとしたわ」

鳴砂に微笑みかけたのは白い髪、金色の瞳、白い角。珍しい女性の鬼である。

「ああ、ただいま。母さん」

「ええ」

鳴砂のお母さまは鳴砂を優しく抱擁する。

鬼塚家に嫁に入れば、夫と共に鎮命山の儀に臨む。我が子が次代の忌み鬼に選ばれればそれを見送らなければならない。

その母としての葛藤がこの抱擁に全て含まれているように感じる。


「陸璃もお帰りなさい」

「うん。母さん、父さん」

「ははっ。お前も一段と逞しくなって」

鳴砂のお父さまが陸璃くんの頭を撫でる。そしてお父さまとお母さまが今度はこちらを見る。


「まだ顔合わせも済まないうちに送り出しちまったからな」

「ああ。父さん。そして母さん。彼女は無事に花嫁の役割を務めてきた。俺の花嫁の雛だ」

「よ……よろしくお願いします」

儀式を終えてきたとはいえ、歓迎してもらえるのだろうか。


「ああ、鬼塚家当主篝流(かがる)だ」

「当主夫人の白那(しろな)です。気軽にお義母さまと呼んでね」

「それなら俺だってお義父さまがいい」

「まぁ、篝流さんったら」

お義母さまがクスクスと笑う。私にとってのお母さまは幼い頃に他界しているしお父さまは父親らしいことなんて何一つしてくれなかった。


だから嫁いでお義父さまとお義母さまが出来ると言う感覚は不思議なものである。


「さ、みんな。中に入って。それと雛ちゃんの部屋と夫婦の寝室も用意して待っていたのよ」

「あ、ありがとうございます!」

しかし……夫婦の寝室?


「今夜からは一緒だな」

鳴砂が嬉しそうに笑む。その……夫婦の寝室って一緒に寝ると言うことでは!?確かに花嫁に必要な儀式は終えたけど!


「ふふっ。微笑ましいですわね」

「夫婦喧嘩するなよ」

一華と陸璃くんまで。


「しないって」

鳴砂がクスクスと苦笑しながら告げる。うん……私もお義父さまとお義母さまのような仲のいい夫婦になりたいと思ってる。鳴砂となら出来ると思うのだ。


「でももしもの時はぼくの部屋に来てもいいから」

「陸璃くん!?」

「私も歓迎いたしますわ」

「一華まで」


「大人気のようだね」

紅鳶の言葉に鳴砂が微妙そうな表情をする。

「お前ら、一応新婚だってこと忘れてないよな?」

その言葉に周囲から温かな笑みがこぼれる。


初めての鬼塚家。緊張がほぐれるように温かい。ここでの新たな暮らしもどうにかやっていけそうだと感じた。


※※※


鬼塚家の私室に案内されれば簡易な机や調度品など、必要なものが用意されている。


「そう言えば雛さま」

「一華?」

着替えの衣などを用意してくれた一華が問うてくる。


「ご実家からのお荷物は大丈夫ですか?お迎えに上がった時は特にお持ちではなかったようですが」

「その……着古した着物くらいしかなくて」

後は鬼鳴村に向かうための地下足袋くらいだがあれももうボロボロなものだ。

「私が嫁いだことで私の私物は既に捨てられているかもしれない」

「まぁ、何てこと。衣はこちらで用意しますからご心配されないでくださいませ。それから欲しいものがあれば用意いたしますから」

「そ……その、ありがとう」

「いいえ、当然のことですわ」

柊木家にいた頃とは何一つ違う。


「湯浴みの準備が出来ましたら及びいたします」

「うん」

柊木家にいた頃はそれも私の仕事だったのに。ここでは違うのだ。

登山は大変だったけどこんなにゆったり出来るなんて新鮮でまた眠たくなってしまいそう。


※※※


――――side:美百合


その頃、雛がいなくなった柊木家では。


「ちょっと、洗い物がまだたまってるじゃない!」

美百合が怒鳴る。その後ろでは水面が泣きじゃくっているが美百合はお構いなしである。


「だからって誰がやるのよ、私は嫌よ!」

後妻が叫ぶ。


「お前は私の妻なんだから自分でやったらどうなんだ!」

「何ですって!?」

「そのための妻だろう!家のことくらいやれ!」

「知らないわよ!嫁いだら好きに遊んで暮らせると思って嫁いだのに!家事をさせられるなんて聞いてないわ!そうだ……今まではあの女の娘がやっていたのだから、美百合」

「な……何?お母さま」

「あなたがやるのよ美百合。洗い物も炊事も湯の準備も掃除も!」

「い……嫌よ!私そんなことやらない!」

美百合はバタバタと柊木家を後にする。


「何で……何でよ!やっと邪魔な雛がいなくなったと思ったら何で私が家事をやらされないといけないの!?」

そして美百合は鬼目家の門の前までやって来た。


「薙斗さまなら……!」

美百合がニッと頬を吊り上げる。


「ここなら私のお世話をする使用人もたくさんいるはずよ!私はお姫さまになれるのよ!やっぱりあんな家、早く出るべきだったのよ!」

美百合はこうして鬼目家の門を叩いた。


※※※


――――鬼塚家


いつもと違う天井、匂い。しかし安心させてくれるのは隣の温もりのお陰だろうか。


「……んん……雛、起きたのか」

「うん、鳴砂も」

「ああ、おはよう」

「おはよう、鳴砂」


「おはようございます、お二方。雛さまはお着物のお支度を」

「一華!おはよう」

どうして起きたタイミングが分かるのだろうか?

鳴砂の元にも鬼たちが集まり着替えを手伝っている。


「あの……一華、私はひとりでも」

「なりません。これは私たちの楽しみでもあるのですわ」

「へ……っ!?」

一華に隣の部屋に引っ張って行かれれば、他の女性たちが待っている。みな人間である以上花嫁として鬼塚家に来たのだろう。


「さぁ、着付けますわよ!」

「楽しみですわ」

「鳴砂さまの花嫁さまですもの」

「目一杯飾り付けなければ!」

一華の言葉を皮切りに彼女たちが目を輝かせる。


「いや……その」

彼女たちの勢いに呑まれるがまま着せ替え人形状態だ。


「最近は襟元にレースをあしらったデザインが流行っていますのよ」

一華が教えてくれる。そう言えば美百合がよく自慢してきていたっけ。

「下は袴にいたしましょうか?動きやすくて流行りの色を用意いたしました」

「う、うん」

美百合はあまり袴を好まなかったが、私は動きやすい方が好みかも。

鎮命山の山登りを経て得た感想である。


「さて、次は髪ですわね」

「どんな髪型にしましょうか」

「やはり凝ったものが……」


「いやその、普通のでいいです!」

「では簪を豪華にいたしましょう!」

そ……そう言うことではなく。あ、それとも……。


「鳴砂はそう言う方が……好き?」

その時一華たちがハッとする。


「鳴砂さまの好みでしたら……」

一華が考え込む。


「こちらの夏の花をあしらった簪にいたしましょう」

花も小ぶりなもので控えめなデザインだ。


「うん、それがいい」

「それでは」

髪をアップにしてもらい、簪を着けてもらう。これで鳴砂も喜んでくれるだろうか?


ドキドキしながら部屋を出てみれば既に支度を終え氷雨さんや紅鳶さんと話している鳴砂の姿が見える。


「雛。袴姿も似合ってるじゃないか。それに……」

鳴砂が簪に気が付いたようだ。


「簪、似合ってるよ」

「う……うん!」

この簪にして良かった。鳴砂に褒めてもらえてドキドキがさらに高鳴るように嬉しい。

改めて一華に感謝しないと。


「さ、朝食に行こうか」

「うん」

あの時と同じように鳴砂の手を取れば、変わらぬ温かさがそこにある。



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